2012年11月17日(土)
#242 ラリー・デイヴィス「Texas Flood」(Duke)
#242 ラリー・デイヴィス「Texas Flood」(Duke)
36年ミズーリ州カンサス・シティ生まれ、アーカンソー州リトルロック育ちのテキサス・ブルースマン、ラリー・デイヴィス、58年録音のシングル・チューン。デイヴィス自身の作品。
皆さんには、スティービー・レイ・ヴォーンのデビュー・アルバム(83年)のタイトル・チューンとしてあまりにも有名な曲であるが、オリジナルを聴いてみたいと思っても、この曲を収録しているCDで容易に入手できるものはほとんどなかったので、聴いたことのある人は意外と少ないんじゃないかな。
が、そこはIT時代の恩恵、いまでは単曲をmp3でダウンロードしたり、youtubeのような動画サイトで聴いたりすることが出来るようになった。まことにありがたい。
フライングVを握ったり、かついだりした写真でよく知られているギタリスト、デイヴィスだが、もともとはベーシストとして出発した。
50年代はフェントン・ロビンスンのもとで、また60年代はアルバート・キングのバックでベースを弾いており、独立後ギターに転向。68年にBBのヴァーゴ・レーベルでシングル録音をおこなう。
72年に交通事故に遭い、後遺症のためしばらくは引退状態だったが、周囲の励ましもあって82年カムバック。作品数は少ないものの、何枚かのアルバムを遺すも、94年に57歳の若さで亡くなっている。
遅咲きでヒットにもあまり恵まれず、初アルバムを出したのも交通事故からの復帰後、しかも若死にと、生きている間はあまり報われることがなかったが、いくつかの佳曲を遺し、それが死後も聴かれたり、カバーされたりしているのだから、ミュージシャン冥利に尽きるというものだろう。
まずは曲を聴いてみてほしい。レイ・ヴォーンでもおなじみの、特徴的なギターのイントロから始まる、スロー・ブルース。
シンプルなバック・サウンドに乗って歌われる、デイヴィスの適度に粘りのある声がいい感じだ。テキサスのいなたい雰囲気が、彼のちょっと脂っこい歌声にはある。
間違いやすいのだが、この曲で印象的な早弾きギターをキメているのは、歌っているデイヴィス本人ではなく、フェントン・ロビンスンなのだ。デイヴィス自身はベース担当なので、ご注意を。
したがって、デイヴィスのギター・プレイを聴きたいむきには、10年後、68年以降にレコーディングされた音源を聴いてみてほしい。そのころ以降の彼は、この「Texas Flood」みたいな、直球ど真ん中なブルースというよりはむしろ、ファンキー・ブルースのスタイルに移っている。
レイ・ヴォーンが90年にこの世を去り、彼の後押しを得て現役で頑張っていたデイヴィスもその後を追うように94年に亡くなってから、もう18年も経ってしまった。
でも、まったく変わることのない世界が、このわずか3分未満の音源の中に、いまもしっかりと続いているのだ。
VIVA BLUES、BLUES FOR EVERと呟きたくなるのだよ、この一曲を聴くたびに。