ワンダースリー 鈴木良武演出家の思い出
第3話「シャングリラの謎」を担当した鈴木良武演出家は当時を思い出して次のように書いていました。
絵コンテの校閲をやっとのことで終わらせて、演出と各パートの監督や、チーフとの打ち合わせにこぎつけた。そこへ、たまたま仕事を終えた、手塚先生も来た。そして「ボクも原画を描きますから、任せてください」と言われた。手塚先生のその言葉は本来なら大変ありがたく、感謝しなければならない、しかし、今までの経験が、それがどういう結果になるかは、想像しなくてもわかっていた。「ああ!これは遅れるぞ」内心叫んでいた。
進行に再度スケジュール表を作り直すように指示した、放送日から逆算して、最悪ぎりぎりのスケジュールを立てた。もちろん師には言ってはいけない。そして最悪師が遅れても穴埋めできる範囲で師に作画をお願いした……。
鈴木演出家は進行だけに任せておけず、催促するために、漫画部のある母屋の一階を訪ねた。既に何日も前から雑誌の編集者たちが詰めていた。輪転機を止めてまで師の原稿上がりを待つこともしばしばあったという。そんな編集者たちにとって、映画部のスタッフは手塚先生の仕事能率を下げる、目の敵であった。一斉に鈴木演出家に鋭い視線が注がれた、 余りにも激しい視線に一瞬たじろいだが、放送日が迫っていて譲ることはできない。
「先生もう間に合いません、原画なら他の者でも描けますので、もう任せてください」
編集者たちは、校閲ではなく、作画と聞いて、さらに険しい表情になった。
が、手塚先生はそれでも引き下がろうとしなかった。
「いま、描きますから。いま、これがちょっと終われば、すぐできますから、待ってください。あと少しですから。もう手を着けてあるんですよ、もうちょっとで仕上がりますから……。」
実際にはまだ手付かずであった。本当に作画をしたくてしょうがないのであった。そのために口からでまかせを言っている。 こんな時は本当にまだ子供のようであった、嘘とわかる事を駄々っ子のように言う。スタッフはそれを痛いほど知っている、でも放送を落とすわけにも行かない。
良武さんは引き下がった。
「あと1日だけ待ちます、本当にそれ以上は、無理ですから、よろしくお願いいたします」と、待つことによって、とんでもないことになるのは承知であった。
次の日も上がらなかった。背景は何とかなるにしても、動画とトレス、彩色がある、トレス、彩色の女性が、そのカットを仕上るために、昨日から深夜まで待機している。既に2日目皆疲れきっている。これで穴が開くことが、確実となってしまった。仕方なしに、良武さんは、ライブへ行き、今までのカットやアトムのカットを、片っ端から探して、師の秒数の穴埋め作業を始めた。そして漫画部へ「手塚先生の作業中止を伝えた」
しばらくすると3スタに師がやってきた。良武さんと進行に、興奮して怒鳴った。
「どう結うことですか!ボクはいつもいいものを作ろうと思うから、ぎりぎりまで粘るんです、ぎりぎりになっても、いいものを作るんです」
すでに作業は撮影が終わるところまで行っている。東洋現像所の、フィルム引取りの定期便は、7時過ぎには来てしまう。終わったフィルムは即日ラッシュで現像してもらうため、もう何日も寝ていない、進行がこれから五反田まで飛んでいく。
良武さんは、手塚先生の思いも十分わかるし、進行さんの立場は痛いほど理解できている、その板ばさみになっていたたまれず、ただうなずいて、手塚先生の怒りを受け取るしかなかった。
穴見常務が、とんできた、
「師の言うことは良くわかります、スタッフも手塚先生の志を知らないわけではありません、ですから穴があいてしまうぎりぎりまで待ってくれていたのです、けして悪意はありません、今日のところは、どうか怒りを納め勘弁してください」
穴見常務は手塚先生と映画部の間に入ってなだめる役でもあった。
穴見常務は手塚先生にほれ抜いて手塚先生と一緒にそのロマンをかなえたいと言う思いで虫プロへ来た。そのロマンを果たすために作られた、虫プロダクションを運営するために、手塚先生師に我慢をさせなければならないと言う矛盾に頭を悩ませ葛藤していた。
