ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

荒沢1号ダム(安比防災ダム)

2022-11-27 17:10:25 | 岩手県
2022年10月22日 荒沢1号ダム(安比防災ダム)
 
荒沢1号ダムは岩手県八幡平市細野の馬淵川水系安比川上流部にある農地防災目的のロックフィルダムです。
安比川上流域は火山堆積物で形成された脆い地盤で『荒沢』という地名が示すように豪雨の際には土砂流出量が急増し下流域ではしばしば洪水被害が発生しました。
これを受け岩手県は1952年(昭和27年)に農林省(現農水省)の補助を受けた荒沢防災ダム事業を採択、安比川最上流部への3基の農地防災ダム建設が着手されました。
1960年(昭和35年)の荒沢3号ダム(白沢防災ダム)に次いで、1972年(昭和47年)に安比川本流に建設されたのが荒沢1号ダム(安比防災ダム)です。
さらに1989年(平成元年)の荒沢2号ダム(鍋越防災ダム)の完成により事業着手から37年の年月をかけた荒沢防災ダム事業はようやく竣工に至りました。
1号~3号ダムは完成後は安代町が管理を受託、現在は町村合併により八幡平市が管理を引き継ぎ、安比川流域の農地防災を担っています。
なお、荒沢1号2号3号という名称はダムの位置によって振られた番号であり、建設順とは関係ありません。

安比川右岸のダートの林道を西に進むと荒沢1号ダムに到着します。
ダムは林道から一段下がった位置にあり、まずダムを俯瞰する形になります。
訪問時は周辺の紅葉がちょうど見ごろを迎えなかなかの眺め。


堤高38メートルのロックフィルダムで、下流側は犬走を挟んだ2段構成。
ダム中央の赤い階段がいいアクセントになっています。
竣工からちょうど50年ですが、リップラップには多少草が生えているだけで他の農業用ロックダムに比べればよく整備されていると言えます。


天端は関係者以外立ち入り禁止のため、右岸からの見学に留まります。
対岸に横越流式洪水吐があり導流部が流下しています。


親柱の銘版。
竣工から50年ですので、さすがに細部はあちこち傷んでします。


荒沢1号ダム1番のポイントは上流面。
ここは稼働中のダムとしては全国で5基しかないコンクリート表面遮水壁型(CFRD)ダムです。
有効貯水容量すべてが農地防災容量のため、ダム湖は空っぽ。


左岸の横越流式洪水吐と赤いゲージの放流ゲートをズームアップ。
流水型防災ダムで、通常は流入量はそのまま放流ゲートから放流し、洪水時はダムでカットして下流の洪水を防ぐ仕組み。


ダム湖が空のため、コンクリート遮水壁全体を見ることができます。
のっぺり感が独特。


放流ゲートをズームアップ。
農地防災フィルダムの場合、円筒形や斜樋型式の常用洪水吐が多いのですが、ここは四角いゲージ。
色褪せているとはいえ赤いカラーと相まってよく目立ちます。


ダムの説明版。


竣工記念碑
正式名称は荒沢1~3号ですが、記念碑では河川名から安比、鍋越、白沢という名称になっています。


(追記)
荒沢1号ダムには農地防災容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

0252 荒沢1号ダム(安比防災ダム)(1887)
岩手県八幡平市細野 
馬淵川水系安比川 
 
 
38メートル 
157.7メートル 
2139千㎥/1808千㎥ 
八幡平市 
1972年
◎治水協定が締結されたダム

外山ダム

2022-11-27 10:00:00 | 岩手県
2022年10月21日 外山ダム
 
外山(そとやま)ダムは左岸が岩手県盛岡市浅岸、右岸が同市薮川の北上川水系外山川にある東北電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
1943年(昭和18年)に東北振興電力(株)によって建設され、日本発送電の接収を経て、1951年(昭和26年)の電気事業再編成により東北電力(株)が事業継承しました。 
ちなみに東北振興電力(株)は昭和初期の冷害や三陸地震、さらには昭和恐慌で疲弊した東北地方の産業振興目的で設立された国策会社です   
外山ダムから直接発電所への取水を行っているわけではなく、外山川流量の季節変動を平準化し下流の米内発電所の発電効率を安定させる目的で建設されました。 
 
盛岡市街から国道455号線を東に約20キロ進むと外山ダムに到着します。
ダム直下に外山大橋が架かり、絶好の展望ポイントとなっています。
外山川を締め切る逆三角形の堤体はなかなかの男前。
提体は竣工当時のものですが、改修や補強によりコンクリートの色調が斑になっています。


