2005年1月30日(日)
#257 ジェイク・H・コンセプション「J」(RVC/dear heart RAL-8807)
サックス奏者、ジェイク・H・コンセプションの初ソロ・アルバム。83年リリース。宮田茂樹プロデュース。
ジェイクはフィリピン生まれ。昭和30年代後半に来日、ビッグバンド・渡辺弘とスターダスターズに在籍後スタジオ・ワークに転じ、以来数十年、松任谷由実、中島みゆき、吉田拓郎をはじめとする日本のトップ・アーティストのバックをつとめて来た大ベテランである。
このアルバムは、そんな裏方一筋の彼としては珍しく、そのサックスと歌を全面的にフィーチャーした作りとなっている。
もともとがビッグバンド・ジャズ畑だっただけあって、彼のジャズ指向がはっきりと打ち出された選曲。ズージャ・ファンの筆者としても非常に気に入っている一枚である。
一曲目のジングル風ショート・アイテム、「[jei]」はインスト。多重録音によるサックス・アンサンブルが楽しめる。彼のオリジナル。
続く「THE OLD MUSIC MASTER」はかの「スターダスト」の作者、ホーギー・カーマイケルの作品。軽快にスウィングするラグタイム調のナンバー。聴こえてくるのびやかな歌声は、もちろんジェイク自身のそれ。これがなんともいい「味」を出している。上手いといえるかどうかは、この際置いといて。
清水信之がアレンジ、松武秀樹によるコンピューター・プログラミング以外、楽器はすべて彼が演奏しているのも聴きどころ。チェット・アトキンス風のギターとか、なかなかイカしている。
三曲目は「HONG KONG BLUES」。これもホーギー・カーマイケルの作品。実にシブいところをついてきますな。フツー、カーマイケルといったら、「スターダスト」か「煙が目にしみる」ばかり取り上げられるものだが。ジェイクの小粋な趣味がうかがえます。
曲のほうは、タイトルでわかるように、チャイナ風のメロディ&アレンジを含んだチャールストン調ナンバー。歌もリラックスしていい感じですが、もちろん、ご本業のサックス演奏もソツなくキマっています。清水信之によるオリエンタルなアレンジもグー。
お次の「PURE IMAGINATION」、これはあまり知られていない曲ですが(正直筆者もこのジェイク版で初めて知りました)、アンソニー・ニューリー=レズリー・ブリカッス(ブリキュッスか?)のコンビによるナンバー。ルー・ロウルズも歌っているようですが、オリジナル・アーティストはよくわかりません(汗)。メロウなAORふうの曲調から察するに、たぶん70年代の曲でしょう。アレンジはガンさんこと佐藤博。
ジェイクの歌唱、サックスともに、まったりとしたこの曲にピタリとハマっている。ユーミンの一連のバラードあたりとも一脈通じるものがある。リズム隊の伊藤広規、青山純("達郎組"ですな)のプレイもいい。
A面ラストは、また曲調を一転、快活なムードのポップ・チューン「WITHOUT YOU」。曲を作ったのはリンジー・ディ・ポール。名前を聴いて、「ああ、あのヒトね」と思い当たった人、あなたは筆者同様、かなりいいトシです(笑)。
そう、70年代後半から80年代にかけ、「恋のウー・アイ・ドゥ」とか「シュガー・シャッフル」などのヒットを出し、小悪魔ふうのイメージで一世を風靡した美人女性シンガー、リンジーそのひとなのであります。
ここでのジェイクは、コケティッシュなリンジーとはまったくかけはなれた「のんきな父さん」みたいなほのぼのムードで歌ってますが、それもまた佳き哉、であります。松木恒秀によるジャズィなアレンジもごキゲン。
B面トップは「THAT OLD BLACK MAGIC」。ミュージカル史上、屈指のソング・ライティング・チームのひとつ、ハロルド・アーレン=ジョニー・マーサーのコンビによる作品。おどろおどしいタイトルとは裏腹に、アップテンポで快調に飛ばすナンバー。
アレンジ担当の佐藤博はこの古~いスタンダードナンバーを見事にリニューアル、70年代のエスター・フィリップスあたりを意識したかのような、ディスコなサウンドに仕上げている。これが実にカッコいい。
ジェイクも、いかにも気持ちよさげに歌い、サックスをブロウしまくっている。
続く「ガール・トーク」は、さまざまなシンガーがカヴァーしている、二ール・ヘフティ=ボビー・トゥループの作品。
筆者は個人的には、バディ・グレコ版がベストなのだが、このジェイク版もそれに続くくらいオキニである。
バディのように「雄弁」という感じでなく、いささかたどたどしいヴォーカルなのだが、不思議と心ひかれるものがある。
人と人との和を大事に、いい仕事を残してきた職人ならではの、素朴な「味」。結局、歌はそのひとの人間性なのだよな。
この一枚のハイライトともいえる次の曲「TONIGHT THE NIGHT」でも、そういうものを強く感じる。
ジェイク自身のオリジナル。松木恒秀がリズム部分、ジェイクがホーン部分をアレンジ。どことなく山下達郎を思わせる、ファンク・ジャズに仕上がっている。
超一流のミュージシャンをバックに起用、サウンド的には一分のスキなし。でも、ヴォーカルはなんとも人間味があふれている。
テクニックに走らず、ハートで歌う、それがジェイクの歌なのだ。
ラスト「J」はトップ・チューンの別ヴァージョン。こちらは長めの構成となっている。
すべて自身の演奏。ジェイクのマルチリード・プレイが堪能出来る一曲だ。
今は死語となってしまったが、和製ジャズ&ポップスを振り出しに、この国の歌謡曲、ニュー・ミュージック、シティ・ミュージックと呼ばれてきた音楽をその確かな実力で支えてきたのが、この好好爺然としたおじさん、ジェイク・H・コンセプション。
いまでも、しっかり現役で活躍しているそうだ。今日聴いたJ-POPナンバーのサックス演奏も、実は彼によるものかも知れないよ。
ジャズ、ポップスの永遠不滅のエッセンスを体現する男、ジェイク・H・コンセプション。
いまでは廃盤となってしまったこの一枚を聴き返すたびに、この国のミュージック・シーンがいかに彼に多くの恩恵を蒙ってきたか、強く感じる。
その飾り気のない歌にあふれる、「歌心」。彼のサックス演奏と同じくらい、筆者は好きである。
<独断評価>★★★☆