2002年3月2日(土)
サニーボーイ・ウィリアムスンII「MORE REAL FOLK BLUES」(MCA/Chess CHD-9277)
1.HELP ME
2.BYE BYE BIRD
3.NINE BELOW ZERO
4.THE HUNT
5.STOP RIGHT NOW
6.SHE'S MY BABY
7.THE GOAT
8.DECORATION DAY
9.TRYING TO GET BACK ON MY FEET
10.MY YOUNGER DAYS
11.CLOSE TO ME
12.SOMEBODY HELP ME
67年リリース、「DOWN AND OUT BLUES」「THE REAL FOLK BLUES」に続く、サニーボーイ、チェスでの3枚目のアルバム。
60年から64年にかけての録音が一枚にまとめられている。
サニーボーイIIといえば、決してブルースの「王座」に着いたことはないものの、意外に支持者が多いことで知られるアーティストだ。
たとえば、雑誌「ブルース&ソウル・レコーズ」No.37(2000年12月発売)では、日本ブルース界の著名人たちに「最も感動したブルース曲」を上げてもらっているが、寄稿者24名中、なんと4名(高橋英明、永井ホトケ隆、萩谷雄一、安田明由の各氏)がサニーボーイの曲を上げており、彼が実に熱い支持を集めていることがよくわかる。
また、同じくBSRのNo.42(2001年10月発売)のチェス特集では、妹尾みえ、西垣浩二、江戸川スリム、安田明由の4氏による推薦盤20枚のうち、4枚がサニーボーイであった。
このように、クロウト筋に絶大なる人気をほこる彼の「魅力」とはいったい何か? この一枚を叩き台として検証していこう。
(1)は63年録音。前年のブッカー・T&MG'Sのヒット「グリーン・オニオン」を下敷きにした、ミディアム・テンポのオルガン・サウンドに乗って、サニーボーイのハープ・ソロがスタート。
この音がなんともいえずいい。ナチュラル・トーンで、心に沁みてくるという感じ。
バック・ミュージシャンもいい。オルガンのラファイエット・リーク、ギターのマット”ギター”マーフィらが、表には出ないがきめの細かいバッキングをしている。
続く(2)は一転、軽快なアップ・テンポで彼のハープを前面にフィーチュアしたシャッフル・インスト・ナンバー。同じく63年録音。
一節だけ発せられる、彼のおなじみのしゃがれたヴォイスも、楽器のひとつとして効果的に使われている。
(3)はスロー・ブルース。61年の録音。ここでソリッドなギター・ソロを聴かせるのは、ロバート・ジュニア・ロックウッド。ベースにはウィリー・ディクスンも参加している。
マーフィといい、ロックウッドといい、巧者ぞろいのバックも、この一枚の魅力のひとつだ。
(4)は、しゃっくりのような、あるいはオットセイの鳴き声のような奇妙な歌(?)をフューチュアした、このアルバム随一の珍曲。60年録音。
ハープをまるごと呑みこむようなアクロバティックな「技」をステージで披露していたというサニーボーイらしい、きわめつけの「色モノ」ナンバーだ。
(5)は正統派のブルースに戻って、まとも(!)な歌を聴かせてくれる。
オーティス・スパンのピアノがまたシブく、ハープ・ソロを見事に引き立たせるようなバッキングをつけている。
(6)は録音データ不詳の一曲。リラックスしたムードのミディアム・スロウ・ブルースで、サニーボーイは気持ちよさそうに歌い、思い切りハープをブローしている。
「これぞ、シカゴ・ブルース」といいたくなるようなナンバーが続く。(7)はミディアム・テンポのシャッフル。60年録音。
スパン、ロックウッド、ディクスン、そしてルーサー・タッカー、フレッド・ビロウという黄金のバックに支えられて、軽快に飛ばすサニーボーイ。確かに、こんなバンドで歌えれば気分はサイコーだろう。
ちなみに、タイトルのTHE GOATとは、サニーボーイの数多いニックネームのひとつだという。いわば、彼のテーマ曲なのであろう。
(8)はスロー・ナンバー。63年の録音。
ここでは弱冠27歳、若き日のバディ・ガイがギターで参加しているのに注目しよう。
かなり抑え目で、一聴してガイとわかるような派手なプレイではないが、基本をおさえた堅実なバッキングにはなかなか好感が持てる。
ちょこっとだけ彼らしいトリッキーな音を出してはいるが、それも歌を食わない程度におさえている。
(9)は(8)同様、ガイが参加した63年録音。ホーン・セクションも参加した分厚い作りのサウンドだ。
(10)も同じメンツによる、63年の録音。前の同様、ここでもガイはソロらしいソロをとらず、あくまでも黙々とバッキングに徹している。
(11)はウィリー・ディクスンの作曲による、重厚感あるブルース。本アルバム、この曲以外は全部サニーボーイ自身が作っているのだが、正直言って、「ワン・パターン」の傾向が強いことは否めない。
ひとことで言えば、メロディの魅力に乏しく「金太郎飴」的ブルースなのだ。
やはり、ブルース界の顔役、ディクスンの作る曲は、メロディがひと味違うような気がする。
64年の録音で、再びバディ・ガイが参加しているが、やはりディクスンの曲であることを意識してか、「スプーンフル」ふうのリフを弾いているのが、なにげに可笑しい。
かと思えば、唐突なオブリを入れたりして、ここでのガイは少し自己主張を始めたかのようだ。
シャープなギターのイントロで始まるアップテンポのシャッフル、ラストの(12)は(1)と一種「対」を成すような歌詞のナンバーだ。
こちらのほうが録音は古く、60年にスパン、タッカー、ビロウらとレコーディングしている。
ここでは、マジで助けを乞う、彼の切ないヴォーカルが、なんとも胸に迫ってくる。
その声はひどくしゃがれていてお世辞にも美声とはいえないし、上手い歌でもない。曲もワンパターン。
でも、その情感に満ちた歌声、ハープ演奏は、聴くものを底なしのブルースの世界に引きずり込む、サニーボーイの音楽はそういうものなのだ。
生きている間は、他人に後ろ指をさされるようなことも多かったというサニーボーイ。
ペテン師まがいのこともいろいろやったし、間男もずいぶんやったという。
決して誉められるような生き方ではないが、そういう諸々の人生の「澱」がたまって、ブルースという名の彼の酒は実に「濃い」味に熟成していった。
人格円満、品行方正な「優等生ミュージシャン」にはとても出せない味。「ブルース」がそれを歌う人の人生そのものとして感じられる。
どんなに歌がうまく、楽器がうまかろうが、聴くものを真に感動させるとは限らない。やはり、その「人となり」が感じられてこその「音楽」なんだなと思う。
初めてレコーディングしたのが50代というサニーボーイ。65歳で亡くなるまでわずか15年弱のレコード歌手生活だったが、そのタフな歌声、タフなハートは、死後40年近い現在でもCD上で生き続けている。
ブルースの「真髄」はここにある。四の五の言わず、聴くべし。