アングルを変えて。
背後のダム湖は総貯水容量375万1000立米。
下流の米内発電所の出力は最大4300キロワットで、これだけの設備を要した割には発電能力がずいぶん小さいように思えます。


左岸には横越流式洪水吐があり、導流部が地山を伝って下流に流下します。
洪水吐を跨ぐ管理橋はコンクリートが新しく、改修によって刷新されたようです。
また提体中ほどから放流管が二本突き出ており、これで外山川の流量を調節します。

左岸ダムサイトから
洪水吐の管理橋だけコンクリートが新しいのがわかります。


天端は立ち入り禁止。


横越流式洪水吐の側壁から河川維持放流が行われています。
維持放流の義務化によりバルブが後付けされたのでしょう。


左岸の横越流式洪水吐
薄く越流しています。


上流から洪水吐を望む。


上流面をズームアップ
堤体中央の二つの建屋は放流管の取水口で、ここで放流量を調節します。
手前の建屋は河川維持放流用バルブの操作室。


左岸洪水吐直上には艇庫とインクラインがあります。


追記
外山ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え 事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

0234 外山ダム(1886)
左岸 岩手県盛岡市浅岸
右岸     同市薮川
北上川水系外山川
 
 
33メートル 
121メートル 
3751千㎥/3233千㎥ 
東北電力(株) 
1943年
◎治水協定が締結されたダム

岩洞ダム

2022-11-26 16:00:00 | 岩手県
2022年10月21日 岩洞ダム

岩洞ダムは岩手県盛岡市薮川の北上川水系丹藤川にある岩手県企業局が管理する灌漑・発電目的のロックフィルダムです。
滝沢市から盛岡市一帯の岩手山麓東裾地帯は透水性の高い火山堆積物で形成され水田には不向きで、戦前まで零細な畑作が営まれるのみでした。
さらに水源となる北上川は松尾鉱山の鉱毒に侵され、大規模な農地開発には新たな水源確保が必須課題となっていました。
こうした中、1941年(昭和16年)に国営岩手山麓開拓建設事業が着手され当地域の本格的な農業開発が開始されます。
戦後事業は『北上特定地域総合開発計画(KVA)』に組み込まれ、農林省により1960年(昭和35年)に灌漑用水源として建設されたのが岩洞ダムです。
岩洞ダムはわが国最初のゾーン型ロックフィルダムで、中規模ロックフィルダムとしては希少な傾斜コア方式を採用、また下流面も犬走を挟んだ階段状になっており外見上も異形のロックフィルダムとなっています。
また総貯水容量6560万立米は本州の農業用ダムとしては最大規模を誇ります。
運用開始後は発電事業者として事業参加した岩手県企業局が管理を受託し、幹線支線合計約300キロの用水路で岩手山麓東裾地域約1500ヘクタールの農地に灌漑用水を供給するとともに、落差530メートルを利用して岩手県企業局岩洞第1及び第2発電所で合わせて最大4万9600キロワットのダム水路式発電を行っています。
事業の竣工により同地域では稲作のほか果実や畑作が盛んとなり、滝沢すいかや寒冷地用サツマイモのクイックスイートなどの特産物も多数誕生しています。
一方ダム湖の岩洞湖は豊かな自然に包まれ、ワカサギ釣りのほかキャンプ、カヌーなど多様なレクリエーションの場となっておりダム湖百選に選ばれています。

盛岡市街から国道453号を東に約35キロ進むと岩洞ダムに到着します。
国道はダム右岸を通っています。
下流面は犬走を挟んだ3段構成、ロックフィルダムでこのような形状は北海道の日新ダムしか思い浮かびません。
対岸の白いコンクリートは洪水吐導流部の法面です。


上流面。


右岸ダムサイトの記念碑。


ダム下は芝生の広場になっていますが立入禁止。
一方天端は徒歩のみ開放。


ダム下の建屋は監査廊入口。
竣工以来50年以上が経過しダムをはじめ灌漑設備の多くで老朽化が進んでいるため、農水省による『国営岩手山麓農業水利事業』により大規模な改修工事が進められています。
駐車中の車や人もそのためのもの。

