2004年9月5日(日)
#238 ナイル・ロジャーズ「B-MOVIE MATINEE」(WARNOR BROS. 925290-1)
ナイル・ロジャーズのセカンド・ソロ・アルバム。85年リリース。
ロジャーズといえば、シックの主要メンバー、そして数多くのトップ・アーティストのアルバムを制作した名プロデューサーとして知らぬ者もないと思うが、実はこんなアルバムも出してたよという一枚。
シックの解散後、本格的にプロデュース業に進出した彼の仕事の中でも、デイヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」(93年 )のダンサブルなサウンドは特に印象的だったが、その約2年後にリリースされた本アルバムも、その音の延長線上にあると言っていいと思う。
ロジャーズ自身、歌も担当しているが、ギターをはじめとする全体のサウンド・メイキングにこそ、彼の本領は発揮されているといえよう。
本盤で一番印象に残るナンバーといえば、シングル・カットされTOP100にもチャートインしたという「LET'S GO OUT TONIGHT」。
ドクター・ドラゴン&オリエンタル・エクスプレス(古っ!)にも通ずるところのあるオリエンタル調のディスコ・サウンド。ロジャーズがプロデュースしたボウイの曲で言えば、「チャイナ・ガール」の流れを汲んでいる。
で、のっけから、女性ラッパーの「今夜どっかへ行こうよ 行こうよ」という日本語ラップにビックリ。
「I really like Japanese」という歌詞にかぶさる「何ですか?」という、これまた日本語の合いの手には爆笑。
ブリッジでも「すごくダンスしたい すごく踊りたい すごくダンスしたい 死ぬほど ダンスしたい」以下、日本語MCが展開される。今でこそ、日本語のラップなんて、ありきたりのものになってしまったが、19年前のこれは、聴いててものすごく新鮮に感じたという記憶がある。
このラップ、オリシゲ・ミチコという日本人(または日系)ラッパーがやっているのだが、パッと聴いた感じでは英語ネイティヴなひとが喋っている、カタコト日本語に思える。奇妙なジャパネスク趣味が何とも可笑しい。
この曲を聴くと、バブル崩壊以前の、六本木ディスコ文化が隆盛を極めていた頃を思い出すね~。
シックでもおなじみの、ファンキーなギター・カッティングも健在。オープニング曲の「PLAN-9」をはじめ、「STATE YOUR MIND」「DOLL SQUAD」「LET'S GO OUT TONIGHT」など、随所で聴くことが出来る。
たとえば「STATE YOUR MIND」の冒頭で繰り広げられる、特徴的なペナペナのソロ。これはもう、ロジャーズにしか出せない味わいがある。上手いヘタを超越しているというか。
アルバムではラストの「STAY OUT OF THE LIGHT」でのギター・プレイも面白い。アルバムタイトルにある「B級ムービー」というコンセプトに沿って、ホラー映画ふうのSEをかませているナンバーなのだが、ロジャーズのカッティング、そして小粋なソロにどうしても聴き惚れてしまう。
本盤、「LET'S GO OUT TONIGHT」あるいは「THE FACE IN THE WINDOW」のように割りと明るく軽めのダンス・ナンバーもあれば、結構重厚なファンク・チューンもある。「GROOVE MASTER」がその好例。
とにかく、リズムがガツンガツンのノリで、ごキゲン。中間部のギター・ソロがアヴァンギャルドな雰囲気をかもしだしている。
ディスコでのチーク・タイム(いまや死語か!?)に最適なバラードは「WAVELENGTH」かな。ロジャーズはこういうメロディアスな曲作りをやらせても、実にソツがない。さすが、オールラウンド・プレイヤー。
ファースト・ソロ・アルバムの「ADVENTURES IN THE LAND OF THE GOOD GROOVE」にせよ、本盤にせよ、ロジャーズの輝かしい経歴の中では、まるきり売れなかったアルバムだが、こうやってひさしぶりに聴いてみると、その理由はよくわかる。
音楽的にレベルが低いのではない。あまりにやっていることが「玄人芸」なのだ。彼の作る音楽は、最上級にいかしたダンス・ミュージックではあるのだが、基本的に玄人しかよくその真価がわからないような気がする。
何でもマスで売れるのは、どこかちょっといなたい、泥臭いものだったりするし。
ナイル・ロジャーズのソロ・アルバムが、ボウイやマドンナやミック・ジャガー並みに売れたりしたら、むしろヘン(笑)。
違いのわかるツウなひとにのみ、おススメしておきます。この一枚。
<独断評価>★★★★☆