ひねもすのたりにて

阿蘇に過ごす日々は良きかな。
旅の空の下にて過ごす日々もまた良きかな。

名も知らぬ駅に来ませんか -5-

2008年05月19日 | 「名も知らぬ駅」に来ませんか
「20リッターのポリ缶持って買いに行くんだけどさぁ、これが同量のガソリンより安いんだもんね。」
たしか、この話は2度めだったような気がするのだが、
マキちゃんは卒のない様子で、
「へ~っ、安いんだねえ。」としきりと感心している。

Nさんは、仕事の関係で、2年ほどメキシコに行っていたらしい。
「グアダラハラの近くにテキーラ村っていうのがあってね、ここでできたのだけがテキーラって名乗っていいんだ。」
そのテキーラ村に、直接テキーラを買いに行ったときの話である。
20リッターのポリ缶で酒を買いに行くなんて、わたしにはどうにも考えられない。

Nさんは、わたしの店でもテキーラ専門である。
最初はメキシカンスタイルで、と言って、軽く塩をつまんで口に放り込み、
半分に切ったライムを、手で直接口に搾って、テキーラを生のままキュッと飲む。
いかにも胃を悪くしそうなスタイルの飲み方である。

そういうNさんも、メキシカンスタイルは最初の1杯だけで、後はカクテルである。
最もポピュラーなテキーラのカクテルであるマルガリータがお好みで、
ほかには、テキーラ・サンライズや、フロ-ズン・ブルー・マルガリータなど、
テキーラベースのカクテルを、
「ほかに、なんかないの?」と言ってはわたしに作らせる。

Nさんは、私の店に来ると、帰国して3年ほどになるメキシコの話をよくする。
実は、Nさんの奥さんは、メキシコ滞在中に、
やはりメキシコ滞在中の日本人商社マンと、理無い仲になり、
奥さんが、Nさんを置いて日本に帰国したりと、相当面倒な状況があったらしく、
結局、奥さんは、その商社マンと一緒になり、
Nさんはその後、現在小学2年生になる一人娘と二人で暮らしている。

マキちゃんが引けた後の、わたしと2人きりになった店で、
Nさんは、打って変わったように沈んだ顔つきで、そんなことをわたしに話してくれた。
今夜のように、わたしの店に飲みに来るときは、別れた奥さんの妹さんがNさんの娘さんを預かってくれるそうで、
わたしのような者には、そこら辺の事情がよく分からない。
今の時代に、姉の贖罪のために、別れた義兄の娘を可愛がるということもあるまい、と思うのだが。

Nさんにとって、メキシコの2年間はなんだったんだろうと、
わたしは、Nさんのメキシコの話を聞く度にそう思わずにはいられない。
テキーラの話や、チチェン・イツァの遺跡の話など、
わたしの店で飲むとき、メキシコの話題は尽きない。
やはり、いまだに別れた奥さんのことが忘れられないのだろうか。
もし、いまだに想い続けているなら、その妹と行き来があることはむしろ苦痛ではないのか、と要らぬ心配をしてしまう。

今夜は、Nさんがはじめて女性と二人きりで、わたしの店に来た。
カジュアルだがセンスのいい服装の、利発そうなNさんの連れに、マキちゃんは興味津々のようだったが、
例によって、Nさんのメキシコの話に好奇心をはぐらかされていた。
ふとしたときに、わたしを見たときの、Nさんの問いかけるような視線で、わたしには、その女性が誰であるか想像がついた。
Nさんが、新しい一歩を踏み出したのだろうか、わたしの想像はそんなところまで発展していった。

雑念を振り払うように、わたしはNさんと連れの女性の前に、
「蒸し鶏の燻製です。お口に合いますでしょうか?」
地鶏の胸身を3種類ほどのハーブと塩、こしょうをまぶし、2晩ほど冷蔵庫にラップに包んで寝かしたあとに蒸し、
蒸し上がったら、中に軽くゆがいたグリーンアスパラを巻き、たこ糸で丸く整形したものを、中華鍋で簡易燻製にする。
1cm厚くらいに切って、そのまま食べても、わさびマヨネーズを作って、それに付けて食べてもよしのつまみである。

Nさんの連れの女性は、テキーラ・サンライズ、
テキーラとオレンジ・ジュースをステアした後、グレナデン・シロップを沈めて、飾りはオレンジスライスとチェリー。
伝説のロックバンド、ローリングストーンズのミック・ジャガーが愛飲したと言われるカクテルである。
「とってもおいしいです。」
蒸し鶏の燻製に箸を付けた彼女は、わたしににっこり微笑みかけてくれた。
静かに、だが幸せそうに、テキーラサンライズを口にする整った横顔を見ながら、
わたしは、Nさんの娘さんは、今夜はどうしているのだろうと、場違いなことを考えていた。

Nさんの連れの女性が誰か知りたい、
いやいやそれは分かっているから、一度でいいからその女性に会ってみたいですって。
多分それは適わないでしょうが、
それでもよければ、一度名も知らぬ駅に来ませんか。

※この話及び登場人物も基本的にはフィクションです。
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竹の子を如何に食べるか?

