NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#253 ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK「THE COMMITMENTS」(MCA MCAD-10286)

2022-07-25 05:00:00 | Weblog

2005年1月4日(火)



#253 ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK「THE COMMITMENTS」(MCA MCAD-10286)

アラン・パーカー監督による91年公開のアイルランド映画、「ザ・コミットメンツ」のオリジナル・サウンドトラック盤。

映画のストーリーを簡単に言うと、アイルランドの首都ダブリンを舞台に、ソウル・ミュージックで一旗あげてやろうと集まった若者たち11人のバンド「ザ・コミットメンツ」をめぐる、涙と笑いの物語、といったところか。

くわしいことはビデオでも観ていただくとして、この映画、音楽がまことにイカしてるんで、本欄でピックアップしてみた。

有名シンガーなんて、ほとんど参加していない。オーディションにより選抜された、無名の俳優たちが歌っているのだが、みな十分プロとして通用するだけの力を持っているんである。

まず登場するのは、リードシンガーである、"デコ"役のアンドリュー・ストロング。

「ムスタング・サリー」「テイク・ミー・トゥ・ザ・リバー」を歌うのだが、彼の「塩辛声」が実にいい。

日本人のやっているブルースとか、ソウルとか、何物じゃあ?といいたくなるくらい、ハンパじゃないド迫力。

しかも、しかもである。この映画に出演した当時、彼はまだ十代だったというではないか!!

これで無名だったというのなら、アイルランドにはどれだけ才能あふれる若者がウヨウヨしているのか。底知れず、恐ろしい。そう、しみじみ思ったね。

続くは、女性シンガーふたりによる「チェイン・オブ・フールズ」。説明するまでもない、アレサ・フランクリンの名曲だ。

歌うは金髪のイメルダ役のアンジェリン・ボールと、ブルネットのナタリー役のマリア・ドイル。

その貫禄あふれる歌いぶりたるや、音で聴いただけでは、うら若い白人女性だとは絶対わからないと思うよ。

そして、このバンドというか、映画の素晴らしいところは、前出の3曲みたいな有名なナンバーだけでなく、知る人ぞ知る、みたいな隠れた名曲を、さりげなく織り込んでいるところだ。

そのひとつが次の「ザ・ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート」。歌うはアンドリュー・ストロング。

チップス・モーマンとダン・ペンのコンビによるこの畢生のメロディを、コミットメンツは90年代に見事に甦らせてくれた。

ここではストロングが実にしっとりとした歌を聴かせる。彼はシャウト一辺倒かと思いきや、そういう一面もあるんだね、さすがである。

アンジェリン・ボールの歌う、アン・ピーブルスのカバー「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」もいい。ハンブル・パイのアルバムの時にも紹介したけど、この曲はホント、名曲だよな。

圧巻なのは「トライ・ア・リトル・テンダーネス」。これはスゴいよ。全身の血が沸騰しそうなシャウト。映画を観ずに、このCDだけを聴いたとしても、それは伝わってくるだろう。

オーティス・レディングの白人版カバーとしては、スリー・ドッグ・ナイトのコリー・ウェルズと並ぶ出来だと断言してしまおう。

この他も、ソウル・ファンなら「う~ん」と唸ること間違いなしのナンバーが目白押しだ。

これまたモーマン=ペン・コンビの「ドゥ・ライト・ウーマン、ドゥ・ライト・マン」、オーティスの「ミスター・ピティフル」、アレサでおなじみの「アイ・ネヴァー・ラヴド・ア・マン」、ウィルスン・ピケットの「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」、「バイ・バイ・ベイビー」(同名異曲が多いナンバーだが、これはモータウンの代表的女性シンガー、メアリー・ウェルズ版)、どれもこれも涙ちょちょ切れものですな。

そしてラストの「スリップ・アウェイ」。これはクラレンス・カーターの歌で知られている曲だが、バンドの仕掛人ジミー役のロバート・アトキンスの声が、ストロングとは対照的に甘~い感じで、なかなかグー。

ビデオ、あるいはCDのジャケット写真を観るに、11人のメンバーは若干一名(ジョーイ役のジョニー・マーフィ)を除いて、いわゆる芸能人っぽい雰囲気などまるでない、フツーの人々。

街中でいくらでも見かける、アンちゃん、ネーちゃんタイプなんであるが、それがいかにもザ・コミットメンツらしさだとも思う。

華やかさではゲイノージンにはとてもかなわない一般ピープルが、実質本位の音で勝負出来るのが、ソウル・ミュージック。まさに、ダブリンの底辺に暮す若者たちにとって、希望を与えてくれる音なのだ。

架空の存在なれど、これくらいイカした音楽を生み出せるバンドは、本場アメリカにだってそうありゃしない。

バックの演奏も、タイトにきまっていて、素晴らしいのひとこと。こういう音を、われわれも作れたら、最高なんだがな。

<独断評価>★★★★


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