2011年1月29日(土)
#158 タブ・ベノワ「Match Box Blues」(Standing on the Bank/Vanguard)
#158 タブ・ベノワ「Match Box Blues」(Standing on the Bank/Vanguard)
白人シンガー/ギタリスト、タブ・ベノワのサード・アルバム(95年)より。ブラインド・レモン・ジェファースンの作品。
タブ・ベノワは1967年、ルイジアナ州バトン・ルージュの生まれ。早くから自らのバンドを率いて、各地でライブ活動を行っていた。
92年、25才のときにアルバム「Nice & Warm」でヴァンガードよりデビュー。99年にはテラークへ移籍。1~2年に1枚のペースでコンスタントにアルバムを発表、いま一番脂ののったブルース系アーティストのひとりといえる。
日本ではまだ「知る人ぞ知る」のレベルではあるが、本国では80年代におけるスティービー・レイ=ヴォーンのようなポピュラリティを獲得している。
これはやはり、わが国では「白人のブルースはブルースに非ず」みたいな原理主義的ファンがまだまだ多いということなんだろうな。
小出斉さんの「ブルースCDガイド・ブック2.0」のような本でも、見事にスルーされているし、非常に残念なことだと思うのである、筆者は。
若い黒人がほとんどブルースに興味を示さず、ヒップホップのような音楽にばかり向かうようになった現況では、白人、アジア人などの非黒人のほうがむしろブルースを志す人口が多かったりする。
たしかにブルースは本来黒人より生まれてきたものであるが、誕生後約1世紀を経過した現在においては、すでに「レース・ミュージック(人種音楽)」の域を越えて、普遍的な音楽へと変化してきているのだ。いまさら「黒人以外のブルースは認めん」なんて言ってる場合じゃなかろう。
われわれ日本人だって、きちんとブルースの本質を理解した上で、日本人なりのブルースを歌い、演奏する人々が増えてきているし、要するに、すぐれたブルースでさえあれば、誰が演ろうがオッケーなんだと思う。
ということできょうの一曲「Match Box Blues」である。ブラインド・レモンの曲とはいえ、大半のリスナーにとってはアルバート・キングのレパートリーといったほうが通りがいいだろう。実際、ベノワも、特徴のあるリフなど、アルバート・キング版のアレンジをそのまま使っているぐらいだ。
ギターはもちろん、歌もベノワ自身が歌っているのだが、これが意外とイケる。彼の声はやや高めで、ブルースというよりはソウル・テイストなんだが、聴いているだけでは、白人が歌っているふうにはまず思えない。非常にブラックな味わいのある歌なのだ。
ギターのほうも、もちろんいい味を出している。テレキャスター・シンラインという、他のアーティストはあまり使わないモデルをベノワは愛用しているが、この非常にソリッドで鋭角的な音が、彼の個性を際立たせている。
レイ=ヴォーン的な線の太い音とはまた違った、シャープなプレイで、聴くもののハートをえぐって行く、それがタブ・ベノワ流。アルバート・キングの影響も強いが、もうひとりのアルバートであるコリンズのスタイルも、色濃く感じられる。ちょっとせっかちというか前のめり感のあるリズムで、ぐいぐいと弾きまくるベノワ。官能的な泣きもたっぷり入っていて、日本のリスナーにも絶対ウケそうである。
ヒゲをたくわえたタフガイ風の容姿は、婦女子にはまずウケそうにないが、何が本当にいい音楽であるかを知る者ならば、彼の音楽をスルーできないはずだ。
ブルースのみならず、さまざまなアメリカン・ミュージックのエッセンスを盛り込み、ロック世代にも違和感なく受け入れられるサウンドを作り続けるタブ・ベノワ。今後、まちがいなくトップに出て行く実力を持った人だ。活躍を期待したい。