NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#93 ダン・ペン・アンド・スプーナー・オールダム「ライヴ~モーメンツ・フロム・ディス・シアター」(MSI MSIF3661)

2022-02-15 06:26:00 | Weblog

2002年3月23日(土)



ダン・ペン・アンド・スプーナー・オールダム「ライヴ~モーメンツ・フロム・ディス・シアター」(MSI MSIF3661)

(1)I'M YOUR PAPPET

(2)SWEET INSPIRATION

(3)CRY LIKE A BABY

(4)DO RIGHT WOMAN, DO RIGHT MAN

(5)I MET HER IN CHURCH

(6)LONELY WOMEN MAKE GOOD LOVERS

(7)IT TEARS ME UP

(8)THE DARK END OF THE STREET

(9)YOU LEFT THE WATER RUNNING

(10)OUT OF LEFT FIELD

(11)MEMPHIS WOMEN AND CHICKEN

(12)A WOMEN LEFT LONELY

(13)I'M LIVING GOOD

(14)OL' FOLKS

サザン・ソウルの名ソングライターにして自らも歌う白人アーティスト、ダン・ペンと、60年代より長らく彼とコンビで曲作りをしてきたスプーナー・オールダムのふたりによるライヴ盤。98年英国ロンドンほかにおける録音、99年リリース。

先日、当HP掲示板の常連、Dr.Toriさんより推薦いただいた一枚なのだが、この金曜日に神保町の中古CD屋で発見・購入し、さっそく聴いてみた。これが、実にイケるのである。

ダン・ペンというひとは41年アラバマの生まれで、今年61歳。最初は自分自身のグループを作り歌っていたが、60年代中期、地元マッスル・ショールズでスタジオ・ミュージシャンとなり、ソングライターとしてのキャリアもスタートさせる。

のちにメンフィスへ移り、ボックス・トップス(白人バンド。「あの娘のレター」のヒットで有名)やジェイムズ・カー、パーシー・スレッジらサザン・ソウル系の歌手に曲を提供し、いくつかのヒットを飛ばしたことで、一躍名を高めることとなる。

73年には自身のファースト・ソロ・アルバムを発表、以後、寡作ながらも何枚かをリリース、また、他のアーティストのレコーディングに数多く参加している。

一方、スプーナー・オールダムは43年、同じくアラバマ出身。キーボードを得意とし、ダン同様、マッスル・ショールズのスタジオ・ミュージシャンとなる。

パーシー・スレッジのヒット「男が女を愛する時」のバックは彼だというから、思いあたるひとも多いだろう。

彼もまた寡作ながら、70~80年代にリーダー・アルバムをリリース、もちろん、他の歌手のバックには数限りなく登場している。

ステージは、そんなふたりが書き、ジェイムズ&ボビー・ピューリファイがヒットさせた(1)からスタート。

オリジナルよりはむしろ、ディオンヌ・ワーウィック、サム・アンド・デイヴ、エルトン・ジョン、アーマ・トーマスといったカヴァー・ヴァージョンのほうが有名かも知れない。

ゆったりとしたテンポの、おだやかな曲調のバラード。アコースティック・ギターを弾きつつ歌うダン・ペンのヴォーカルは、少し低めの落ち着いた声質で、しかも温かさに満ちている。

なんとも心なごむ雰囲気で始まるのだ。曲が終わると、ダンが自らそして相棒を紹介。

間髪を入れず次の曲、ふたりが書き、スウィート・インスピレーションズがヒットさせた(2)へ。

そう、グループ名をそのまま曲にしてしまったのだ(あるいは、逆か?)。ソウルフルなフレーバーを持つ名曲。

相棒のスプーナーがつけるハーモニーがまたいい。実にピッタリと息が合っている。付き合いが長いだけあるな。

この曲もまた、そうそうたる顔ぶれがカヴァーしている。ざっとあげただけでも、リタ・クーリッジ、キング・カーティス、ルーサー・イングラム、ダスティ・スプリングフィールド、シュープリームス、テンプテーションズ、プラターズ、エトセトラ、エトセトラ。

