記憶探偵〜益田啓一郎のブログ(旧博多湾つれづれ紀行)

古写真古地図から街の歴史逸話を発掘する日々。ブラタモリ案内人等、地域の魅力発掘!まち巡りを綴ります。

吉田初三郎の軌跡を求めて~熊本篇

2007年03月20日 22時06分19秒 | 吉田初三郎
 定期的に吉田初三郎が九州・山口地区に残した絹本原画を観て
回っている。未見でこの春に確認したい原画のひとつに、玉名市
の原画がある。数年前に廃業した玉名・立願寺温泉の紅葉館の大
広間に掲げられていた戦前の原画で、地元の博物館関係者のもと
へ渡っていると聞く。尾道市の原画と同じく保存状態が悪いとの
ことで、未公開なのだそうだ。

 この図の印刷折本は「立願寺温泉(昭和10年)」である。初
三郎の観光社の印刷ではなく地元熊本の業者のためか、仕上がり
は他の初三郎図と比べると見劣りがする。まだこの図の原画は実
際に観ていないが、この原画が映っている戦前の紅葉館絵葉書が
ある。絵葉書で観る限り、日本画調の良い仕上がりであり、ぜひ
観てみたいと思う理由になっている。

 初三郎の熊本関係の原画は天草・牛深海彩記念館に常設展示さ
れている「牛深町」原画以外では、昭和20年終戦前後に熊本県
佐敷で制作された「阿蘇大観図(神奈川・徳富蘇峰記念館蔵)」
くらいしか所在が判っていない。作品としては「熊本県」「菊池
温泉」「山鹿温泉」「人吉温泉」「水俣市」などがある。

 山鹿と菊池の原画は探せば出てきそうな気配である。というの
も初三郎が懇意にしていた山鹿温泉・清流荘など数カ所は現存し
ており、噂では「菊池温泉」の原画も現地にあるという。春から
夏にかけてぜひ捜索したいと思っている。

 また人吉温泉には翠嵐楼と鍋屋旅館があり、初三郎原画と前田
虹映原画の双方がある可能性が高い。鍋屋旅館は現在のパンフレ
ットにも虹映作の鳥瞰図をイメージに使用している。

 これまでの調査であまり知られていなかったが、初三郎は終戦
前の昭和19年から22年までの大半を熊本県佐敷で過ごしてい
る。戦後、廣島図書からの依頼で戦後画業をスタートさせた際も
佐敷と広島、京都を往復し「広島原爆八連図」を制作している。
前出の「阿蘇大観図」は当時の熊本選出代議士・古荘氏や、九州
産業交通社長らがスポンサーとなり制作されたものである。

 戦後、昭和22年春には日本観光倶楽部の井上靖氏より「全日
本温泉名勝大鑑画集」制作の依頼を受け、熊本篇の作画に取りか
かっている旨が、同社発行の「観光クラブ昭和22年4月号」や
初三郎自身の日記「佐敷日記」に記されている。

 これに関する作品が全く未見なため、どこまで作業が進んだの
かはまだ不明である。しかし、日記によれば熊本県下の踏査取材
は22年6月までに終了しているのだが、7月以降は同年秋に天
覧作となる「山口県全県景勝図(山口県政資料館に常設展示)」
の制作に集中しており、制作が後回しになった可能性も高い。

 初三郎は戦後、北海道を中心に作品を発表しているが、北海道
関係は青森・種差の潮観荘画室で制作している。それに対し、以
外に多いのが九州・山口関係の作品で、図柄確認しているだけで
も25作品にのぼる。もちろん熊本の温泉篇は含まず、しかし多く
の作品が佐敷で構想が練られ、京都の工房で仕上げられている。

 今年の課題のひとつに、初三郎の「佐敷日記」「種差日記」の
解読がある。両日記は昭和21年から22年暮れにかけてほぼ
毎日記されており、天覧作や広島原爆図の制作過程や人物交流、
そして日々の生活ぶり、食事内容まで細かく記されていて、とて
も楽しい。22年初夏、初三郎は2週間ほど病に伏しているが、
体調が思わしくなくなったことも「全日本温泉名勝大鑑画集」が
進まなかった一因かもしれない。

 とにかく時間を作って詳細の解読とともに、西日本新聞など各
誌の取材を受けていることまで細かく書かれているので、紙面等
で裏付けも取っていきたい。印刷原板となるトレース図は「串木
野」「鹿児島」「都城」「直方」「田川」「豊前」「宇部」など
が見つかったので、これらのうち原画が見つかっていないものの
現地調査も進める。
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1 コメント

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初三郎作品の情報提供 (miyazaki)
2011-05-06 12:55:24
こんにちは。熊本県山鹿市在住者です。当地に所在する初三郎作品について、info@asocie.jpあてメールにて情報提供させていただきました。ご確認いただければ幸いです。

※新発見の作品ではなく、『菊池史蹟図』(菊池市菊池神社展示)と同一構図の作品です。すでにご存知かもしれませんが…
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