2008年05月17日 | 酒と料理と
竹の子をいただいた。
米を研いで、そのとぎ汁でゆがいたまではいいが、はて、どうやって食べよう。

柚味噌に和えて、庭の山椒を刻んで混ぜて食べるか。
胡麻油に豆板醤、醤油と砂糖で炒めて、中華風きんぴらにするか。
わかめと一緒に炊いて、若竹煮にするか。
薄味に煮付けて、たっぷりのカツオを混ぜて、山椒の若芽を散らすか。
それとも簡単に、カリッと天ぷらにするか。

う~ん、よしっ、今日は竹の子の味はちょっと犠牲になってもらおう。
その代わり、食感をいただくことにする。
竹の子の根っこの方をみじん切りにする。
グリーンボールもみじんに切って、豚肉のミンチを混ぜ、馴染むまで捏ねる。
味付けは、塩だけでいいや。胡麻油を隠しに少し垂らしておこう。
これで中味はできあがり。

次は皮を作らなくっちゃ。
中力粉があるからこれでいいか。
塩少々を加え、お湯で小麦粉をとくが、少しずつしないと失敗するんだな。
さて腰の強い皮を作るには労を惜しむなと、こねに捏ねる。
できたら、ラップに包んでしばらく(30分ほど)寝かせて、その後棒状に伸ばし、カットする。
短めの麺棒で、これを丸くしていくが、少々いびつでもかまわないや。
以上で、餃子の皮が完成。

先程の中味を包んで、トレイに並べていく。
後は焼きだが、こいつで餃子の善し悪しも変わるってもんです。
こんがり焼き目は、最初でなく、最後につけることにする。
フライパンに油をしき、餃子を載せる、少し焼いた後に水を入れて蒸し焼きにする。
しばらく中火で蒸し、そろそろいいと思ったら、水を捨て、胡麻油を入れて焼き目をつけよう。
パリパリ感がないと、焼き餃子らしくないからなぁ。

さて、これに合う酒はなんだろう。
紹興酒?ないなぁ、我が家には。
そう言えば、黒龍の吟醸垂れ口が、冷蔵庫の野菜室で眠っている。
そろそろ開け時だし、あのコクなら、餃子にも負けまい。

黒龍は福井県の酒で、全国的に有名な酒蔵だが、
年1回出す、吟醸垂れ口は、瞬く間に売り切れるほどの人気酒である。
買ってすぐ飲むのもいいが、冷暗所でしばらく寝かせてから飲むのもまたいい。
薄くにごりの入った垂れ口と、カリッと焼き上げた餃子。
あ~、極楽極楽。
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歯磨木

2008年05月16日 | 旅の空の下
歯磨木という木がある。
といっても私が命名した、ローカルというか、プライベートな極々限定名である。
東アフリカのタンザニアで愛用していたその木の名前を私は知らない。

もちろん私は、歯ブラシも歯磨き粉も持っている。
しかし、歯磨木も出かけるときは必ず1本持って行く。
なぜなら、歯磨き粉で磨けば、口をすすぐ水がいるが、歯磨木にはその必要がない。
鉛筆大の枝の皮の部分を削って、切り口のところで歯を擦るのだ。
水なんか必要ない。

1本の歯磨木があると、切り口を次々切っていけばいいので、歯ブラシほどにも長持ちする。
田舎の方の住民は、歯ブラシなんか使わない。
歯磨木があれば虫歯なんかにはならない、と固く信じている(かな?)

歯磨木の唯一の欠点は、迂闊に移動中のバスの中でなどで使った日には、
バスの揺れで、歯茎まで擦ってしまうことだ。
「ぐぅっ・・・。」と呻きたくなるくらい痛い。
どんなに暇をもてあましても、乗り物の中で使うのは止めたがよい。

そんな訳の分からない木で、本当に歯がきれいになるかって。
食後の庭で、無心に歯磨木で歯を擦っている大の男を見ると、
とてもその効用を疑う気にはならない。
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名も知らぬ駅に来ませんか -4-

2008年05月15日 | 「名も知らぬ駅」に来ませんか
一人静かにドアを開けて入ってきたKさんが、カウンターに着くのを待って、
「Sさんから電話がありましたよ。今日はKさん来てますかって。」
とマキちゃんがおしぼりを渡しながら、微妙な視線をKさんに送った。
「そう。」と、手を拭きながら、素っ気ないとも思える返事をKさんは返した。

Sさんが始めて店に来たのは、Kさんに連れられてのことだった。
30歳前後のSさんと、40代半ばのKさんの組み合わせは、
マキちゃんの好奇心がかき立てられる要素を十分備えていて、
それが、今の伝言に添えられた視線の意味でもあった。

