2002年1月20日(日)
ザ・ミーターズ「TRICK BAG」(Reprise/RHINO 8122-73549-2)
1.DISCO IS THE THING TODAY
2.FIND YOURSELF
3.ALL THESE THINGS
4.I WANT TO BE LOVED BY YOU
5.SUITE FOR 20 G
6.DOODLE LOOP(The World Is A Little Bit Under The Weather)
7.TRICK BAG
8.MISTER MOON
9.CHUG-A-LUG
10.HANG 'EM HIGH
11.HONKY TONK WOMAN
12.LOVE THE ONE YOU'RE WITH
13.WHAT MORE CAN I DO?
14.DOWN BY THE RIVER
15.COME TOGETHER
16.BIG CHIEF
ミーターズ、リプリーズでの4枚目のアルバム。通算では7枚目にあたる。76年リリース。
文字通りヒップなデザインのジャケット同様、中味のほうもなかなかごキゲンなアルバムである。
パーソネルは、アート・ネヴィル(vo,org)、レオ・ノセンテリ(g)、ジョージ・ポーター・ジュニア(b)、ジョセフ・”ジガブー”・モデリステ(ds)、シリル・ネヴィル(vo,congas)の5人。
69年結成時のオリジナル・メンバーは4人で、シリルのみ後に加入している。
実はこれ、もともとデモテープとして録りだめしていたものを、プロデューサーのアラン・トゥーサンとリプリーズが彼らに無断でリリースしてしまったという、いわくつきの一枚だそうである。
このこともひとつのきっかけとなって、ミーターズはトゥーサンと決別、いったん解散することになったぐらいなんである。
さて、オープニングの(1)は、タイトルが示すように、ストリングスや女声コーラスも加わったディスコ調のナンバー。5人の共作。
ミーターズとディスコ・サウンド、どう考えても合っているとは思えないが、オレたち流行りのサウンドだってできまっせ、という一種のショーケースと考えるべきなんだろう。なにせ、発売を考えずになされた録音なんだから。
ジガブーのプレイも、本来オン・タイムでかっちりキメないといけないディスコ・ビートにしっくり乗ってこない。タイム感覚に、かなりズレがあるようだ。
ま、お遊び感覚でさらりと聴く分にはいいのだが。
(2)は同じく5人の共作。ミディアム・テンポのソウル・バラード。アートのオルガン、メンバーの息の合ったコーラスが耳に心地よい。
(3)はナオミ・ネヴィル作とあるが、これはアートの一族郎党…ではまるでなくて、アラン・トゥーサンの変名だそーな。
ミディアム・スローのシブいバラード。アートがソロ時代に歌ったものの再演。彼のリキみのない、自然体のヴォーカルがなかなかの好演である。
(4)はミーターズお得意のファンク・ビート(「シシー・ストラット」系といえばいいのかな?)がカッコいいナンバー。全体にスカスカな音作りが、逆に「粋」な感じなのだ。
デモテープゆえ、あまり練り込まずに、さっさと録ってしまったというのが、むしろよかったのか、5人のリラックスしたプレイが楽しめる。
(5)は白人シンガー、ジェイムズ・テイラーの作品。名盤「SWEET BABY JAMES」所収のナンバーをインストでカバー。
ききものはノセンテリの、ウェス・モンゴメリーばりのオクターブ奏法。
彼はもともと、ジャズから入り、ウェスやジョージ・ベンスンがアイドルだったというから、別に不思議なことではないのだが、ちょっとビックリ。
後半はジャズィなフレーズから、ふだんのファンキーなプレイへとシフトしていく。これまた面白い。
(6)はシリルがリード・ヴォーカルをつとめるファンク・ナンバー。ノセンテリとトゥーサンの共作。
実をいえば、ミーターズが最初に所属したレーベル、ジョシーでもこの曲をアートの歌でシングルとしてリリースしている。その再録音というわけだ。
