2012年5月6日(日)
#215 ニール・セダカ「Bad Blood」(The Hungry Years/Varese Sarabande)
#215 ニール・セダカ「Bad Blood」(The Hungry Years/Varese Sarabande)
ニール・セダカ、1975年の全米ナンバーワン・ヒット。セダカ、フィル・コーディ、ジェリー・リーバー、マイク・ストーラーの共作。セダカとグレアム・グールドマンによるプロデュース。
ニール・セダカといえば説明するまでもなく、50年代後半から60年代前半にかけて、数々のヒットを出し、ポール・アンカとともにトップ・アイドル的な存在だったシンガー。
しかし彼にも不遇な10年間があった。ヒットも出ず、ドサ回り、後輩人気シンガーの前座をやらざるをえない、しんどい日々が。きょうの一曲が収められたアルバム・タイトルが、まさにそれ。
彼の没落には、それなりの理由があった。ビートルズの人気だ。
若くイケメン揃いの英国軍団の侵攻に、大国アメリカもあえなく陥落してしまったのだ。
トップ・シンガーの座を明け渡し落ち目の三度笠、このままではなるまいぞと思っていた10年目、セダカにようやく起死回生のヒットが出た。
74年、当時人気絶頂の英国人シンガー、エルトン・ジョンのロケット・レコードに移籍、出したシングル「Laughter in the Rain(邦題:雨に微笑みを)」が大ヒット、全米ナンバーワンに昇りつめたのだ。
以後、60年代のヒット「悲しき慕情(Breaking Up Is Hard to Do)」のバラード・アレンジによる再録音、そしてこの「バッド・ブラッド」の3連続ナンバーワンヒット達成という、見事なハット・トリックをキメたのだった。
さらにおまけとして、新人デュオ、キャプテン&テニールにも曲を提供、「愛ある限り」「ロンリー・ナイト」が大ヒットした。
「ニール・セダカ、王者として完全復活!」であった。
復活の鍵は、やはり、彼が単なるシンガーでなく、佳い曲を書けるソングライターでもあったことに間違いない。
見た目はすっかりオジさんになってしまったが、その紡ぎ出すメロディは、いまだに多くのリスナーを魅了するものがあった。
デビュー時より、自作自演のスタイルを貫いてきたセダカならではの、快心の逆転打、それがこれらのヒット群なのだ。
さて、きょうの一曲はセダカにしては珍しい、メロディよりもビートに重点をおいたナンバー。
この曲を聴いた当時、17~18才の筆者はこのビートをなんとよぶのか、知らなかった。でも、とてもノリのいいリズムなので、いたく気に入ったものだ。
その数年後、筆者はそれを「セカンドライン」とよぶのだということを、リトル・フィートの存在とともに知ることになる。
バックで、セダカに負けじと目立っているボーカルは、エルトン・ジョン。ドラムはエルトン・バンドのナイジェル・オルスン。そしてプロデューサーは10CCのグレアム・グールドマン。いずれも英国人だ。一方、ソングライティングに参加しているのは、超がつくヒットメーカーのリーバー&ストーラー。
英米トップ・ミュージシャンによるネオ・ニューオーリンズ・サウンド、それがこの「バッド・ブラッド」なのだ。
クラビネットのイントロにはじまる、ファンキーなことこのうえないサウンドに、身も心も委ねてほしい。
セダカの声の明るさ、軽さに、永遠の青春を感じる一曲であります。