☆米国の、大統領への民主党予備選を舞台にした、自軍の候補を大統領にすべく、理想と野望に燃える広報官・スティーヴンの「理想の夢散」と「野望の変質」の物語。
非常に面白かった。
最初は眠かったのだが、「こいつは面白いぞ!」と思い、眠気を振り切りつつ見ていたら、ヒロインが悩みを打ち明ける辺りから、頭が鮮明になり、物語にのめり込んだ。
・・・驚いたことは二つ。
先ず、つい先日に見た作品(『ドライヴ』)の主人公の役者が、この作品でも主人公・スティーヴンを演じていたこと。
ライアン・ゴズリング。
いわゆる「ハンサム」で、故に、単調な顔なのだが、全く違う役柄を演じていて、「同じ役者だけど同じ人物じゃない」と言う不思議な感覚を味あわされた。
それは、久しく忘れていた「映画の醍醐味」である^^
また、監督が、この作品にも出演で、大統領候補である知事・モリスを演じているジョージ・クルーニーであることだ。
役者としての実績は知っていたが、『チーム・アメリカ』などで「バカ左翼」に描かれていたので、「役者バカ一代」だと思っていたのだが、
こんな上質なサスペンス(しかも、展開の焦点を定めにくい政治を舞台に)を描けるとは思ってもみなかった。
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私は、この作品にシェイクスピア作品のような定番の進化系を見た。
ジョージ・クルーニーを「王」とし、ライバル候補を擁した「敵国」との丁々発止の戦いの中で、
「自軍」のためにまい進していた主人公が、「自軍」に良かれと思った行動で、いつしか、それが周囲からの乖離をきたし、
自己防衛のために、自己崩壊を果たすのだ。
斬新だったのが、そんな主人公の「共感の難しい悲劇」と対になって、純粋なる選挙協力インターンの女性・モリーの「受身の悲劇」が描かれる。
私は、「可愛い女には幸せが訪れ、美人の女にはコテンパンな不幸が待っている」と、常日頃 思っているのだが、
それを裏打ちしてくれるかのように、モリー(エヴァン・レイチェル・ウッド)はとても美しく、そして、悲劇に見舞われる。
ただ綺麗なだけでなく、この役者、演技も非常にうまい。
特に、スティーヴンと関係を持ちつつも、秘密を打ち明け、その帰結として病院に連れて行かれるときの、スティーヴンへの「縋るような視線」は、非常に見事でグッときた。
そして、そのモリーの困惑の視線を一顧だにしないスティーヴンに、我々は「アンチ・ヒーロー」を認識させられるのだった。
・・・ただ、帰宅して、今、しみじみと物語を反芻していたのだが、スティーヴンへの遊びなれたアプローチを考えると、果たしてモリーは「純粋な被害者」と言えるのだろうか、などと考えてもしまった。
最終的に、スティーヴンは「王」と対決する。
その、「王」との問答の中で、とどめとなったのは、脚本の妙で伏線となっていたモリーの作中の年齢(公称と実年齢)である。
スティーヴンも、モリーとの間で、成年だと思っていたモリーが、情事の後で、10代であることを知り、「恋愛の罠」にはまったことを知るのだが、
スティーヴンは、不義を犯した「王」への言葉の最後に、「20歳のモリー」と強調させることによって、逆説的に事実を伝え、陥落させるのだった。
また、その「脚本の妙」は、スティーヴンに脅しをかけていた雑誌記者との関係にも活かされている。
ゴシップネタで脅そうとしてきた雑誌記者に「友達にそんなことをするなよ!」云々とのスティーヴンに、女性雑誌記者は「あなたを友達と思ったことはありません」などと言い放っていたが、
立場を逆転させたエンディングでは、「私は、あなたを友達と思っていたのよ!」と言う雑誌記者に、スティーヴンは「ああ、ナンバー1の友達だ」と、やはり逆説的な切り返しをする。
深く読んで、鑑賞を進められる、うまい脚本である。
(2012/04/03)