2012年7月8日(日)
#224 アレサ・フランクリン「(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」(Lady Soul/Atlantic)
アレサ・フランクリン、67年のヒット。キャロル・キング、ジェリー・ゴフィン、ジェリー・ウェクスラーの作品。
クイーン・オブ・ソウル、アレサ(原音主義でアリサと書くむきもありが、ここは一般的な表記でいく)・フランクリンについては、あれこれ書き出したらキリがないので、ここはまず曲について。
キャロル・キングはソロ・デビュー(正確には再々デビューだが)以前の60年代、夫のジェリー・ゴフィンとのコンビで、主に黒人アーティストたちに「ロコモーション」「ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモロウ」「アップ・オン・ザ・ルーフ」といったヒット曲を提供していたが、この「ナチュラル・ウーマン」もそのひとつ。
内容的には、それまでの楽天主義的なヒット曲群とはちょっと違っていて、より内省的で、人生や恋について深く考える歌になっている。
ひとりの男性と知り合い、恋をすることで、それまでとは違った、もっと自然体の自分にうまれ変わっていく、そういう「再生」のうたなのである。
当時、キングとゲフィンは夫婦としては末期を迎えており、翌年には正式に離婚することになるのであるが、そんな時期にも、これだけの素晴らしい歌を共作したというのは、驚くべきことではないかな。
そして、この良曲がさらに「名曲」とまで賞賛されるようになったのは、もちろん、アレサの歌唱力以外のなにものでもない。
アレサは当時25才。10代から結婚していたが、その夫兼マネージャー、テッド・ホワイトは彼女に暴力をふるうことも辞さない男。けっして幸福な実生活を送っていたとはいえなかった(のちに離婚)。そんな彼女自身の事情もあいまってか、「ナチュラル・ウーマン」は、深いニュアンスをもつ曲に仕上がったといえる。
歌手としては大ヒットを飛ばし、私生活も絶好調、一点の翳りもない人生を送ってま~す、みたいな女性には歌えない、いや歌ったとしても非常に薄っぺらく聴こえてしまう、そんな曲なのである。
のちに、作者のキング自身も、有名なアルバム「つづれおり」のラストでこの曲を歌っているが、キング自身の人生経験も、この歌に強い魅力、輝きを与えているように感じる。
不幸な結婚、そして離婚という人生の悲劇を通して、よりしなやかでしたたかな自分を獲得していった、才能ある女性たち。
ありきたりな、ハッピー・エンドの歌にはない、リアルな人生を、この「ナチュラル・ウーマン」に感じとってほしい。
アレサの94年、当時の大統領夫妻を前に披露したライブも、あわせて観てほしい。20代の高いテンションの歌声も見事だが、50代の、少し抑え気味ながらじわじわと情感を高めていくような歌声も、それ以上に素晴らしい。
歳月を経て、より高いステージへと常に進化していくアレサ。けっしてひと所には、とどまってはいないのだ。
「誰もアレサに追いつくことはできない」。あなたもそう思うにちがいない。