右岸の繋留設備と巡視艇
奥は管理事務所で岩手県企業局の職員が常駐し、ここでダムカードがもらえます。


左岸下流側の丹藤川。
河川維持放流が行われていますが、この水の取水口がわかりません。


ダム湖の岩洞湖
農業用ダムとしては本州最大の総貯水容量6560万立米を誇り、ダム湖百選に選ばれています。
流域面積219.6平方キロのうち直接流域は48.6平方キロに留まり、集水の約8割は周辺河川からの導水に依ります。
また堆砂がほとんどないのが特徴で、計画堆砂容量を満たすには約70万年かかるとされています。


左岸の洪水吐導流部
訪問時は改修工事が行われていました。


洪水吐のローラーゲート。


上流から。

取水設備はダムから5キロ西側のダム湖インレット近くにありますが、今回は時間の関係でパスとなってしまいました。

(追記)
岩洞ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え 事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
0242 岩洞ダム(1885)
岩手県盛岡市薮川
北上川水系丹藤川
AP
40メートル
351メートル
65600千㎥/46300千㎥
岩手県企業局
1960年
◎治水協定が締結されたダム

綱取ダム

2022-11-26 10:00:00 | 岩手県
2022年10月21日 綱取ダム

綱取ダムは左岸が岩手県盛岡市新庄、右岸が同市浅岸の北上川水系中津川にある岩手県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
中津川は盛岡市街を貫流し盛岡城の外堀として活用されるなど水の街盛岡のシンボル的河川となっていますが、一方で洪水被害も多く中津川の抜本的な治水は江戸時代以来の課題となっていました。
高度成長期による上水需要の拡大もあり、県は中津川への多目的ダム建設を軸とした中津川総合開発事業に着手し1982年(昭和57年)に竣工したのが綱取ダムです。
綱取ダムは建設省(現国交省)の補助を受けた補助多目的ダムで、中津川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水水への補給、盛岡市への上水道用水の供給を目的としています。

盛岡市街から県道36号上米内湯沢線を東進すると綱取ダムに到着します。
ダム下は二ツ森公園になっており東屋などがあります。
非常用洪水吐はクレスト自由越流頂、一方常用洪水吐はコンジット高圧ラジアルゲートとゲートレスダムへの過渡期のダムと言えます。


昭和50年代のダムらしく前面に張り出したコンジットゲートハウス。


左岸高台に展望台があり堤体やダム湖を俯瞰できます。
ロッジ風の赤い屋根の管理事務所がよく目立ちます。


右岸ダムサイトの記念碑。


上流面
天端を県道36号が通り、越流部は上流側にオフセットされています。


ダム湖は総貯水容量1500万立米
堤体直上に市道の綱取大橋が架かります。
ダム湖のこの位置に橋が架かるのは珍しい。


天端から
放流設備の配置も変わっており、利水用のホロージェットバルブが右岸堤体下部に設置されています。
写真右手の放流はこのホロージェットバルブに依るものです。
右岸下流側の建屋は管理用小水力発電所(最大200キロワット)。


天端は県道36号線、そこそこの交通量があります。
右奥はロッジ風の管理事務所。


左岸から下流面。


ダムの説明版。


綱取大橋から
ダム直上に架かっており、上流面を見るにはこれ以上ない展望ポイント。


右手は取水設備、左はコンジット予備ゲート。

追記
綱取ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

0258 綱取ダム(1884)
左岸 岩手県盛岡市新庄
右岸     同市浅岸
北上川水系中津川
FNW
59メートル
247メートル
15000千㎥/13000千㎥
岩手県県土整備部
1982年
◎治水協定が締結されたダム

簗川ダム

2022-11-25 20:00:00 | 岩手県
2022年10月21日 簗川ダム
 
簗川ダムは岩手県盛岡市川目の北上川水系簗川にある岩手県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
国交省の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、簗川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、盛岡市及び矢巾町への上水道用水の供給、利水放流を利用した岩手県企業局簗川発電所でのダム式発電(最大1900キロワット)を目的として2020年(令和2年)に竣工しました。
岩手県内では最も新しいダムであり、また総貯水容量1910万立米は岩手県県土整備部が管理するダムとしては最大となっています。

盛岡市街から国道106号線を東進すると簗川ダムに到達します。
ダム下からは見れないという事前情報がありましたが、とりあえずダム下へ。
ダムの手前にゲートがあり本来は立ち入り禁止ですが、訪問時は県企業局簗川発電所のメンテナンスのためゲートが開いていました。


ダメもとで写真撮影だけでもとお願いするとなんとOK。
非常用洪水吐としてクレスト自由越流頂10門、常用洪水吐として自然調節式オリフィス1門を備えたいかにも今どきのゲートレスダム。
左下の建屋は県企業局簗川発電所。


