2012年8月5日(日)
#228 レイ・パーカーJr&レイディオ「Jack And Jill」(ベスト・オブ・レイ・パーカーJr/BGM JAPAN)
#228 レイ・パーカーJr&レイディオ「Jack And Jill」(ベスト・オブ・レイ・パーカーJr/BGM JAPAN)
レイ・パーカーJr&レイディオ、78年のデビュー・ヒット。レイ・パーカーJrの作品。
34年前のヒットだから覚えているご仁も少なかろうが、筆者は当時大学2年。人生で一番ヒマでゆとりがある時期だったので、さまざまなジャンルの音楽を貪欲に聴きあさっていた。で、当時AMといわずFMといわずものすごく頻繁にかかっていた(いまでいうところのパワープレイね)のが、この曲だったという記憶がある。
「Jack And Jill」は、彼らの初めての日本でのヒットでもあった。ただ、その頃は単に「レイディオ」というアーティスト名だった。インターネットのなかった時代、洋楽情報はきわめて少なく、白人のロックなら「ミュージックライフ」という雑誌が詳しい情報を提供してくれていたが、ブラックミュージックについてはほとんど取り上げてくれない。誰がこの曲のリードボーカルかということさえ、皆目わからなかったのだ。
その後、レイディオは解散、リーダーだったレイ・パーカーJrがソロとして再デビュー、「A Woman Needs Love」「The Other Woman」などのヒットを出して、筆者もようやくその名を知ることとなったのだ。
レイ・パーカーJrについて調べてみると、55年ミシガン州デトロイトの生まれ。12歳でギターを始めた、というあたりはごく平均的なのだが、早熟の天才タイプだったようでたちまち上達、翌年13歳で黒人グループ、スピナーズに参加、スティービー・ワンダー、グラディス・ナイト、テンプテーションズのバックを経て、15歳でインヴィクタス/ホットワックスレーベルの専属ギタリストになってしまう。文句なしにスゴい人なのだ。
以後は売れっ子セッション・ギタリストとしてアレサ・フランクリン、ビル・ウィザーズ、ボビー・ウーマックらのバックをつとめる一方、ソングライターとしてバリー・ホワイト、ナンシー・ウィルスン、ルーファスらに楽曲を提供している。
フツーはそのまま進めば、辣腕プロデューサーとして音楽界に君臨、って方向にいきそうだが、この人、本質的に自分自身が目立ちたい人のようで、22歳の頃くだんのレイディオを結成、自ら歌い始めるんである。
まあその歌は、ものすごくうまいってレベルではなく、いいとこプロの歌手として及第点ってところなのだが、彼の真の面目は、そのサウンド作りのセンスにこそあるといえよう。
もともとスタジオ・プレイヤー出身だっただけに、アレンジ、ミキシングなどはお手のもの、トータルバランスのとれた音作りが出来る才能の持ち主なのだ。
歌はまあご愛嬌って程度でも、そのサウンドはきわめてダンサブルでグルーヴ感にあふれている。これがレイ・パーカーJrの魅力。
もっとも、ご本人のほうは、どうもその世間的な評価とは違う自己認識をしているみたいで、「オレってイケてる?セクシー?」みたいなアピールをしきりにやってみたり、かと思うと「ゴーストバスターズ」みたいなおちゃらけた方向に走ってみたりで、やや迷走気味なのが残念。
先年、クルセイダーズが来日した際に、そのサポート・メンバーとして参加していた彼の演奏を観る機会があったのだが、生真面目に演奏していたかと思えば、回りにのせられるとついついお調子者になってしまう、みたいな「ちょっとおかしな人」だった。残念ながら、どう逆立ちしても「セクシーなスーパー・スター」にはなりえないね、彼は(笑)。
でも、演奏者、作曲家、アレンジャーとしては超一級だと思う。この弱冠はたちそこそこで作った「Jack And Jill」もハンパない完成度で、さすが早熟の天才だと感服。円熟味さえ感じさせる、レイディオ・ワールドを堪能してみて。