迫真 地方の旗手(2)シアトルになれる
2016/2/2 3:30 日経朝刊
「既存の研究機関を地方に持ってくるのは反対もあって大変だ。
ならば、新しい研究機関を作ればいい」。1月14日、センサーなどを
製造する多摩川精機(長野県飯田市)の副会長、萩本範文(71)の声
が長野県庁の会議室に響いた。萩本は同県南部の飯田市を航空機産業
の研究拠点にする構想を持つ。萩本の呼び掛けに応じた信州大学は
2017年4月、航空機システムを研究する講座を同市に開く計画だ。
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多摩川精機の萩本副会長(右)は航空機産業の成長性を説いた(米シアトル)
14年には県知事の阿部守一(55)を伴い、米ボーイングのシアトル工場
(ワシントン州)を訪れた。「今ここで旅客機を注文しても納入まで8年
はかかる」。萩本は大きな機体を見上げながら、フル稼働でも生産が
追い付かず、納入待ち状態が続く航空機産業の成長性を阿部に訴えた。
多摩川精機から連なる精密加工産業の裾野が広がる飯田市。これまでは
「陸の孤島」とも揶揄(やゆ)されたが、27年に開業するリニア中央新幹線
の駅ができる予定で、東京は約40分、名古屋は約20分で行き来が可能になる。
「人の移動が格段に便利になる。飯田に研究拠点が集積すれば、隣接地域と
ともにシアトルになれる」
北海道の中央部、人口5000人弱の上士幌町に本社を置く畜産業のノベルズ
は15年末から、ベトナムへの牛肉輸出を始めた。ベトナム人が牛肉を食べる
ようになったのはここ数年のこと。社長の延与雄一郎(37)は「チャンスあり」
とみた。当初の月間輸出量は数百キログラムだが、16年中には1トン以上に
引き上げる方針だ。
同町の畜産農家で育った延与は高校卒業後に米国に留学。1年を過ごした
中部のネブラスカ州の牧場は淡路島ほどの広さで、肉牛5000頭を僅か5人
で世話していた。太った牛もいれば、痩せた牛もいて、「均質」には程遠い
状況だが、牧場主は気にも留めない。「費用をかけないところは一切かけない。
畜産は費用対効果ということをたたき込まれた」
延与は徹底した効率経営による「もうかる畜産」を追求し、9年前に2頭で
始めた牛の飼育数は今やグループで1万7500頭に拡大。年間売上高は100億円
を超えた。緒に就いたばかりのベトナム事業も環太平洋経済連携協定(TPP)
の発効を見据え、拡大を急ぐ考えだ。
地域発世界へ――。地方企業の経営者はグローバルに直接打って出ることで、
地域の成長を模索している。
(敬称略)
2016/2/2 3:30 日経朝刊
「既存の研究機関を地方に持ってくるのは反対もあって大変だ。
ならば、新しい研究機関を作ればいい」。1月14日、センサーなどを
製造する多摩川精機(長野県飯田市)の副会長、萩本範文(71)の声
が長野県庁の会議室に響いた。萩本は同県南部の飯田市を航空機産業
の研究拠点にする構想を持つ。萩本の呼び掛けに応じた信州大学は
2017年4月、航空機システムを研究する講座を同市に開く計画だ。
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多摩川精機の萩本副会長(右)は航空機産業の成長性を説いた(米シアトル)
14年には県知事の阿部守一(55)を伴い、米ボーイングのシアトル工場
(ワシントン州)を訪れた。「今ここで旅客機を注文しても納入まで8年
はかかる」。萩本は大きな機体を見上げながら、フル稼働でも生産が
追い付かず、納入待ち状態が続く航空機産業の成長性を阿部に訴えた。
多摩川精機から連なる精密加工産業の裾野が広がる飯田市。これまでは
「陸の孤島」とも揶揄(やゆ)されたが、27年に開業するリニア中央新幹線
の駅ができる予定で、東京は約40分、名古屋は約20分で行き来が可能になる。
「人の移動が格段に便利になる。飯田に研究拠点が集積すれば、隣接地域と
ともにシアトルになれる」
北海道の中央部、人口5000人弱の上士幌町に本社を置く畜産業のノベルズ
は15年末から、ベトナムへの牛肉輸出を始めた。ベトナム人が牛肉を食べる
ようになったのはここ数年のこと。社長の延与雄一郎(37)は「チャンスあり」
とみた。当初の月間輸出量は数百キログラムだが、16年中には1トン以上に
引き上げる方針だ。
同町の畜産農家で育った延与は高校卒業後に米国に留学。1年を過ごした
中部のネブラスカ州の牧場は淡路島ほどの広さで、肉牛5000頭を僅か5人
で世話していた。太った牛もいれば、痩せた牛もいて、「均質」には程遠い
状況だが、牧場主は気にも留めない。「費用をかけないところは一切かけない。
畜産は費用対効果ということをたたき込まれた」
延与は徹底した効率経営による「もうかる畜産」を追求し、9年前に2頭で
始めた牛の飼育数は今やグループで1万7500頭に拡大。年間売上高は100億円
を超えた。緒に就いたばかりのベトナム事業も環太平洋経済連携協定(TPP)
の発効を見据え、拡大を急ぐ考えだ。
地域発世界へ――。地方企業の経営者はグローバルに直接打って出ることで、
地域の成長を模索している。
(敬称略)