NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#83 ザ・ミーターズ「TRICK BAG」(Reprise/RHINO 8122-73549-2)

2022-02-05 05:00:00 | Weblog

2002年1月20日(日)



ザ・ミーターズ「TRICK BAG」(Reprise/RHINO 8122-73549-2

1.DISCO IS THE THING TODAY

2.FIND YOURSELF

3.ALL THESE THINGS

4.I WANT TO BE LOVED BY YOU

5.SUITE FOR 20 G

6.DOODLE LOOP(The World Is A Little Bit Under The Weather)

7.TRICK BAG

8.MISTER MOON

9.CHUG-A-LUG

10.HANG 'EM HIGH

11.HONKY TONK WOMAN

12.LOVE THE ONE YOU'RE WITH

13.WHAT MORE CAN I DO?

14.DOWN BY THE RIVER

15.COME TOGETHER

16.BIG CHIEF

ミーターズ、リプリーズでの4枚目のアルバム。通算では7枚目にあたる。76年リリース。

文字通りヒップなデザインのジャケット同様、中味のほうもなかなかごキゲンなアルバムである。

パーソネルは、アート・ネヴィル(vo,org)、レオ・ノセンテリ(g)、ジョージ・ポーター・ジュニア(b)、ジョセフ・”ジガブー”・モデリステ(ds)、シリル・ネヴィル(vo,congas)の5人。

69年結成時のオリジナル・メンバーは4人で、シリルのみ後に加入している。

実はこれ、もともとデモテープとして録りだめしていたものを、プロデューサーのアラン・トゥーサンとリプリーズが彼らに無断でリリースしてしまったという、いわくつきの一枚だそうである。

このこともひとつのきっかけとなって、ミーターズはトゥーサンと決別、いったん解散することになったぐらいなんである。

さて、オープニングの(1)は、タイトルが示すように、ストリングスや女声コーラスも加わったディスコ調のナンバー。5人の共作。

ミーターズとディスコ・サウンド、どう考えても合っているとは思えないが、オレたち流行りのサウンドだってできまっせ、という一種のショーケースと考えるべきなんだろう。なにせ、発売を考えずになされた録音なんだから。

ジガブーのプレイも、本来オン・タイムでかっちりキメないといけないディスコ・ビートにしっくり乗ってこない。タイム感覚に、かなりズレがあるようだ。

ま、お遊び感覚でさらりと聴く分にはいいのだが。

(2)は同じく5人の共作。ミディアム・テンポのソウル・バラード。アートのオルガン、メンバーの息の合ったコーラスが耳に心地よい。

(3)はナオミ・ネヴィル作とあるが、これはアートの一族郎党…ではまるでなくて、アラン・トゥーサンの変名だそーな。

ミディアム・スローのシブいバラード。アートがソロ時代に歌ったものの再演。彼のリキみのない、自然体のヴォーカルがなかなかの好演である。

(4)はミーターズお得意のファンク・ビート(「シシー・ストラット」系といえばいいのかな?)がカッコいいナンバー。全体にスカスカな音作りが、逆に「粋」な感じなのだ。