国道106号に簗川ダムを示す標識があり、これに従うと左岸ダムサイトへ。
左岸のクレーン台座跡が展望台になっておりダムを俯瞰できます。
ダムサイトには駐車スペースが確保され奇麗に整備されています。


天端は徒歩のみ立ち入り可能。


ダムの説明版。


完成してまだ2年、いかにも出来立てと言ったコンクリート。


管理事務所
普段は職員の駐在はなく巡回のみ。


上流面
一見水位が低く見えますがこれで常時満水位。


天端から
減勢工には副ダムが二つ
右手の建屋は県企業局簗川発電所、手前のコンクリートの地下に放流設備があります。


左手がエレベーター棟、右手は取水設備機械室
管理事務所も含めて屋根や壁の角はRを使ったザインで統一されています。


注目すべきは取水設備
外殻がなくむき出しになっており、取水設備の構造がよくわかります。


総貯水容量1910万立米のダム湖
岩手県県土整備部が管理する補助ダムでは最大貯水容量となります。


追記
簗川ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
2975 簗川ダム(1883)
岩手県盛岡市川目
北上川水系簗川
FNWP
77.2メートル
242.7メートル
19100千㎥/16700千㎥
岩手県県土整備部
2020年
◎治水協定が締結されたダム

田瀬ダム

2016-05-11 21:00:00 | 岩手県
2016年5月4日 田瀬ダム
 
田瀬ダムは岩手県花巻市東和田町田瀬の北上川水系猿ヶ石川にある国交省東北地方整備局が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
ダム建設事業としては1941年(昭和16年)に内務省直轄事業として着手されますが、戦争激化により中断、戦後北上特定地域総合開発計画(KVA)の一環として、再着手され日本最初の建設省(現国交省)直轄ダムとして1954年(昭和29年)に完成しました。
特定多目的ダム法施行前ということで、ダムの括りとしては兼用工作物となります。
田瀬ダムは猿ヶ石川および北上川の洪水調節、稗和地区および江刺地区の約6000ヘクタール(完成当時は9500ヘクタール)への灌漑用水の供給、電源開発東和発電所での最大2万7000キロワットのダム水路式発電を目的としています。
洪水調節については北上川ダム統合管理事務所で四十四田ダム御所ダム湯田ダム胆沢ダム(再)とともに統合管理されています。
 
ダム湖の田瀬湖は関係自治体等によりレクリエーション施設の整備が進められダム湖百選に選ばれているほか、
2021年(令和3年)には『北上川上流総合開発ダム群』として土木学会選奨土木遺産に選定されました。
 
今回は釜石道の東和インターから県道284号~178号経由でダム左岸上流側からアプローチしました。
ダム湖(田瀬湖)上流から
クレストに6門のラジアルゲート。
 
ダム左岸に管理事務所と駐車場があります。
左岸から。
 
左岸に展望台があり下流側から俯瞰します。
逆光になってしまいました。
 
建設当時の常用放流設備は部分開放ができませんでした。
そこで1998年(平成10年)に既設堤体に5メートルの穴を削孔して新たな常用放流設備を設置しました。
 
減勢工に並ぶ十字ブロック。
 
天端にあるガントリークレーン
 
天端は県道178号が通っています。
 
右岸から
 
取水棟を遠望
 
こちらは灌漑用水の斜樋。
 
戦時中に着工され戦中及び戦後の建設中断をはさんで1953年にようやく完成した苦難のダム。
建設の苦難は三船敏郎主演の映画『激流』の舞台にもなりました。
堤体を刳り貫いて付加された常用放流設備など構造的には見どころたっぷりのダムですが、下流が立ち入り禁止で見学ポイントが限定されているのが玉にキズ。
田瀬ダムの訪問で北上川5大ダムをすべて見学することができました。
 
追記
田瀬ダムには洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0238 田瀬ダム(0373)
岩手県花巻市東和町田瀬
北上川水系猿ヶ石川
FAP
81.5メートル
320メートル
146500千㎥/101800千㎥
国交省東北地方整備局
1954年
◎治水協定が締結されたダム

胆沢ダム(再)

2016-05-09 14:50:00 | 岩手県
2016年5月3日 胆沢ダム(再)
 
