原油安止まらず
NY市場、一時36ドル台 新興国減速に追い打ち
2015/12/9 3:30 日経朝刊
原油相場が再び下げ足を速め、世界経済の波乱要因になってきた。ニューヨーク市場の指標原油は8日の取引で一時1バレル36ドル台に下げ、6年10カ月ぶりの安値をつけた。産油国の市場シェア争いは激しさを増す一方で、原油価格(総合2面きょうのことば)の低迷は長引くとの見方が多い。原油安は新興国通貨や資源株にも下落圧力をかけ、減速が鮮明な新興国景気を一段と冷やしかねない。
通貨が急落
米市場の指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は史上最高値(2008年の1バレル147ドル)の4分の1になった。アジア市場の指標のドバイ原油は8日に1バレル36ドルまで下げ、7年ぶりの安値を記録した。
下げ加速の契機は4日の石油輸出国機構(OPEC)総会。協調減産を探る国とシェア維持を優先する国との溝が埋まらず減産が見送られた。イラクのアブドルマハディ石油相は総会後「なぜOPECだけがシェアを犠牲にしなければならないのか。非加盟国もそうすべきだ」と述べた。
シェア争いはさらに激化しそうだ。イランは欧米の経済制裁緩和後に輸出を増やす腹づもりで、中国企業と大型の長期契約を結ぶ。その中国ではロシアとサウジアラビアがつばぜり合いをし、価格競争に拍車をかける。
先安観を強めた投資ファンドは原油先物への売りを増やし、1日時点の売り持ち高は17万枚(1枚千バレル)超と過去最高水準に達した。「荒い値動きは続き、WTIは30ドルまでの下げ余地がある」(みずほ銀行デリバティブ営業部の佐藤隆一氏)
原油安を受け、8日の外国為替市場では産油国通貨が軒並み急落した。対米ドルでカナダドルが11年半ぶりの安値、コロンビアの通貨ペソは過去最安値を更新した。第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミストは「通貨安で外貨建て債務が膨らみ、経済規模の小さいコロンビアなどで悪影響が出る」と懸念する。
欧米の株式市場では英BPや米シェブロンなど石油株の下落が目立ち、8日の米ダウ工業株30種平均は続落して始まった。日本市場も資源関連株に売りが先行した。
石油元売り首位のJXホールディングス株は4%安。原油安で16年3月期の石油天然ガス開発事業は8割の営業減益が避けられない。三菱商事のエネルギー事業の純利益は33%、三井物産は59%減少する。4~9月期の決算発表にあわせJXは通期のドバイ原油価格の予想を1バレル60ドルから53ドルに、三菱商事は65ドルから53ドルに見直したばかり。それでも実勢価格の急落に追い付かない。
社債市場では元利払いが滞るなどして債務不履行(デフォルト)を迫られる資源関連企業が続出。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズによると11月27日時点の世界のデフォルト件数は101と09年(268)以来の多さになった。その4割を石油・ガス、鉱業の資源関連が占める。
消費を刺激
深刻なのは産油国の財政だ。国際通貨基金は、世界最大の原油輸出国サウジアラビアが15年に国内総生産(GDP)比22%の財政赤字に陥ると予測。準備資産が5年内に枯渇すると警告した。
同様に財政赤字を見込むアラブ首長国連邦は国内向けガソリン・軽油への補助金を撤廃した。サウジなど近隣の産油国も補助金カットを検討。大盤振る舞いで国民の不満の芽を摘んできた中東の君主国は、緊縮に動かざるを得なくなった。
一方、原油安は先進国の消費を刺激する面がある。11月の米新車販売台数は同月として01年以来の高水準だった。ガソリン安が消費者の購買意欲を高めた。SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは「昨年9月から今夏までの資源安は世界のGDPを0.13%押し上げる」と、差し引きでプラスの効果があると試算する。
資源の多くを輸入する日本にも恩恵がある。みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは「中堅・中小企業は、円安より資源安の方が業績改善につながる」とみる。
