2011年2月26日(土)
#162 フリートウッド・マック「フォー・ユア・ラブ」(Mystery to Me/Reprise)
#162 フリートウッド・マック「フォー・ユア・ラブ」(Mystery to Me/Reprise)
フリートウッド・マックによる、ヤードバーズ・ナンバーのカバー。1973年のアルバム「Mystery to Me(邦題・神秘の扉)」に収録。グレアム・グールドマンの作品。
フリートウッド・マックは67年結成、現在も活動中なので、実に44年のキャリアを持つバンドだ。70年代後半には、大ヒットを連発しスーパースターとなった彼らにも、不遇の時代があった。それが、このアルバムが発表された前後だ。
元リーダー、ピーター・グリーンが精神を病んで脱退、変わりにベースのジョン・マクビーの妻、クリスティン(vo,kb)やアメリカ人のギタリスト、ロバート(ボブ)・ウェルチが中心となって活動していた70年代の前半である。
その頃はヒットにも恵まれず、地道にアルバムを作っていた。が、そのクォリティは結構高く、一部のリスナーからは注目され始めていたのである。
で、きょうの一曲だ。ロックファンなら知らぬ者もない、ヤーディーズ65年の代表的ヒット。この曲に拒絶反応を示して、エリック・クラプトンがバンドを脱退してしまった、といういわくつきのナンバーでもある。
作曲者は、後に10CCを結成し、その中心となったコンポーザー、グレアム・グールドマン。彼のポップセンスあふれる一曲により、ヤーディーズはブルースバンドのイメージをかなぐり捨てて、メジャーなロックバンドへの道を爆走することになる。バンド史上、きわめて重要な転換点でもあったのだ。
さて、その10年近く前のヒットを、彼らの後輩、あるいは好敵手的存在でもあったフリートウッド・マックがどのように料理したか。
これが、なかなかイケるんである。
オリジナルのポップな持ち味を損なうことなく、一方その欠点であったビートのもたつきを解消、ラテンフレーバーも加味し洗練されたアレンジの、安定した演奏を聴かせてくれるのだ。
リード・ボーカルはウェルチ。彼のソフトでどことなくオトボケな歌声が、ポップなこの曲には意外とマッチしていてグー。
その一方で、ギターソロでもなかなかカッコよくキメていたりするので、あなどれない。
西海岸出身のアメリカ人であるウェルチがもたらした陽性なノリが、バンドをいい方向に導いているといっても、過言ではない。
もっとも、ウェルチはこのアルバムの後は、もう一作だけアルバムに携わったのちバンドを脱退、「パリス」というスリーピース・バンドを結成することとなる。
そして77年にはソロデビューしてアルバム「French Kiss」、シングル「Ebony Eyes」を大ヒットさせるに至る。かたやマックの方もほぼ同時期に、アルバム「Fleetwood Mac(ファンタスティック・マック)」で大ブレイクし、今日までのスーパースターの座を獲得するに至っている。
このシンクロニシティは、もちろん偶然のものではないはずだ。
アメリカ人が好むようなポップネスを、英国のバンドであるマックに植え付けてくれたのが、ウェルチ。それにより、バンドは変貌をとげることになる。成功の度合いからいえば、二者はまるでスケールが違うのだが、70年代前半のマックにおいてウェルチの果たした役割は、非常に大きかったといえよう。
ギターなどの演奏主体であったマックを、ボーカルやコーラスメインにシフトさせ、サウンド全体のバランスを重んずるように変えていった、そういうことなのだ。
いま一度、ウェルチの隠れた名演をチェックしてみてちょ。驚くほどモダンだから。