これだけ、白人黒人に関係なく支持されているコンポーザーも、そうはいまい。

(3)はふたりがボックス・トップスのために書いた曲。ブルーアイド・ソウルの典型のようなナンバー。

この曲も幅広いアーティストに支持されている。レスリー・ゴーア、ぺトゥラ・クラーク、アーサー・アレクサンダーにキム・カーンズ。なんと、ヴェンチャ―ズまでもがカヴァーしているのが可笑しい。

(4)はダン・ペンと、もうひとりの盟友、チップス・モーマンの共作。ダン・ペンの数多い作品の中でも、有名度では一、二を争う代表曲だ。オリジナルは女王、アレサ・フランクリン。

なんたって、カヴァー数が断トツである。ディオンヌ・ワーウィック、バーバラ・マンドレル、シェール、エッタ・ジェイムズ、エスター・フィリップス、ブレンダ・リー、ジョーン・バエズ、マーヴァ・ライト、フィービ・スノウ等々、実力派女性歌手全員集合!のおもむきがあるな。

男性陣ではウィリー・ネルソン、ジョニー・アダムズ、ウィリアム・ベルなどなど。メシオ・パーカー、さらには映画「おれたちザ・コミットメンツ」で、主人公のバンド、ザ・コミットメンツがカヴァーしていたなんて、変わりダネもある。

とにかく人気ナンバーワンのナンバーだが、それもなるほどなと思える、実にしっとりとした雰囲気の名ソウル・バラードである。

(5)は、これまたボックス・トップスのためにペン&オールダムが書いたナンバー。

軽快なビートにのって陽気に歌われる、愛の賛歌。彼らのネアカな持ち味がよく出ている。コーラスをまた、本当に気持ちよさそうに歌っているのがグー。

(6)はカントリー・フレーバーあふれるバラード。これは唯一、ペンの作品ではなく、オールダムとカントリー歌手、フレディ・ウェラーの共作。ウェラー自身も録音しているが、一般によく知られているのはボブ・ルーマンによるヴァージョンだろう。

どこかで一度は聴いたことのある、優しげなメロディ。70年代の(元)FENのカントリー番組ではよくかかっていたなぁ。

ここではオールダムがリードをとり、ペンがハモをつけているのに注目したい。オールダムのほのぼの系の歌声にもなかなか味わいがある。

(7)は再び彼らコンビの作品に戻る。オリジナルはパーシー・スレッジ。

スロウ・テンポでじっくりと歌い上げる悲しい恋のバラード。

他の男のもとへと去って行った恋人への、はりさけそうな想いを歌って、多くのひとの共感をかちえた佳曲だ。

スレッジ以外には、ジョニー・アダムズ、ボックス・トップス、サム&デイヴらソウル勢ほか、エルヴィス・コステロもカヴァーしているから、ロック・ファンにも意外に知られているかも知れない。

(8)は(4)同様、カヴァー数の多さでは横綱級の名曲だ。これまた、どこか物憂げな雰囲気。禁じられた恋を歌った、しっとりとしたソウル・バラード。

オリジナルはジェイムズ・カー。で、この曲に惚れ込んだアーティストは数知れず。

パーシー・スレッジ、ジョー・テックス、ドリー・パートン、アレサ・フランクリン、フライング・ブリトゥ・ブラザーズ、ライ・クーダー、クリス・スペディング、グラム・パーソンズ、リー・ヘイズルウッド、リチャード・トンプソン、アーティ・ホワイト、ゲイリー・スチュアート、パット・ケリー、グレッグ・オールマン、ドロシー・ムーア、ピーター・グリーン・スプリンター・グループ、そしてザ・コミットメンツ。あー、キリがない(笑)。

