2002年1月13日(日)
ビッグ・ビル・ブルーンジー&ウォッシュボード・サム「BIG BILL BROONZY AND WASHBOARD SAM」(MCA/Chess CHD-9251)
1.LITTLE CITY WOMAN
2.LONESOME ROAD BLUES
3.JACQUELINE
4.ROMANCE WITHOUT FINANCE
5.BY MYSELF
6.SHIRT TAIL
7.DIGGIN' MY POTATOES
8.BRIGHT EYES
9.MINDIN' MY OWN BUSINESS
10.NEVER, NEVER
11.HORSE SHOE OVER MY DOOR
12.I'M A LONELY MAN
今週も「チェスで100枚」http://www.macolon.net/chess100.htm からの一枚である。
名曲「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」の作者としてロックファンにもおなじみのブルースマン、ビッグ・ビル・ブルーンジー(1893-1958)と、ウォッシュボード・サム(1910-1966)の共演盤。61年リリース。
録音は53年だから、ブルーンジーとしては最晩年の作品にあたる。
シカゴ・ブルースのボス、ビッグ・ビルと組んだウォッシュボード・サムとは、日本ではあまりおなじみではないが、文字通りウォッシュボード奏者兼シンガーとして、唯一無二の存在である。
本名ロバート・ブラウン(ウィスキーの名前みたいだな)、アーカンサス州の片田舎、ウォルナット・リッジ出身。
十代のうちはメンフィスで演奏活動を行い、22歳のときにシカゴに移り、ストリート・ミュージシャンをやる一方、ハミー・ニクスン、スリーピー・ジョン・エスティス、ブッカ・ホワイト、そしてビッグ・ビルとも共演するようになったという。
レコーディング歴は晩年までの30年余り。ブルーバード、ヴォカリオン、ビクター、スパイヴィーといったレーベルからレコードが出ている。
ふたりの、それぞれの歌をフューチャーしているのが、この一枚だ。
(1)は、ブルーンジー作、彼のギター&歌、リー・クーパーのギター、サムのウォッシュボード、ビッグ・クロフォードのベースという編成。ミディアム・テンポのブルースだ。
ブルーンジーのヴォーカルは、いわゆる「巧い」歌ではなく、一言でいえば「いなたい」という感じだが、そんな中にも、素朴な味わいがある。
サウンドの方も、エレキ・ギターを導入しているわりには、まだ戦前のカントリー・ブルースを思わせる、ひなびたムードのもの。
サムの歯切れのよい演奏が、ジャグ・バンドっぽい雰囲気を加えている。
(2)は同じ編成で、これまたブルーンジーのオリジナル。
メロウでレイジーな感じの、スロー・ブルース。
郷愁を誘うような、ブルーンジーの歌、そしてどことなくジャズ・フレーバーを感じさせるギター・ソロが実にいい。
(3)・(4)も同様のメンバーで、ブルーンジーの作品を。
(3)はミディアム・テンポで快調に恋人への思いをうたい、(4)ではちょっとエスプリのきいた歌詞で、やるせない恋を歌い上げている。
60歳を過ぎようが、男たるもの、異性を恋い慕う気持ちに変わりがあるわけではない。ブルースマンは、老いてもなお、男と女の機微をテーマとして、枯れることなく歌い続ける。
いいなあ、こういうの。
(5)はサムがブルーンジーの作品を歌った一曲。パーソネルはサムのウォッシュボードと歌、ブルーンジーのギターとコーラス、ビッグ・クロフォードのベース。メンフィス・スリムもピアノで参加している。
どこかラグタイム的なムードのメロディを歌うサムは、なかなか迫力のあるドラ声の持ち主。これまた、いい味出してるんですよ。ブルーンジーとのハモりも、息がぴたりと合ってます。
隠し味的に入るメンフィス・スリムのピアノ・ソロもカッコいい。
(6)はサムのウォッシュボード(とかけ声)と、リー・クーパー、ビッグ・クロフォードによるインスト。アップ・テンポのカントリー調ナンバ-で、サムの作品。
ウォッシュボードがはじき出すビートに、こちらも思わずノリノリになってしまう一曲だ。
(7)は、前曲と同じ編成で、サニー・ジョー・テリー作、アップ・テンポのロカビリー風ナンバーを、サムがワイルドに歌う。
たった三人、しかもドラムレスのシンプルな編成なのに、これだけゴキゲンなサウンドを作り出してしまうのだから、スゴい。
歌、演奏ともに、サムのリズム感の良さが光る一曲だ。
(8)も同じメンバー。スロー・テンポで、グルーミーな雰囲気のブルースを。サムの作品。
陽気な曲での豪快な歌いぶりもいいが、こういうダウナーな気分を歌わせてても、彼の説得力、存在感はなかなかのものだ。
(9)は再び(5)と同じ編成でサムのオリジナルを。ミディアム・テンポ、メンフィス・スリムの達者なピアノをフューチャーしたブルース。
スリムのソロにからむ、ブルーンジーのギター・プレイもシブい。コンポーザー、シンガーとしてだけでなく、ギタリストとしても彼の才能はもっと評価されるべきだろう。
(10)は、(6)~(8)と同じトリオ編成でサムのオリジナルを。これもロカビリー色の強い、アップ・テンポのナンバー。
ぶっきらぼうで、がなるような、サムの歌い方も、こういう曲にはうまくハマっている。
(11)は三たびピアノ入りの編成で、サム作の、スロー・テンポのブルース。
女に振り回される男の悲しいサガを歌うサム。豪快に歌いまくる反面、この手の「しみじみ系」の歌も、けっこう達者に歌いこなしているのだな。
(12)も同じ編成で、スロー・ブルースをもう一曲。サムのオリジナル。
(11)とはほぼ同工異曲、孤独な男の心情を淡々と歌って、一枚を締めくくってくれる。
こうやって聴いてくると、どちらかといえば、ウォッシュボード・サムの方を前面に出して、ビッグ・ビル・ブルーンジーはサポートに回っているという印象だ。歌にせよ、曲にせよ。
つまりは、後進のサムに、その歌いぶりを高くかっていたボス=ブルーンジーは、花を持たせた、という感じだろうか。
うるわしき、師弟愛と申しますか。
世代のことなる者同士も、それを媒介として力強く連帯することが出来るのが、ブルースという音楽。
ふたりのブルースマンの強い「絆」を、この一枚から聴きとってみてほしい。