第3話「シャングリラの謎」を担当した鈴木良武演出家は当時を思い出して次のように書いていました。
絵コンテの校閲をやっとのことで終わらせて、演出と各パートの監督や、チーフとの打ち合わせにこぎつけた。そこへ、たまたま仕事を終えた、手塚先生も来た。そして「ボクも原画を描きますから、任せてください」と言われた。手塚先生のその言葉は本来なら大変ありがたく、感謝しなければならない、しかし、今までの経験が、それがどういう結果になるかは、想像しなくてもわかっていた。「ああ!これは遅れるぞ」内心叫んでいた。
進行に再度スケジュール表を作り直すように指示した、放送日から逆算して、最悪ぎりぎりのスケジュールを立てた。もちろん師には言ってはいけない。そして最悪師が遅れても穴埋めできる範囲で師に作画をお願いした……。
鈴木演出家は進行だけに任せておけず、催促するために、漫画部のある母屋の一階を訪ねた。既に何日も前から雑誌の編集者たちが詰めていた。輪転機を止めてまで師の原稿上がりを待つこともしばしばあったという。そんな編集者たちにとって、映画部のスタッフは手塚先生の仕事能率を下げる、目の敵であった。一斉に鈴木演出家に鋭い視線が注がれた、 余りにも激しい視線に一瞬たじろいだが、放送日が迫っていて譲ることはできない。
「先生もう間に合いません、原画なら他の者でも描けますので、もう任せてください」
編集者たちは、校閲ではなく、作画と聞いて、さらに険しい表情になった。
が、手塚先生はそれでも引き下がろうとしなかった。
「いま、描きますから。いま、これがちょっと終われば、すぐできますから、待ってください。あと少しですから。もう手を着けてあるんですよ、もうちょっとで仕上がりますから……。」
実際にはまだ手付かずであった。本当に作画をしたくてしょうがないのであった。そのために口からでまかせを言っている。 こんな時は本当にまだ子供のようであった、嘘とわかる事を駄々っ子のように言う。スタッフはそれを痛いほど知っている、でも放送を落とすわけにも行かない。
良武さんは引き下がった。
「あと1日だけ待ちます、本当にそれ以上は、無理ですから、よろしくお願いいたします」と、待つことによって、とんでもないことになるのは承知であった。
次の日も上がらなかった。背景は何とかなるにしても、動画とトレス、彩色がある、トレス、彩色の女性が、そのカットを仕上るために、昨日から深夜まで待機している。既に2日目皆疲れきっている。これで穴が開くことが、確実となってしまった。仕方なしに、良武さんは、ライブへ行き、今までのカットやアトムのカットを、片っ端から探して、師の秒数の穴埋め作業を始めた。そして漫画部へ「手塚先生の作業中止を伝えた」
しばらくすると3スタに師がやってきた。良武さんと進行に、興奮して怒鳴った。
「どう結うことですか!ボクはいつもいいものを作ろうと思うから、ぎりぎりまで粘るんです、ぎりぎりになっても、いいものを作るんです」
すでに作業は撮影が終わるところまで行っている。東洋現像所の、フィルム引取りの定期便は、7時過ぎには来てしまう。終わったフィルムは即日ラッシュで現像してもらうため、もう何日も寝ていない、進行がこれから五反田まで飛んでいく。
良武さんは、手塚先生の思いも十分わかるし、進行さんの立場は痛いほど理解できている、その板ばさみになっていたたまれず、ただうなずいて、手塚先生の怒りを受け取るしかなかった。
穴見常務が、とんできた、
「師の言うことは良くわかります、スタッフも手塚先生の志を知らないわけではありません、ですから穴があいてしまうぎりぎりまで待ってくれていたのです、けして悪意はありません、今日のところは、どうか怒りを納め勘弁してください」
穴見常務は手塚先生と映画部の間に入ってなだめる役でもあった。
穴見常務は手塚先生にほれ抜いて手塚先生と一緒にそのロマンをかなえたいと言う思いで虫プロへ来た。そのロマンを果たすために作られた、虫プロダクションを運営するために、手塚先生師に我慢をさせなければならないと言う矛盾に頭を悩ませ葛藤していた。