2017年7月16日 灰塚ダム
古来より『中国太郎』と呼ばれ中国地方最大の河川である江の川は流域に大きな水の恵みをもたらす一方で、豪雨の度に洪水被害を引き起こしとりわけ主要支流が合流する三次盆地ではその被害が顕著になっていました。
戦後建設省は江の川水系の治水を図るべく、江の川最上流部と主要支流の馬洗川右支流上下川に2基の多目的ダムの建設を企図します。ところが後者については激しい反対運動のため交渉は難航、その間も1972年(昭和47年)の『昭和47年7月豪雨』で三次市一帯が未曽有の洪水被害を受けるなど交渉の早期の解決が求められました。
膠着していた交渉は1980年代になりよう動き出し、事業開始から30年以上の年月をかけ2001年(平成13年)にようやく本体工事が着工され、灰塚ダムは2006年(平成18年)に竣工しました。
灰塚ダムは上下川および馬洗川の洪水調節のほか、『江の川上流ダム群』として土師ダムと連携して江の川の洪水調節を行います。また既得取水権として灌漑用水への補給と河川流量の保持、三次市への上水道用水の供給を目的としています。
1997年(平成9年)の河川法改正により『河川環境の維持』が義務付けられましたが、灰塚ダムはこれに対応するためにダムの主要ゲートとしては珍しい環境用水放流ゲートを装備しています。
またダム湖上流2か所に常時満水位とサーチャージ水位間の土地の荒廃防止と洪水時の貯砂を目的とした堰堤が建設されており、そのうちの川井堰堤は全国的に見ても珍しい台形CSGダムとなっています。
県道61号線仁賀小学校入口交差点の南側分岐に灰塚ダムへの標識があり、これに従って東進すると灰塚ダムに到着します。
まずはダム下の駐車場に車を止めて見学をします。
堤高50メートル、堤頂長196.6メートルと国交省直轄ダムとしては小さいダムです。
クレストには自由越流式洪水吐が並び、訪問時はオリフィスゲートから放流中でした。
さらにオリフィスの間に全国でも珍しい環境用水放流ゲートとして引張りラジアルゲート2門が装備されています。
環境用水放流ゲートの引張りラジアルゲート。
自由越流式洪水吐は中央の1門だけ越流面が低くなっており、導流部はわずかに角度を変えジャンプ台式のようになっています。
ダム下から監査廊に入りエレベーターで天端に上がることができます。
右岸から自由越流式ゲートをズームアップ
越流部は刃先のような形状で天端通路は下流側にずれて作られています。
天端は2車線の車道で車両通行可能
右手が取水設備操作室、左手がエレベーター棟です。
天端から減勢工。
ダム湖(ハイヅカ湖)
写真では小さく見えますが、蛇行しながら奥へと続き総貯水容量5210万立米の規模を誇ります。
ダムの堤体積16万4000立米から比較すると非常に効率よく水を貯めることができるダムとなっています。
上流面を遠望
中央に環境用水ゲートの予備ゲートが見えます。
ダム湖上流にある小堰堤
こちらは川井堰堤で珍しい台形CSGダムとなっています。
越流部から減勢工がスタイリッシュで、越流した水が美しい3重の円を描いています。
こちらは和知堰堤
堤高は低いものの鋭角的な堤趾導流壁が堰堤を精悍に見せています。
灰塚ダムの完成により長きにわたりたびたび洪水被害に悩まされてきた三次の治水は万全のものとなりました。
今灰塚ダムは開かれたダムとして地域住民の憩いの場となっています。
追記
灰塚ダムには3800万立米の洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらに1189万立米の洪水調節容量が確保されることになりました。
1998 灰塚ダム(1074)
広島県三次市三良坂町仁賀
北緯34度46分51秒,東経132度59分16秒
江の川水系上下川
FNW
G
50メートル
196.6メートル
52100千㎥/47700千㎥
国交省中国地方整備局
2006年
◎治水協定が締結されたダム