胆沢ダム(再)は岩手県奥州市胆沢区若柳の北上川水系胆沢川にある国交省東北地方整備局が管理する多目的ロックフィルダムです。
北上川総合開発事業(KVA)の一環として1953年(昭和28年)に北上川の主要支流である胆沢川に石渕ダムが建設されましたが、灌漑重視で建設され洪水調節容量が小さかったことから異常洪水時防災操が頻発、ダム再開発による洪水調節機能の強化が迫られました。
そして2013年(平成28年)に石渕ダムを取り込む形で新たに建設されたのが胆沢ダム(再)です。
胆沢ダム(再)は国交省直轄事業で建設された特定多目的ダムで、胆沢川および北上川の洪水調節、安定した河川流量の維持と既得取水権への用水補給、胆沢川流域農地への新規灌漑用水の供給、奥州市への上水道用水の供給、電源開発(株)胆沢第一発電所での最大1万4200キロワットのダム式発電を目的としているほか、河川維持放流を利用して岩手県企業局胆沢第三発電所で最大1500キロワットの小水量発電を行っています。
洪水調節については北上川ダム統合管理事務所で四十四田ダム御所ダム田瀬ダム湯田ダムとともに統合管理されています。
 
胆沢ダムは堤高127メートル(東北第1位)、堤頂長723メートル、堤体積1350万立米(全国第3位)を誇る日本有数の巨大ロックフィルダムで、日本ダム協会により日本100ダムに選ばれているほか、ダム湖に沈んだ石淵ダムは2021年(令和3年)に『北上川上流総合開発ダム銀』として土木学会選奨土木遺産に選定されました。
 
国道397号を西に向かうと正面に胆沢ダムの巨大な堤体が見えてきます。
左岸に駐車場があり車を止めて見学開始です。
延々と続くロックフィルは圧巻。
 
奥にゲートを備えた独特の洪水吐
融雪放流が行われています。
 
洪水吐のスケールもケタ違い。
 
4段の副ダムを備える減勢工
右手は胆沢発電所。
 
天端から洪水吐
奥はインクライン。
 
右岸の取水棟
 
右岸から減勢工と発電所。
 
右岸から
堤体のウエーブが独特。
堤頂長723メートル、往復すれば約1.5キロ~。
 
下流から遠望。
 
右岸展望台から俯瞰。
 
とにかくスケールの大きさが際立つロックフィル。
そんなダムを俯瞰できる展望台があるのがうれしい。
今回はあいにくの曇天だったが、ぜひ晴天の日に焼石連峰とともに眺めてみたい。
 
追記
胆沢ダムには洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0277 胆沢ダム(再)(0372)
岩手県奥州市胆沢区若柳
北上川水系胆沢川
FNAWP
127メートル
723メートル
143000千㎥/132000千㎥
国交省東北地方整備局
2013年
◎治水協定が締結されたダム

豊沢ダム

2016-05-09 13:30:00 | 岩手県
2016年5月3日 豊沢ダム
 
豊沢ダムは岩手県花巻市豊沢の北上川水系豊沢川にある灌漑目的の重力式コンクリートダムです。
1941年(昭和16年)に岩手県営事業として着工されましたが、戦中戦後の混乱で事業は中断。
1949年(昭和24年)に国営豊沢川農業水利事業に移管され1961年(昭和36年)に豊沢ダムが竣工しました。
完成後は岩手県農林水産部が管理を受託し、豊沢川土地改良区の約3700ヘクタールの農地に灌漑用水を供給しています。
総貯水容量2335万6000立米と農業用ダムでは全国屈指の規模を誇っています。
 
県道19号を北上、花巻温泉郷を抜けると豊沢ダム右岸に到着します。
赤いラジアルゲートを3門備えていますが、こちらからは見えません。
 
取水設備
融雪期ということで高い水位になっています。
 
赤く塗られたゲート巻き上げ機。
 
バルブ放流が行われています。
 
減勢工から下流
険しい渓谷になっていてダムを下流から見る場所はなさそう。
 
天端は県道12号が通っており西和賀へ抜ける車がそこそこ通過します。
 
左岸からもゲートが見えそうで見えない。
 
上流から
 
追記
豊沢ダムは洪水調節容量のない利水ダムですが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流により新たに洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0245 豊沢ダム(0371)
岩手県花巻市豊沢
北上川水系豊沢川
59.1メートル
150メートル
23356千㎥/23257千㎥
岩手県農林水産部
1961年
◎治水協定が締結されたダム

