2011年3月12日(土)
#164 トッド・ラングレン「Counldn't I Just Tell You」(Something/Anything?/Bearsville)
#164 トッド・ラングレン「Counldn't I Just Tell You」(Something/Anything?/Bearsville)
トッド・ラングレン、72年リリースのサード・ソロ・アルバムより。彼自身の作品。
トッド、そして彼が率いるバンド、ユートピアは、筆者がハイ・ティーンだった頃、最も好んで聴いていたアーティストだった。
76年、ユートピアとして初来日したときも、当時予備校生だった筆者は当然のごとく中野サンプラザへ公演を観に行った。そして、その期待をはるかに上回るパフォーマンスに狂喜したものだ。
ユートピアは、ビートルズに関してはリアルタイム経験がほとんどなかった筆者にとって、初めて本格的に入れ込んだポップ系(そう書くといささか語弊があるだろうが、あえて書く)のバンドといえるだろう。
白人系/黒人系を問わず、ありとあらゆるポップ・ミュージックを渉猟し、サウンド作りのノウハウについては誰よりも通暁していた、天才トッド。天才なんて呼称は、ハンパな才能の人間に与えちゃいけないものだとは思うが、彼の作ったカバー曲中心のアルバム「Faithful」のA面を聴けば、それが過大評価でもなんでもないことがわかるだろう。
ロックのあるべき方向性を、自ら率いるバンドで示してくれたのが、ユートピアの諸作品群なのだと、筆者は当時真剣に思っていた。
まあ、実際にはロックは、そのベクトルとはかなり違う方向に向かってしまった。
オアシスみたいにぬるいサウンドのバンドが、ビートルズの正統の後継者ということになってるみたいだし‥。筆者としては、80年代以降ロックがたどって来た道については、大いに不満がある。
まあ、それはさておき、きょうの一曲である。72年、つまり約40年前に作られたものなれど、どうだろう、この歳月などみじんも感じさせない、みずみずしいサウンドは。
ユートピアの来日ライブでも演奏されていたのだが、後半のクライマックスを飾る曲として、いまも目と耳にしっかと焼き付いている。足を蹴り上げる、キメのアクションでさえも。
一度聴いたら忘れられない、甘いメロディ・ライン&ボーカル・ハーモニー。イントロのギター・フレーズ、中間のギター・ソロ等々、完璧なアレンジ。いっときますがこの音源、すべてトッドがすべてひとりで作り上げたのですぞ。まさに宅録派の本家本元。
70年代のトッドは、ビートルズが何故あれだけの支持を受けたのか、その魅力の謎を執拗なまでに研究し続けていた。「Counldn't I Just Tell You」は、まさにトッドによる、その「答」なのだと思う。
ポップ・マエストロ、トッド・ラングレンの超弩級の才能を、とくと味わってみてくれ。