NY市場、一時36ドル台 新興国減速に追い打ち
2015/12/9 3:30 日経朝刊
原油相場が再び下げ足を速め、世界経済の波乱要因になってきた。ニューヨーク市場の指標原油は8日の取引で一時1バレル36ドル台に下げ、6年10カ月ぶりの安値をつけた。産油国の市場シェア争いは激しさを増す一方で、原油価格(総合2面きょうのことば)の低迷は長引くとの見方が多い。原油安は新興国通貨や資源株にも下落圧力をかけ、減速が鮮明な新興国景気を一段と冷やしかねない。
通貨が急落
米市場の指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は史上最高値(2008年の1バレル147ドル)の4分の1になった。アジア市場の指標のドバイ原油は8日に1バレル36ドルまで下げ、7年ぶりの安値を記録した。
下げ加速の契機は4日の石油輸出国機構(OPEC)総会。協調減産を探る国とシェア維持を優先する国との溝が埋まらず減産が見送られた。イラクのアブドルマハディ石油相は総会後「なぜOPECだけがシェアを犠牲にしなければならないのか。非加盟国もそうすべきだ」と述べた。
シェア争いはさらに激化しそうだ。イランは欧米の経済制裁緩和後に輸出を増やす腹づもりで、中国企業と大型の長期契約を結ぶ。その中国ではロシアとサウジアラビアがつばぜり合いをし、価格競争に拍車をかける。
先安観を強めた投資ファンドは原油先物への売りを増やし、1日時点の売り持ち高は17万枚(1枚千バレル)超と過去最高水準に達した。「荒い値動きは続き、WTIは30ドルまでの下げ余地がある」(みずほ銀行デリバティブ営業部の佐藤隆一氏)
原油安を受け、8日の外国為替市場では産油国通貨が軒並み急落した。対米ドルでカナダドルが11年半ぶりの安値、コロンビアの通貨ペソは過去最安値を更新した。第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミストは「通貨安で外貨建て債務が膨らみ、経済規模の小さいコロンビアなどで悪影響が出る」と懸念する。
欧米の株式市場では英BPや米シェブロンなど石油株の下落が目立ち、8日の米ダウ工業株30種平均は続落して始まった。日本市場も資源関連株に売りが先行した。
石油元売り首位のJXホールディングス株は4%安。原油安で16年3月期の石油天然ガス開発事業は8割の営業減益が避けられない。三菱商事のエネルギー事業の純利益は33%、三井物産は59%減少する。4~9月期の決算発表にあわせJXは通期のドバイ原油価格の予想を1バレル60ドルから53ドルに、三菱商事は65ドルから53ドルに見直したばかり。それでも実勢価格の急落に追い付かない。
社債市場では元利払いが滞るなどして債務不履行(デフォルト)を迫られる資源関連企業が続出。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズによると11月27日時点の世界のデフォルト件数は101と09年(268)以来の多さになった。その4割を石油・ガス、鉱業の資源関連が占める。
消費を刺激
深刻なのは産油国の財政だ。国際通貨基金は、世界最大の原油輸出国サウジアラビアが15年に国内総生産(GDP)比22%の財政赤字に陥ると予測。準備資産が5年内に枯渇すると警告した。
同様に財政赤字を見込むアラブ首長国連邦は国内向けガソリン・軽油への補助金を撤廃した。サウジなど近隣の産油国も補助金カットを検討。大盤振る舞いで国民の不満の芽を摘んできた中東の君主国は、緊縮に動かざるを得なくなった。
一方、原油安は先進国の消費を刺激する面がある。11月の米新車販売台数は同月として01年以来の高水準だった。ガソリン安が消費者の購買意欲を高めた。SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは「昨年9月から今夏までの資源安は世界のGDPを0.13%押し上げる」と、差し引きでプラスの効果があると試算する。
資源の多くを輸入する日本にも恩恵がある。みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは「中堅・中小企業は、円安より資源安の方が業績改善につながる」とみる。