軽井沢からの通信ときどき3D

移住して11年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

軽井沢の夜咄

2023-05-12 00:00:00 | 軽井沢
 「やなぎ書房」のAさんから、突然閉店の連絡をいただいた。4月13日に届いたメールには次のように書かれている。早速、この「ラスト夜咄」に参加する旨返信を送ったのは言うまでもないが、私はこれまで開催された「夜話」(これまではこの語がつかわれていた)に3回と「軽井沢で文楽を楽しむ会」に参加してきた。

「M様
 軽井沢も桜が咲き出し、春が駆け足に過ぎていく予感です。いかがお過ごしでしょうか?
 2021年8月1日にオープンしましたやなぎ書房は、閉店することになりました。・・・
 やなぎ書房の締めの会を「ラスト夜咄」としてやなぎ書房店主の T が語ります。

【やなぎ書房ラスト夜咄】
 “4月28日㈮・4月29日㈯の二日間連日企画”
 スピーカー:T
 場所:やなぎ書房

 2023年4月28日㈮
  17:00〜 ウェルカムドリンク
  18:00〜20:00頃 Tの夜咄パート1

 2023年4月29日㈯
  17:00〜 ウェルカムドリンク
  18:00〜20:00頃 Tの夜咄パート2
 *夜咄後は時間の許す限りのワインパーティー
・・・
 
 やなぎ書房     A  」

 28日の夜咄に出かけたのは17時40分頃で、会場のやなぎ書房にはすでに多くの人が集まっていて、中央の大きなテーブルは満席で、いつもと同じようにワインを飲みながらの談笑が始まっていた。顔なじみの方もいて、軽く会釈をしながら後方に用意された椅子席に着く。

 係の人がワインを勧めてくださったが、この日は車で帰る予定であったので、ノンアルコールタイプをお願いしてカップに注いでいただいた。配られたおつまみを食べていて、ふと目の前にある小さな書棚に並べられている立花隆さんの名前が背表紙に見える本に目が止まったので、手に取って目次をみると心理学者の河合隼雄さんや免疫学者の多田富雄さんなどの名前が並んでいて対談集のようである。パラパラと中身に目を通していると、チンチンと合図の音が聞こえて、Tさんの話が始まった。

 いつもはゲストのスピーカーを招いて行われた夜話であったが、今回は店主のTさん自らの話である。しかも2夜に亘ってと異例のことである。これまでも、最初の長めの挨拶や、Q&Aの際にTさんの話を聞く機会が結構あったので、この夜話された内容も一部すでに聞いたことのあるものが含まれていたが、今回やなぎ書房を閉店することになった理由については、最後まで明確な説明はなかった。

 話の中で、やなぎ書房の経営面の話もあった。それは、このやなぎ書房の建物の年間家賃は、1000万円ほどをかけて集められた本をすべて1年間で販売したとしても、その売り上げ益では到底まかないきれないといった内容であった。そのことを明るく話されたのであったが、それは当初から織り込み済みであろうから、今回の閉店の理由には当たらないだろう。

 書房はもともと営利を目的としたものではなく、壁紙のごとく壁面一杯に並べられた本には岩波文庫とブルーバックスがすべて含まれているというTさんのこだわりと、そのほかにもTさんの関心分野の本が多数集められているので、ここはTさんの書斎であり、Tさんの交流の場であり、また多くの人が自由に集うことのできる場でもあった。

 今回の閉店の理由が、所期の目的を達成したためなのか、何か他に突発的な理由があったのかがわからないままに20時少し前まで続いたTさんの楽しい話を聞いて私は会場を後にしたが、翌日聞いたところでは、多くの方々は21時・22時まで会場に残り、Tさん自身は深夜まで場所を移しながら参加メンバーと飲み、話を続けたという。

 初日の話題はこれまでの夜話での内容を含むもので、多岐にわたったが、最も印象に残ったのは彗星X集団と原発に関する部分であり、これまで聞いたことのないものであった。しかし、帰宅後Tさんから昨年の「軽井沢で文楽を楽しむ会」でいただいたままにしていたミニ書籍「原発のミニ知識」を改めて読んでみるとそこに「データ資料」として紹介されている内容であった。


原発のミニ知識(所 源亮著、2020年2月 やなぎ出版発行)の表紙
 
 当該部分には次のように書かれている。

 「地球は、約15,000年前長い”氷期”を脱して、温暖化しました。現在は、約260万年前から続く”第四紀氷河時代の中の温暖な”間氷期”です。この”間氷期”の前の”氷期”は、約7万年前から始まり約1万5千年前に終結した、”最終氷期(ペルム氷期)”です。

