2011年4月17日(日)
#169 ビリー・スチュアート「Billy's Blues, Part II」(One More Time: The Chess Years/Chess)
#169 ビリー・スチュアート「Billy's Blues, Part II」(One More Time: The Chess Years/Chess)
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50~60年代に活躍したR&Bシンガー、ビリー・スチュアートのヒット曲を。スチュアート、ジョー・ウィリアムズの作品。
ビリー・スチュアートは37年、ワシントンDCの生まれ。母親がシンガーだったこともあり、彼女の率いるスチュアート・ゴスペル・シンガーズに参加、プロ活動をスタートする。
歌のみならず器楽にもたけ、ピアノやドラムスを演奏していたことから、まずはピアニストとしてボ・ディドリーから声がかかる。これが縁でボの所属するチェス・レーベルと契約し、最初のソロ・シングルを56年に発表した。それがこの「Billy's Blues」である。
エコー、トレモロがギンギンにかかったギター・サウンドには、いかにも50年代という時代を感じてしまうのだが、ブルースと題しているわりにはきわめて陽性でノリがよく、キャッチーなナンバーである。
何より、スチュアートの歌声がユニークだ。ゴスペル・グループ出身だけに、その歌の根底にゴスペルがあるのはもちろんだが、それだけにとどまらず、ジャズのスキャット唱法をたくみに取り入れた、人間リズムマシーンともいうべき、パーカッシブな歌い口なのだ。
その、足柄山の金太郎のような健康優良児的ルックスとは裏腹に、繊細でのびやかなハイ・トーンを聴かせてくれる。まさに唯一無二の個性。
たちまち時代の寵児となり、翌年にはオーケー・レーベルにて「Billy's Heartache」をバーケイズをバックに録音。62年には再びチェスに戻って「Fat Boy」「Reap What You Sow」「Strange Feeling」「I Do Love You」「Sitting in the Park」「How Nice It Is」「Because I Love You」といったヒット曲群を数年の間に連発していったのである。
そして、彼の華麗なボーカル・テクニックの頂点ともいうべきアルバムが66年に発表された。「Unbelievable」である。そのタイトルに恥じない出来ばえは、アルバムのトップ・チューン「Summertime」を一曲聴けばわかる。ガーシュインの原曲とも、またジャニス・ジョプリンのバージョンなどともまったく異なる、スチュアート独自の解釈による、超絶技巧のサマータイム。一聴の価値はある。
もちろん高度のテクニックだけでなく、人気シンガーとしての必須条件、声量や音程の正確さ、明瞭な発音、そして明るいキャラクターといったものをすべてもっていた。
まさに天性のシンガー、ビリー・スチュアートだったのだが、残念なことに70年、事故により32才の若さでこの世を去ってしまう。
残された音源はアルバム5枚分程度なのだが、それらはすべて彼のたぐいまれなる才能を証明している。「モーターマウス」とあだ名された、彼のアンビリーバボーな歌いぶりを、ぜひ味わってみてくれ。