シリルはここで、アートの枯れたヴォーカル・スタイルとはまたひと味ちがう、ヴィヴィッドで粘っこ~い歌を聞かせてくれる。
とにかく、この手の曲は、リズム・セクションの音を聴いているだけで、体も自然と動き出し、ノリノリな気分になれるんだよなー。
お次はタイトル・チューン、(7)。いうまでもなく、先日来日した大御所ブルースマン、アール・キングの名曲。
tbのグループ名の由来でもあるナンバー、ここではミーターズ流のファンキーなリズム・アレンジ、そしてソウルフルな歌が光っている。
キング自身、ちょこっと声で特別出演しているのも、ミソだ。一聴の価値あり。
(8)は5人の共作。ポーターの重量感あふれるベース・ラインが秀逸な、ミディアム・テンポのナンバー。
本作の場合、各メンバーの演奏能力の高さはあえて誇示せず、楽器のソロは極力抑え、「うたもの」に徹しているという印象がある。それでも、彼らのプレイのスゴさは、十分伝わってくる。
(9)も5人の共作。ミディアム・スローの典型的な「シシー系」ファンク。単純なリフの繰り返しが、麻薬的な快感をもたらす、ミーターズの本領発揮!なナンバーだ。
(10)もカバーもの。クリント・イーストウッド主演のウェスタン映画「奴らを高く吊るせ!」(69年)の主題曲だが、もちろん、直接的にはアートがリスペクトするオルガ二スト、ブッカー・T・ジョーンズが率いるMG'Sのヴァージョンがお手本だろう。
ミーターズ版も、負けじとドラマチックな構成で、聴き応えがある。
オリジナル・イッシューではラスト曲にあたる(10)は、いうも野暮な、おなじみのストーンズ・ナンバー。
デモ版ということで、2分半と短く、後半が尻切れトンボなのが、ちょい残念だが、それでもこのグルーヴはご本家に劣らず素晴らしい。
そして、この曲はホントにニュー・オーリンズなノリだったんだなと改めて認識した次第。
以降の5曲は、CDだけのボーナス・トラック。同時期に録音された未発表テイクばかりである。
(12)はスティーヴン・スティルスが作曲、ソロ・シングルとして発表した、ソウル感覚あふれる、軽快なラヴ・ソング。
ネヴィル兄弟を中心に、達者なコーラスを聴かせてくれる。同じくこの曲をカバーした、アイズレー・ブラザーズあたりにも負けない、歌のうまさだ。
(13)は5人の共作。スロー・ソウル・バラードの典型のような一曲。
ノセンテリの繊細なタッチのバッキング、ジガブーの独特のタイム感覚、もうサイコーである。
(14)は、これまたCSN&Yつながり(?)で、二ール・ヤングの作品。
でも彼らが取上げれば、まるで別の味わいの、ソウルフルな曲に仕上がってしまう。それこそ、彼ら自身のオリジナルであるかのように。
聴きくらべてみると、オモロイっすよ。
短い曲が多いこのアルバムでは例外的な、約9分の長尺。アートのディープな歌がじっくり堪能できます。
(15)では、ビートルズ・ナンバーも登場。ジョン・レノンの作品。
オリジナルを微妙にアレンジを変え、ヴォーカルはさらにソウルフルにパワー・アップ。
ポーターのベース・ラインもカッコいい。ファンクな「カム・トゥゲザー」、これまた必聴、ですな。
ラストの(16)は、アップ・テンポのこれぞファンク!という感じのサウンド。5人の共作。
メンバー5人が一丸となって叩き出すファンクネスに、もう無条件降伏…いや幸福!
このアルバム、その発売までの事情から考えると、だいぶんラフな作り方をされているのも事実だが、でもミーターズの実力はしっかりと発揮されているように思う。
たとえ、デモテープであろうが、必ず水準以上のものは生み出す。これこそプロってものだ。
選曲的にも、彼らのオリジナルだけでなく、ブルース、ロック、ポップスの名曲・佳曲が数多くカバーされているので、ミーターズ・ファン、ファンク・ファンならずとも、十分に楽しめる内容になっている。
ヒップな一枚、ぜひチェックしてみて欲しい。