 ”最終氷期”が終わり、現在の”間氷期”に至った説明として多くの仮説があります。しかしながら、その何も、地球の気象が突然変化したこと(氷期から間氷期)に対する科学的な根拠が不十分です。最も説得力のある仮説は、W.M.ナビエとS.V.M.クリューブ(Nature Vol.282, 29 November, 1979)が提唱し、後にF.ホイルとN.C.ウィックラマシンゲが修正を加えた以下の”彗星X集団ミサイル攻撃”仮説です。

 『推定直径200㎞の巨大な彗星(以下、”彗星X”)が、地球の300倍以上の質量を持つ木星によって、その軌道が摂動されただけでなく、粉々となった。その結果、10から1,000メートル級の塊が100億個以上の集団となり、一定の周期(約1,500年)で地球軌道に遭遇する。彗星Xがバラバラになった塊の集団(”彗星X集団”)は、約1万5千年前に形成され、前述の通り、地球軌道と約1,500年の周期で遭遇してきたと考えられる。遭遇時の”彗星X集団ミサイル攻撃”は、数十年にわたって地球を襲ったと推定。』

 人類史を約1万5千年前から1,500年の周期で顧みると、以下の通り”彗星X集団”と”人類史の大変化と転換”には、相関があります。15,000年前(氷期から間氷期)、13,500年前(一時的に氷期に戻る*パレオ・インディアンのクロービス文化とマンモスの消滅。12,900年前のヤンガードリアス)、12,000年前(再び間氷期、農牧畜始まる)、10,500年前(温暖化定着、間氷期定着)、9,000年前(農耕牧畜本格化)、7,500年前(文明始まる)、6,000年前(銅の製錬始まる)、4,500年前(エジプト文明ピラミッドを、王の天体衝突からの防衛シェルターとして建立。インダス文明モヘンジョダロ消滅、3,000年前(エリコの破壊、神話の創造)、1,500年前(紀元476年の西ローマ帝国の崩壊、紀元535ー536年の世界的な異常気象)。
 
 以上より、次回の”彗星X集団ミサイル攻撃”は、2035年頃から始まり数十年間続く可能性があります。その被害の程度を想像するには、1908年にロシアのツングースカ上空で爆発した隕石(広島原爆の約300~1,000倍と推定)と、2013年にチェリヤビンスク州上空で爆発した隕石(広島原爆の約30倍と推定)の破壊を見れば十分です。沖縄を除いて全ての地域が原発から100㎞以内という日本は、”彗星X集団ミサイル攻撃”を受けたなら、真っ先に、電力会社と国家が”無主物”と規定する”原発のゴミ”によって住めない土地になります。」

 といった仮説である。これを分かり易く図示すると次のようである。


過去15000年の地球の歴史で起きた1500年ごとの大きな事件(原発のミニ知識より、筆者作成)

 T氏はこの仮説を支持し、過去とは全く異なり、原子力発電所を多く抱えるようになった現在の地球に起きる災害を予測しているのであった。
 
 この彗星Xという仮説が提出されていることを、全く知らなかった私は衝撃を受けた。この仮説を鵜呑みにするわけではないが、かといって否定するだけの知識を今はまだ持ち合わせていないということである。

 「夜咄パート1」はとんでもない宿題を与えてくれることとなった。

 次の日はショップの顧客で、別荘の住人でもあるKさんと一緒に「夜咄パート2」に参加した。昨夜と同じような時刻に出かけたが、参加者は前夜よりもやや少なく、私たちは大きいテーブルの方に座ることにした。

 テーブルの上と、テーブルの周囲や後方に配置された椅子席にはA3の資料集と後に紹介する3冊の本が置かれていた。A3用紙に一部手書きされている7枚の資料は、T氏の大学での講義のまとめや、これまでの夜話のテーマになった内容などが記されている。

 2日目の夜咄もまた多岐にわたる内容であったが、T氏が書いている私小説「いつの日か、ふたりは恋人」にまつわる話と前夜に続いて彗星Xの話題に多くの時間が割かれた。

 そして、話の半ばで松井孝典さんが3月に亡くなられたこと、今回の夜咄は松井さんの追悼を兼ねていることが明かされた。

 松井孝典さんには2年前にこの軽井沢の夜話ではじめてお目にかかり、「宇宙から俯瞰する人類1万年の文明、ウイルスはどこから来たのか」という題のお話を聞いたのであった。興味深い内容であったので、その時のことは当ブログで3回にわたって紹介している。

 昨年秋、「軽井沢で文楽を楽しむ会」が開催され、この日も松井さんの姿を会場で見かけたが、以前に比べて痩せた姿が気になっていた。こんなに早く亡くなられるとは意外であった。