時戸沢溜池

2016-05-09 13:00:00 | 岩手県
2016年5月3日 時戸沢溜池
 
時戸沢溜池は北上市和賀町横川目の北上川水系時戸沢川にある灌漑目的のアースフィルダムです。
ダム便覧には1988年(平成元年)に時戸沢土地改良区の事業で竣工と記されており、国や県の補助を受けた団体営事業で改修、もしくは建設されたものと推察されます。
現在は土地改良区の統合で一帯の溜池ともども岩手中部土地改良区が管理を行っています。
 
ため池への入り口がわからず最寄りの高屋集落で道を聞いて無事到着することができました。
ダムへの道は時戸沢川に沿ったダートの林道のため、高屋集落に車をデポして往復約2キロを歩いての訪問です。
 
溜池としては朝訪問にした橇引沢や千貫石、岩崎農場などに比べるとずいぶん小規模、草も伸び始めています。
 
上流面はコンクリート補強されていますが、こちらも草が伸びています。
 
総貯水容量5万4000立米の小さな溜池です。
 
洪水吐は越流しています。
 
洪水吐は近年改修されたようでコンクリートがまだ新しい。
 
左岸に斜樋がありますが、草が深く行くのはやめます。
 
0228 時戸沢溜池(0370
ため池コード 320610048
岩手県北上市和賀町横川目
北上川水系時戸沢川
16メートル
105メートル
54千㎥/54千㎥
岩手中部土地改良区
1988年

湯田ダム

2016-05-09 12:45:00 | 岩手県
2016年5月3日 湯田ダム
 
湯田ダムは岩手県和賀郡西和賀町杉名畑の北上川水系和賀川にある国交省東北地方整備局が管理する多目的重力式アーチダムです。
北上特定地域総合開発計画(KVA)によって1964年(昭和39年)に建設された特定多目的ダムで、和賀川および北上川の洪水調節、和賀川流域4市町約2700ヘクタールの農地への灌漑用水の供給、岩手県企業局仙人発電所(最大3万7600キロワット)及び東北自然エネルギー(株)和賀川発電所(最大1万7500キロワット)でのダム水路式発電を目的としています。
洪水調節については北上川ダム統合管理事務所で四十四田ダム御所ダム田瀬ダム胆沢ダム(再)とともに統合管理されています。
ダムは日本100ダムに選ばれているほか、錦秋湖と命名されたダム湖はその名の通り紅葉の名所として知られ、湖畔にはハイウエイオアシスを併設した秋田道錦秋湖SAなどが設置されこちらもダム湖百選に選ばれています。
また2021年(令和3年)には『北上川上流総合開発ダム群』として土木学会選奨土木遺産に選定されました。
 
国道107号を西に向かい、当楽トンネルを抜けると左手に湯田ダムが姿を見せます。
ダムサイトの駐車場に車を止めてスノーシェッドに沿って国道を戻ると湯田ダムを正面から見ることができます。
これまで見たことがない複雑な造形が巨大なすり鉢の中におさまっています。
 
全体だけではなく個々のパーツも個性的。
 
丸みを帯びたクレストゲートからの導流部とジャンプ台式減勢工
直線的でいかついコンジット。
 
ジャンプ台減勢工をズームアップ。
 
上流から
下流から眺める姿とは全くの別人です。
 
左岸天端から
 
減勢工と副ダム。
 
ジャンプ台をゲート越しに。
 
取水設備とインクライン。
 
右岸から。
 
コンジットゲートズームアップ。
 
追記
湯田ダムには洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0247 湯田ダム(0369)
岩手県和賀郡西和賀町杉名畑
北上川水系和賀川
FAP
GA
89.5メートル
265メートル
114160千㎥/93710千㎥
国交省東北地方整備局
1964年
◎治水協定が締結されたダム

石羽根ダム

2016-05-09 12:30:00 | 岩手県
2016年5月3日 石羽根ダム
 
石羽根ダムは左岸が岩手県来北上市和賀町横川目、右岸が同町岩沢の北上川水系和賀川にある東北自然エネルギー(株)が管理する発電目的の重力式コンクリート・フィル複合ダムでです。
1954年(昭和29年)に非鉄金属メーカーだった当時の日本電興(のちの日本重化学工業)の自家用発電施設として建設され、石羽根発電所で最大1万700キロワットのダム式水力発電が開始されました。
石羽根ダムは左岸が重力式コンクリート、右岸がアースフィルダムとなっており竣工ベースでは日本最最古のフィルコンバインドダムです。
2003年(平成15年)の日本重化学工業倒産により同社の発電事業は東北電力傘下の東北地熱エネルギーに譲渡され、その後の会社再編により現在は東北自然エネルギー(株)が運用を行っています。
なお当ダムには岩手中部土地改良区の灌漑用水取水工が併設されていますが、同用水は湯田ダムの不特定利水容量から補給されるため、当ダムの目的は発電のみとなっています。
 