デモテープゆえ、あまり練り込まずに、さっさと録ってしまったというのが、むしろよかったのか、5人のリラックスしたプレイが楽しめる。

(5)は白人シンガー、ジェイムズ・テイラーの作品。名盤「SWEET BABY JAMES」所収のナンバーをインストでカバー。

ききものはノセンテリの、ウェス・モンゴメリーばりのオクターブ奏法。

彼はもともと、ジャズから入り、ウェスやジョージ・ベンスンがアイドルだったというから、別に不思議なことではないのだが、ちょっとビックリ。

後半はジャズィなフレーズから、ふだんのファンキーなプレイへとシフトしていく。これまた面白い。

(6)はシリルがリード・ヴォーカルをつとめるファンク・ナンバー。ノセンテリとトゥーサンの共作。

実をいえば、ミーターズが最初に所属したレーベル、ジョシーでもこの曲をアートの歌でシングルとしてリリースしている。その再録音というわけだ。

シリルはここで、アートの枯れたヴォーカル・スタイルとはまたひと味ちがう、ヴィヴィッドで粘っこ~い歌を聞かせてくれる。

とにかく、この手の曲は、リズム・セクションの音を聴いているだけで、体も自然と動き出し、ノリノリな気分になれるんだよなー。

お次はタイトル・チューン、(7)。いうまでもなく、先日来日した大御所ブルースマン、アール・キングの名曲。

tbのグループ名の由来でもあるナンバー、ここではミーターズ流のファンキーなリズム・アレンジ、そしてソウルフルな歌が光っている。

キング自身、ちょこっと声で特別出演しているのも、ミソだ。一聴の価値あり。

(8)は5人の共作。ポーターの重量感あふれるベース・ラインが秀逸な、ミディアム・テンポのナンバー。

本作の場合、各メンバーの演奏能力の高さはあえて誇示せず、楽器のソロは極力抑え、「うたもの」に徹しているという印象がある。それでも、彼らのプレイのスゴさは、十分伝わってくる。

(9)も5人の共作。ミディアム・スローの典型的な「シシー系」ファンク。単純なリフの繰り返しが、麻薬的な快感をもたらす、ミーターズの本領発揮!なナンバーだ。

(10)もカバーもの。クリント・イーストウッド主演のウェスタン映画「奴らを高く吊るせ!」(69年)の主題曲だが、もちろん、直接的にはアートがリスペクトするオルガ二スト、ブッカー・T・ジョーンズが率いるMG'Sのヴァージョンがお手本だろう。

ミーターズ版も、負けじとドラマチックな構成で、聴き応えがある。

オリジナル・イッシューではラスト曲にあたる(10)は、いうも野暮な、おなじみのストーンズ・ナンバー。

デモ版ということで、2分半と短く、後半が尻切れトンボなのが、ちょい残念だが、それでもこのグルーヴはご本家に劣らず素晴らしい。

そして、この曲はホントにニュー・オーリンズなノリだったんだなと改めて認識した次第。

以降の5曲は、CDだけのボーナス・トラック。同時期に録音された未発表テイクばかりである。

(12)はスティーヴン・スティルスが作曲、ソロ・シングルとして発表した、ソウル感覚あふれる、軽快なラヴ・ソング。

ネヴィル兄弟を中心に、達者なコーラスを聴かせてくれる。同じくこの曲をカバーした、アイズレー・ブラザーズあたりにも負けない、歌のうまさだ。

(13)は5人の共作。スロー・ソウル・バラードの典型のような一曲。

ノセンテリの繊細なタッチのバッキング、ジガブーの独特のタイム感覚、もうサイコーである。

(14)は、これまたCSN&Yつながり(?)で、二ール・ヤングの作品。

でも彼らが取上げれば、まるで別の味わいの、ソウルフルな曲に仕上がってしまう。それこそ、彼ら自身のオリジナルであるかのように。

聴きくらべてみると、オモロイっすよ。

短い曲が多いこのアルバムでは例外的な、約9分の長尺。アートのディープな歌がじっくり堪能できます。

(15)では、ビートルズ・ナンバーも登場。ジョン・レノンの作品。

オリジナルを微妙にアレンジを変え、ヴォーカルはさらにソウルフルにパワー・アップ。

ポーターのベース・ラインもカッコいい。ファンクな「カム・トゥゲザー」、これまた必聴、ですな。

ラストの(16)は、アップ・テンポのこれぞファンク!という感じのサウンド。5人の共作。

メンバー5人が一丸となって叩き出すファンクネスに、もう無条件降伏…いや幸福!

このアルバム、その発売までの事情から考えると、だいぶんラフな作り方をされているのも事実だが、でもミーターズの実力はしっかりと発揮されているように思う。

たとえ、デモテープであろうが、必ず水準以上のものは生み出す。これこそプロってものだ。

選曲的にも、彼らのオリジナルだけでなく、ブルース、ロック、ポップスの名曲・佳曲が数多くカバーされているので、ミーターズ・ファン、ファンク・ファンならずとも、十分に楽しめる内容になっている。

ヒップな一枚、ぜひチェックしてみて欲しい。


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