ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

広田堰

2025-03-06 08:00:00 | 千葉県
2017年1月28日 広田堰
2024年3月31日
2025年2月23日
 
広田堰は千葉県南房総市海老敷の平久里川水系海老敷川にある灌漑目的のアースフィルダムです。
房総半島南端の館山市や南房総市周辺では大正期より灌漑設備の整備や新田開発に合わせた溜池築造機運が高まります。
広田堰もそうした溜池群の一つで、1928年(昭和3年)に県の補助を受けた当時の安房郡国府村耕地整理組合の事業で建設されました。
現在は耕地整理組合を引き継いだ南房総市国府土地改良区が管理し、約120ヘクタールの水田にかんがい用水を供給しています。

ダム便覧では広田堰は立坑と隧道を組み合わせた珍しい『垂直落下式余水吐隧道』を備えていると記されていますが、天端や余水吐のある右岸側は立入り禁止のためその全容は明らかではありません。
広田堰には2017年(平成29年)1月に訪問しましたが、その際も左岸からの見学にとどまりました。
その後、安房中央ダム見学の際に知己を得た安房中央土地改良区の小橋事務局長の計らいで2024年(令和6年)3月に南房総市国府土地改良区の幹部の皆さま御一同との同行での見学が叶いました。
その内容を当ブログやSNSで紹介したところ、見学希望が複数あったことから2025年(令和7年)2月に安房中央土地改良区の『ダム・ため池現地研修』という形での見学会が実現しました。
『ダム・ため池研修』の詳細については別項で紹介することにします。

南房総市海老敷から海老敷川沿いの林道を約900メートル北上すると広田堰に到着します。
この道は2018年(令和元年)の台風により荒れており一般車での進入は困難です。
 
左岸から
堤体は犬走を挟んだ2段構成
下流面はきれいに刈りこまれ、今も重要な水源であることが伺えます。
(2025年2月23日)

 
天端右岸側が立入り禁止
注目の余水吐は対岸にあるため、通常は目にすることはできません。
(2024年3月31日)
 
総貯水容量は30万4000立米
房総らしく濁水。
(2024年3月31日)
 
天端貯水池側には転落防止用のフェンスが設けられ、上流面はコンクリートで護岸。
(2025年2月23日)

 
右岸沿いを10メートルほど進むとお目当ての余水吐が現れます。
手前に階段式の斜樋、その奥の金属スクリーンで覆われているのが立坑式(垂直落下式)余水吐
それに続く隧道が余水吐隧道となります。
(2024年3月31日)

階段式斜樋の脇には昭和三年三月竣功の文字が見えます。
当初は木栓を差し込むタイプだったものが、改修でこの形になりました。
この文字が竣工当時に書かれたものか?改修時に書かれたものかは不明。
(2025年2月23日)

 
余水吐をズームアップ
図面や工事史などがないため詳細は不明ですが、当初は立坑式余水吐のみだったのが塵芥・土砂の落下や放流量増大のためにのちに余水吐隧道が追加されたと思われます。
(2024年3月31日)

(2024年3月31日) 

(2024年3月31日) 

余水吐側から
立坑は安全に配慮し転落防止の金属スクリーンで覆われています。
(2024年3月31日) 

 
さらに奥から
隧道入り口部分は断面保護のため金属製の覆工が設けらています。
(2024年3月31日) 
 
余水吐隧道の奥の様子
隧道の全長は30メートルほど、地盤は掘削が容易な泥岩で素掘りで掘り込まれています。
(2025年2月23日)
 
余水吐隧道出口
放流口には傾斜がつけられ水は下記底樋樋門の上部に流下します。
(2025年2月23日)


堤体を下りてみます。
堤高は便覧が16.7メートル、ため池DBは20.8メートル。
犬走を挟んだ2段構成で基部も石積みの擁壁が2段あります。
左岸側(向かって右手)の膨らみは林道工事の際の残土による盛土。
石積の擁壁を起点にするなら16.7メートル、しかし下部の地盤を起点にするなら20.8メートルが妥当でしょうか?
(2025年2月23日)

右岸池下の底樋樋門
取水設備及び垂直落下式立坑型余水吐からの水がここから放流されます。
このまま海老敷川となり灌漑用水は下流の取水堰から取り入れられます。
上記余水吐隧道はこの上段に位置します。
(2025年2月23日)

底樋の奥を照らして撮影
毎年、かんがい期前に立坑直下まで立入り点検、清掃を行うそうです。
(2025年2月23日)


池の下流約1.5キロ地点にある頭首工
写真左奥のオレンジの部分がかんがい用水路でこちらも隧道になっています。
かんがい期になるとゲートを閉めてかんがい用水路に導水します。
(2025年2月23日)


こちらは南房総市国府土地改良区前に立つ耕地整理組合創立記念碑。
当然広田堰建設の由来についても刻されているはずですが、摩耗が激しく解読不能。
残念ながら土地改良区に池建設に関する資料が残っておらずその詳細は不明です。
(2025年2月23日)

ダム便覧の記事から興味深い物件でありながら、立入り禁止のためにその全容がわからなかった広田堰ですが、管理する土地改良区のご配慮及び安房中央土地改良区の小橋事務局長の尽力で見学及び見学会を開催することができました。
関係する皆様には厚く御礼申し上げます。
 
0648 広田堰(0816)
ため池コード 122340021
千葉県南房総市海老敷
平久里川水系海老敷川
16.7メートル(ため池データベース20.8メートル)
57メートル
304千㎥/304千㎥
南房総市国府土地改良区
1928年