国道107号を湯田ダムに向かって西に走り石羽根バス停の手前を南に折れるとダム左岸に到着します。
ただ、ダムの敷地は立入禁止でこの写真が精一杯。
手前の小さなゲートは湯田ダムを水源とする岩手中部土地改良区の灌漑用水の取水工です。
 
国道を西に走るとダムが見える場所があります。
洪水吐は4門のスライドゲート、右側の被覆された2門のゲートは石羽根発電所の取水口です。
 
重力式コンクリートとアースダムの接合部。
 
右岸からアプローチします。
ダムと発電所の敷地は立入禁止でしたが、少し下流の民家の裏手からダムを見ることができます。
一番右手(左岸)は岩手中部土地改良区向けの灌漑用ゲート
4門のスライドゲートを挟んで左手(右岸)は石羽根発電所です。
 
このゲートから灌漑用水路へと流れます。
 
ズームアップ
 
右岸から
奥が重コン、手前がアース。
 
追記
石羽根ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流により新たな洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0237 石羽根ダム(0368)
左岸 岩手県北上市和賀町横川目
右岸        同町岩沢
北上川水系和賀川
GF
20.5メートル
283メートル
4050千㎥/1580千㎥
東北自然エネルギー(株)
1953年
◎治水協定が締結されたダム

岩崎農場溜池

2016-05-09 12:15:00 | 岩手県
2016年5月3日 岩崎農場溜池
 
岩崎農場溜池は岩手県北上市和賀町煤孫の北上川水系夏油川左支流熊沢にある灌漑目的のアースフィルダムです。
夏油川流域は六原扇状地という透水性の高い台地になっており、川床が低い夏油川の水を灌漑用に使うことができませんでした。
そこで夏油川北側の岩崎地区で新田開発する際に受益者により水利組合である岩崎新田用水組合が結成されその事業で1938年(昭和13年)に建設されたのが岩崎農場溜池です。
現在は土地改良区の統合により一帯の溜池ともども岩手中部土地改良区が管理を行っています。
 
溜池に向かう道はダートのため、最寄りの市道の路肩に車を止めて往復2キロ弱を歩いて溜池に向かいました。
下流面はきれいに刈り込まれています。
 
天端には轍があり軽トラなら走れそう。
 
溜池
天気が良ければ焼石連峰が見えるようです。
 
上流面の草も奇麗に刈られています。
 
左岸の斜樋。
 
左岸の洪水吐
最近改修されたようです。
 
 
0229 岩崎農場溜池(0367)
ため池コード 320610054
岩手県北上市和賀町煤孫
北上川水系熊沢
24.2メートル(ため池データベース 23.7メートル)
81.6メートル(ため池データベース 77メートル)
820千㎥(ため池データベース 1031.3千㎥)/820千㎥
岩手中部土地改良区
1938年

千貫石ダム(再)

2016-05-09 12:00:00 | 岩手県
2016年5月3日 千貫石ダム(再)
 
千貫石ダム(再)は岩手県和賀郡金ヶ崎町西野の北上川水系宿内川にある灌漑目的のアースフィルダムです。
金ヶ崎町の県道37号線沿いには二つの大きな溜池が並んでおり、北側にあるのが千貫石ダムです。
千貫石溜池の歴史は古く起源は伊達藩時代にさかのぼります。着工当初は毎年のように大破してしまったため『おいし』という女性を銭千貫で買い牛とともに人柱にしたという伝説が残り、これが千貫石の由来になったと言われています。
1934年(昭和9年)に千貫石溜池として整備され戦後は千貫石土地改良区の管理となります。
2005年(平成17年)から2009年(平成21年)にかけては大規模な改修が行われ千貫石ダムとして再開発されました。
その間の2008年(平成20年)に周辺土地改良区が統合され、隣接する橇引沢溜池ともども新しく誕生した岩手中部土地改良区の管理となり現在に至っています。
由緒ある溜池であり、また貯水池周辺は千貫石森林公園として整備され東北自然歩道の一部となっているなどの点を評価され、農水省によりため池百選に選ばれています。
 
