2012年7月1日(日)
#223 デュラン・デュラン「Thank You」(Thank You/EMI)
#223 デュラン・デュラン「Thank You」(Thank You/EMI)
デュラン・デュランによるレッド・ツェッぺリンのカバー・ナンバー。95年リリース。ロバート・プラント、ジミー・ペイジの作品。
デュラン・デュランは英国バーミンガムでニック・ローズ(kb)を中心に結成されたロック・バンド。81年にメジャー・デビュー。何度かの休止期を経つつも、現在もなお、トップ・バンドとして活躍している。
デビュー間もない80年代の彼らの人気といったら、ホントにすさまじまかった。出す曲、出すアルバムがすべてチャートイン、ビジュアルのよさもあってMTVの常連的存在でもあった。女性ファンの多さゆえに、彼らを80年代のビートルズに喩えるむきも多かった。
しかし、88年あたりを境に、しばらく表舞台から遠ざかるようになる。チャートインもピタッと途絶えてしまう。
そして約5年のブランクを経て93年、「ザ・ウェディング・アルバム」で復活、その中の2曲をヒットさせて、健在ぶりを示したのである。
きょうの一曲は、そんな「第二次黄金時代」に入った彼らの第二作、全編カバーという思い切った試みのアルバムからのタイトル・チュ-ン。
ご存じZEPのセカンド・アルバムのA面4曲目。ゆったりしたテンポのバラード・ナンバーだ。
この曲を特に気に入っていてレコーディングを提案したのは、ギターのウォーレン・ククルロ。リード・ボーカルのサイモン・ル・ボンは、ロバート・プラントとはだいぶん個性が異なる歌い手だが、難曲を見事自分のものにして、ZEPとはひと味違った世界を作り出している。
アレンジもZEPのオリジナル版をお手本にしながらも、楽器の選び方、レコーディング技術などに彼らなりの工夫を凝らして聴きごたえあるサウンドに仕上げている。
なお、この「Thank You」は、同年リリースのZEPトリビュート・アルバム「ENCOMIUM」にも収められたが、そちらではキーボード・アレンジを変えるなどしたショート・バージョンになっている。
音がより洗練されているのは、ショートバージョンのほうかな。こちらも、聴きくらべてみて欲しい。
かねがね思っていることだが、デュラン・デュランというバンドに対する評価は、彼らの実力に比べてだいぶん過小なものではないかという気がする。
初期の彼らはえてして「イケメン・バンド」という評価にとどまりがちだった。まるでビートルズの初期のように。婦女子が好む、ルックスしか取り柄のないバンド、男性リスナーにおいてはそういう扱いだった。
しかし、ビートルズが後に音楽性で頭角をあらわし、リスナーの支持を広げていったように、デュラン・デュランもただのアイドル・グループでは終わらなかった。
バンド結成10年を機に、日々のプロモーション活動に追われる状態からいったん降りて、5年ほど充電し、さまざまなアイデアをまとめて、新たなる局面(ステージ)へとむかっていったのだ。
アルバム「Thank You」を聴くと、彼らがいかにスライ&ファミリーストーン、パブリック・エナミーといったブラック・ミュージシャンの影響を受けているかが、よくわかる。
ブラック・ミュージックのビート、グルーヴ抜きでは、デュラン・デュランは語れない。
そういう意味でも、彼らはビートルズというよりはむしろ、レッド・ツェッぺリンに連なるバンドであるというべきだ。
きょうの一曲も、まさにそういう流れを証明する、トリビュート。
デュラン・デュランというバンドの懐の深さを、感じとってほしい。