 帰宅後ウィキペディアを見て、松井さんが2023年3月22日に前立腺がんで亡くなられていたことを知った。また、学長を務めていた千葉工業大学からの次のようなお知らせの文章が公表されていることも知った。

「                              令和5年3月24日
 学校法人千葉工業大学
本学学長 松井孝典 逝去のお知らせ

 本学学長 松井孝典は、前立腺がんのため、2023年3月22日午後9時53分に逝去いたしました。なお、葬儀は密葬にて近親者のみで執り行われます。
 ここに生前の皆様のご厚誼に深く感謝いたしますとともに、謹んでお知らせ申し上げます。

 後日、「お別れの会」を予定しております。詳細はこちらをご覧ください。
 
参考
氏  名:松井 孝典(まつい たかふみ)
生年月日:1946年3月7日(満77歳)
〈略歴〉
静岡県生まれ。理学博士。東京大学理学部卒業、同大学院博士課程修了。専門は地球物理学、比較惑星学、アストロバイオロジー。
NASA 客員研究員、マサチューセッツ工科大学及びミシガン大学招聘科学者、マックスプランク化学研究所 客員教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授(理学系大学院教授兼担)を経て東京大学名誉教授。
2009年4月より千葉工業大学惑星探査研究センター所長、2016年より学校法人千葉工業大学常務理事。
2019年より地球学研究センター所長、2020年6月より千葉工業大学第13代学長。
2012年発足した政府の宇宙政策委員会委員(委員長代理)、静岡文化芸術大学理事、2018年3月から岐阜かかみがはら航空宇宙博物館館長兼理事長、そのほかにも各種財団の理事、評議員など多数。1986年、学術誌『ネイチャー』に海の誕生を解明した「水惑星の理論」を発表し、世界の地球科学者から注目を集めた。日本の惑星科学の第一人者。NHKの科学番組『地球大紀行』の制作に関わり、企画段階から参加した。学際的な活動は近年、製鉄の人類史に宇宙分野の分析技術を応用し成果を上げている。1988年、日本気象学会から大気・海洋の起源に関する新理論の提唱に対し「堀内賞」、2007年、著書『地球システムの崩壊』(新潮選書)で、第61回毎日出版文化賞(自然科学部門)を受賞。このほかにも『地球進化論』『地球倫理へ』『宇宙人としての生き方』『われ関わる故にわれ在り』『文明は見えない世界がつくる』『138億年の人生論』など著書多数。
以上」

 お別れの会については、別途次のようなお知らせの文章が出ている。

「       本学学長 松井孝典 「お別れの会」のお知らせ

  本学学長 松井孝典は
  令和5年3月22日に永眠いたしました
  ここに生前のご厚誼を深謝し謹んでご通知申し上げます
  なお密葬の儀は近親者のみにて相済ませました
  追って「お別れの会」を下記の通り執り行います

 記

    【日時】 5月9日(火)正午から午後2時               
    【場所】 オークラ東京 オークラプレステージタワー1階「平安の間」 

    誠に勝手ながらご香典ご供物ご供花の儀は固くご辞退申し上げます
    またご来臨の際は平服にてお越し下さいますようお願い申し上げます
                               令和5年4月19日
                            学校法人 千葉工業大学
                             理事長 瀬戸熊 修」

 この2日目の夜咄で、Tさんから最近松井さんと会って話をした時の様子が語られ、がんに対して松井さんは延命治療を断ったということが紹介された。そしてその後数週間で亡くなられた。

 帰宅後、プレゼントされた資料集や書籍に目を通したが、もちろん2日間の夜咄に関係のあるものであった。以下に写真を示す2冊はミニ書籍で、内1冊は夜咄の後に出版予定のものであった。このほかに松井孝典さんの名前のある単行本「超入門 生命起源の謎(いけのり著 松井孝典監修 所 源亮原案 2018年地湧社発行)」も含まれていた。

天降感染ー宇宙から来た生命ー
(チャンドラ・ウィックラマシンゲ著、2021年1月 やなぎ出版発行)

文明と彗星衝突
(チャンドラ・ウィックラマシンゲ著、2023年5月 やなぎ出版発行)

 これらの本を通して、Tさんが我々に伝えたかった内容がさらに補強された形になる。

 そして、やなぎ書房閉店の理由がようやく理解できた気がした。

 小説「いつの日か、ふたりは恋人」の完成と松井孝典さんの逝去という最近の2つのできごとによって、Tさんが開催してきた一連の「軽井沢の夜咄」に区切りがついたということだと思えるのであった。
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