橇引沢溜池から北に向かうとそのまま千貫石ダムの右岸に到着します。
 
南の橇引沢溜池から通じる道路が天端を通っています。
 
下流面。
 
洪水吐。
 
洪水吐越流部、薄く越流しています。
モノトーンの中で赤い手すりが目立ちます。
 
湾曲した洪水吐。
 
洪水吐の曲線が美しくどうしても目が行ってしまいます。
 
左岸上流に斜樋があります。
 
下流からもダムを見ることができます。
副ダムの手前で取水設備からの水路が減勢工に合流します。
 
橇引沢溜池と千貫石ダム、ともに古い歴史を持ち隣接していながら受益者が異なる二つの溜池。
歴史に現れないそれぞれの受益者同士の確執があったんだと思いますが、今はともに岩手中部土地改良区の管理となっています。
 
0232 千貫石ダム(再)(0366)
ため池コード 338110044
岩手県胆沢郡金ヶ崎町西根
北上川水系宿内川
31.3メートル(ため池データベース 31.5メートル)
247.5メートル(ため池データベース 191メートル)
5168千㎥(ため池データベース 5159千㎥)/5168千㎥
岩手中部土地改良区
1934年

橇引沢溜池

2016-05-09 11:45:00 | 岩手県
2016年5月3日 橇引沢溜池
 
橇引沢(そりひきさわ)溜池は岩手県和賀郡金ヶ崎町西根の北上川水系黒沢川にある灌漑目的のアースフィルダムです。
 
金ヶ崎町の県道37号に沿って南北に二つの大きな溜池が並んでおり、南側が橇引沢溜池、北側が千貫石溜池となります。
ダム便覧には1935年(昭和10年)に「中村高志」の事業で竣工と記されています。
戦前は篤志家の地主が私財を拠出して灌漑用貯水池を建設することも少なくなく中村某がこれに当たるのか?それとも耕地整理組合の代表者の名前として記されているのか?詳細は不明です。
隣接する二つの溜池ですが、当然それぞれ受益者が異なり、戦後の土地改良事業でも橇引沢溜池は和賀川土地改良区が、千貫石溜池は千貫石土地改良区が管理をしてきました。
2008年(平成20年)に周辺土地改良区の合併が行われ、現在はともに新しく誕生した岩手中部土地改良区の管理に置かれています。
 
胆沢から県道37号を北上し、橇引沢橋を西に曲がると右手に橇引沢溜池が見えてきます。
右岸から
上流面はコンクリートブロックで補強されています。
 
天端は車道で、この道は北の千貫石溜池につながっています。
 
洪水吐導流部と取水口からの水路がダムの直下で合流しています。
 
左岸に洪水吐があります。
 
洪水吐。
 
 
右岸の斜樋。
 
0230 橇引沢溜池(0365)
ため池コード 338110040
岩手県胆沢郡金ヶ崎町西根字駒岡
北上川水系黒沢川
23.5メートル
142メートル
1686千㎥/1686千㎥
岩手中部土地改良区
1935年

衣川1号ダム(増沢ダム)

2016-05-09 11:30:00 | 岩手県
2016年5月3日 衣川1号ダム(増沢ダム)
 
衣川1号ダムは岩手県奥州市衣川区増沢の北上川水系北俣川にある農地防災・灌漑目的のアースフィルダムです。
岩手県奥州市衣川区は胆沢川によって形成された扇状地の南縁にあたり、栗駒山の火山堆積物で形成された透水性が高い地質で、豪雨になると河川流量が急増し流域農耕地に多大な被害をもたらしてきました。
そこで農林省(現農水省)の補助を受けた岩手県の防災ダム事業により衣川水系の主要河川に5基の農地防災ダムが建設されました。
5基のダム群を総称して『衣川防災5ダム』と呼んでおり、1963年(昭和38年)に完成したのが衣川4号ダムでダムの地名を採って増沢ダムともよばれています。
管理は奥州市が受託しています
 
左岸下流から
 
 
天端は立入禁止。
 
洪水吐
当初はゲートがありましたが、改修で撤去されたようです。
 
 
総貯水容量297万立米は衣川防災5ダム最大ですが、大半は農地防災容量のため貯水量はわずかです。
 
 
常用洪水吐を兼ねる取水設備。
 
追記
衣川1号ダムには農地防災容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流により洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0246 衣川1号ダム(増沢ダム)(0364)
岩手県奥州市衣川区増沢
北上川水系北股川
FA
35.5メートル
212メートル
2970千㎥/2620千㎥
奥州市
1963年
◎治水協定が締結されたダム