とにかくこれだけ多数の、しかもスゴい実力派にばかりカヴァーされれば、作曲家冥利につきるというものだろう。

ま、それだけ原曲に魅力があるってことの証明ですな。いくら頼んだって駄曲じゃ、こんなひとたちには歌ってもらえませんって。

(9)は一転、楽しげな調子のナンバー。でも実は恋人にふられて目の前マックラ、という男を歌った曲なんである。ちなみに、リック・ホール(マッスル・ショールズのスタジオのオーナー)らとの共作。

その陽気なカントリー調のメロディが、悲しみをいっそう浮きぼりにする。ダン・ペンのお得意なパターンといえるかも知れない。

ソウル・バラードを数多く生み出した彼ではあるが、やはり白人。そのサウンドの根底には、「カントリー」という白人音楽がしっかりと流れているように思った。

ちなみに、オリジナルのビリー・ヤングのほかは、サム&デイヴ、フライング・ブリトゥ・ブラザーズ、アメイジング・リズム・エイシズ、ヒューイ・ルイス、ブッカー・T&MG'Sと、ロック勢にもなかなか支持率が高い曲である。

(10)はまたペン/オールダム・コンビによる、パーシー・スレッジのヒット。スロウなテンポで歌い上げられる、これはどちらかといえばハッピーな、恋愛賛歌。

ダン・ペンのディープな歌いぶり、そしてオールダムとのハモりに、思わず感涙を流しそうな出来ばえ。

カヴァー例としては、アル・クーパー、ハンク・ウィリアムス・ジュニア、ヘレン・ワトソンなどがある。

(11)は珍しくロックン・ロール、ブルース・テイストの一曲。

チャック・ベリーの「メンフィス」を下敷きに、「メンフィス女はサイコー!」とブチあげる、ダン・ペンにしては異色の、男臭いロック・ナンバー。ダニー・フリッツ、ゲイリー・ニコルソンとの共作。

ニワトリの鳴き声をたくみに交えたりして、ユーモアたっぷりの仕上がりになっている。カヴァーは少ないが、ティム・ブリッグス、T・グラハム・ブラウン、ダイナトーンズによるヴァージョンがある。

(12)は再びペン/オールダムの作品。孤独に生きる女を歌ったバラード。

オリジナルの、ジャニス・ジョプリンによるソウルフルな名唱があまりに有名だが、ダン・ペン本人の、枯れた味わいの歌も捨てがたい。

この曲はやはり女性歌手の支持度が高く、リタ・クーリッジ、マギー・ベル、アーマ・トーマス、そしてパティ・ペイジまでもがカヴァーしている。

一方、男性歌手もスコット・ウォーカー、チャーリー・リッチ、ロジャー・トロイらがカヴァー。

彼らの作る曲は、どれも、シンガー自身に「歌いたい」と思わせるパワーに満ちているのだろう。

(13)はふたりの共作、オヴェイションズがオリジナル。

愛があれば多少お金がなくたって幸せに生きていけるという、典型的なほのぼの系バラード。やはり、こういう曲でこそ彼らの本領は発揮されるという感じだ。

ラストの(14)は、よくジャズ・ミュージシャンが演奏する同名の曲とは別の、ふたりのオリジナル。

でもその曲想は共通していて、故郷に住む、愛すべき素朴なひとびとを歌ったもの。

優しさ、温かさ、懐かしさにあふれた、「ダン&スプーナー・ワールド」そのもののようないい曲だ。

まだカヴァーされていない新曲のようだが、もちろん誰かがこの曲に惚れ込んで、レコーディングする日は遠くあるまい。

というか、筆者も、なんだか歌ってみたくなってしまった(笑)。そのくらい、彼らの曲には、深~い魅力がある。

一枚を聴き終えると、なんともいえない「幸福感」にひたれるのが、この「ライヴ~モーメンツ・フロム・ディス・シアター」。

そんなアルバム、そうあるものではない。

まだ、お聴きでない貴方、ぜひ一聴をおすすめしたい。至福のひとときが、味わえますゾ。