SさんとKさんが2人で来たのは最初の頃2回だけで、
その後は一緒に連れ立ってくることはないが、だからといって、Sさんが店に来なくなったということはない。
Sさんは、もの静かな女性で、時々友達を連れてきたりと、
新しいお客さんを、何人かわたしの店のお馴染みさんにしてくれた、店にとってありがたいお客さんである。

2人で来たとき、どちらかというと、Sさんの方はずいぶん親しげにKさんに接していたが、
Kさんの方は、突っ慳貪まではないが、いくぶん冷たい感じの接し方だった。
わたしやマキちゃん、ほかのお客さんたちに、変な勘ぐり方をされるのが嫌だったからじゃないかと、
その時のKさんの態度を、わたしなりに解釈しているのだが。
本当のところはどうなのか、二人の関係も含めて、わたしには量りようがない。

Kさんは、わたしに向かって「ダイキリ」を注文すると、
マキちゃんの方に顔を向け、
「で、Sさんにはなんて言ったの?」と、先程の話を続けた。
「来てないって言ったら、もし来たら自分が行くまで待ってて、と伝えて欲しいって。」
「ふ~ん、なんだろう。」Kさんは怪訝な顔でダイキリに口をつけた。

ダイキリは、キューバのダイキリ鉱山の技師たちが、ラムをライム・ジュースで薄めて飲んでいたことから命名されたと言われている。
ラムベースのカクテルで、シェイクするため、Kさんはわたしにオーダーしたのだろう。
爽やかで、ほどよい甘さがあって、古典的だが人気は高い。
Kさんの好みのカクテルは、ダイキリやマルガリータなどの系列のようだ。

KさんがSさんと一緒に来なくなって、1年以上が経過している。
その理由については、わたし達には知る由もないし、
いたずらに、お客さんのプライバシーに興味を持つべきでもない、と思っている。
ただ、マキちゃんは若いだけに、男女関係の機微には興味があるようで、
時々そういう振る舞いを見せるときがあるが、仕方ないかと、わたしは諦めている。

11時半を過ぎて、マキちゃんはいくぶん名残惜しそうに帰り支度を始めた。
まだSさんは店に来ていなくて、そのことに気持ちを残して帰るのが残念なのだろう。
マキちゃんが帰って、おおよそ30分後の0時過ぎに、Sさんは店に来た。
その頃、店にはKさん一人で、マルガリータを飲んでいた。
Sさんは、Kさんの手元にあるマルガリータを見ながら、
「私は、あなたにとってのマルガリータなのかな?」とつぶやいた。

もちろん、わたしはカクテルのマルガリータの由来を知っている。
それでも、Sさんの言葉はどちらの意味だったのだろうと、
思わずSさんの顔を見て、一人納得した。
Kさんは、視線をわたしの後ろのボトルの棚に向けたまま、黙っていた。

Sさんが言った言葉の意味ですって。
それをお知りになりたいなら、一度名も知らぬ駅に来ませんか

※この話及び登場人物も基本的にはフィクションです。
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テレビドラマ

2008年05月12日 | 日記(?)
仕事を辞めてから、日常生活の中で自分に課していることがある。
一つは、平日は7:30までには必ず起きること。
もう一つは、これも平日は、昼食時以外、夕食まではテレビを見ないこと。
要約すれば、ダラダラとした生活を送らない、ということに尽きる。

自然、本を読むことが多くなるし、
ほかにすることを見つけて、何かを始めることも多い。
このブログもそうか・・。

そんなテレビのことだが、
最近の番組には、昔ほどドラマが占める割合が、かなり少なくなっているように思う。
毎週ある、いわゆる連ドラは、今ひとつだけ見ている。
というより、ハマッている。

その連ドラは、「おせん」。
原作はコミックらしいが、読んだことはない。
わたしは、「美味しんぼ」を初め、料理ものにはからっきし弱いが、
なかでも「おせん」はいい。

料理をどんなものにするかという、その技は料理人の感性によるが、
生産者に作ってもらった恵みである材料と、どう向き合うか、
食べる人のことをどれだけ思い遣るか、
これは創る側の感性ではなく、思想であるといっていい。
そういったことが染み渡ってくるドラマである。
たかだかドラマと侮るなかれ。
同じもったいないでも、客の食べ残しを使い回すような、どこかの老舗料亭とは、天と地ほども思想が違う。

視聴率はあまりよくないようだが、
主人公、半田 仙の着物姿もまたいいので、
是非たくさんの人に見て欲しいと思っている。
それに、「おせん」の酒好きなところがまたいい。
久々に、毎週欠かさず見ているドラマができた。

そういえば、第2話で放送のあった、「鍋焼き味噌汁」を作ってみた。
かなりいける味だった。
具は、長ネギの刻んだものだけ。
皆さんお試しあれ。
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