▼下のエントリーで予告していた通り、朝一で観て来ました。
[明日は、ドイツ映画『4分間のピアニスト』を観に行く^^] 2007/11/09 19:42
いやぁ、面白かった^^
私は、どうも、ピアノの澄んだ音が響く映画が好きである。
『ベティ・ブルー』も、それが心にいつまでも残っている名作である。
そのサウンドトラック(ガブリエル・ヤーレ)は、私のフェイバリットの一つである。
数年前に、前エントリーで書いた『ネバー・エンディング・ストーリー』の主題歌が、坂本龍一の娘のピアノの調べでヒットした時も、「うはっ! ピアノっていいな」と思ったものだ。
音大出の姉が、子供の頃より、ずっと家でピアノを弾いていたので、落ち着くのだろうか・・・。
ニュージーランドに一年いた時も、とあるマクドナルドが、ピアノの有線放送をいつも流していたので、そこをよく利用していた・・・。
▼物語は、かつての恋人との思い出を心に秘めて、女子刑務所のピアノ教師を細々と勤める女教師クリューガーが、天才的なピアノの才能を持つ少女と出会うことから始まる。
少女は、刑務所の問題児で、すぐにキレて暴力を振るう。
じゃじゃ馬のようなジェニーを、当初、厳格なクリューガーは「処置なし」と判断し、レッスン室から去る。
しかし、立ち去るクリューガーの後ろに、ジェニーの弾く激しいサウンドが響く。
ハッとするクリューガー・・・。
刑務官への暴力で拘束されたジェニーの傍らに、クリューガーが座る。
これまで、音楽のみに身を捧げ、清貧な生活を続けていたクリューガー・・・。
その表情は、いつも、毅然としている・・・。
だが、ジェニーとの関わり合いの中で、その表情は、喜怒哀楽に解きほぐれていく。
この時は、困っていた。
「あなたには・・・、どうも・・・、傑出した才能があるみたいだわ・・・」
▼かくして、クリューガーとジェニーの師弟関係が始まる。
そもそも、ジェニーには才能があり、かつて、その養父によって英才教育を施されていた。
その養父に逆らったジェニーは、性的虐待を受けた。
そして、生活は荒み、ある男に騙され、殺人者の汚名を着せられた。
体には、その男の子供を宿していたが、堕胎させられた。
ジェニーの精神状態は、長期間に渡って、ズタボロであった・・・。
クリューガーの行なうことは、その精神状態を美しき音楽のみに向けさせることであった。
▼大きなコンテストを目標に、二人はレッスンを進める。
幾つもの人間関係の軋轢があった。
そこで、何度も、ジェニーは癇癪を起こし、師弟関係を振り出しに戻す。
しかし、クリューガーは、瞳を閉じて、眉間にややしわを寄せて、耐える。
その様が、美しく、そして、とても辛いのだ・・・。
ジェニーは、やることなすこと、その外見も野生児そのものだが、瞳だけはギラギラと輝いている。
▼ボロボロの女が、その才能にのみ輝きを見せる。
私は、フランス映画『二キータ』を思い出した。
また、フランスとドイツでは、その情緒に正反対のものを感じていたのだが、この映画を見て、かなり似ているものだと思った。
ここは、ヨーロッパ映画と括るべきなのかな。
▼クリューガーの、戦時中に死別した恋人とは、女性であった。
生真面目な若きクリューガーは、その金髪の恋人と恋におちた。
野原で、いつまでも身を寄せ合い、見つめあった・・・。
だが、恋人は、共産党員であった。
ナチスの秘密警察に、それを知られ、処刑される。
クリューガーは、恋人の秘密を知らなかったので、秘密警察に「知らない」と答えるのだが、それさえも恋人への裏切りだった・・・。
その後、クリューガーは、結婚することもなく、ただ、音楽のみに身を捧げた。
しかし、ジェニーの奏でる音楽は、時に、クリューガーの心に、恋人との語らいの時を思い起こさせるのだった。
▼クリューガーは、かつて、フルトヴェングラーに師事していたと物語の中で語られる。
フルトヴェングラーは、戦時中、ドイツにいて、必死に、音楽的な活動を通し、ナチスに戦いを挑んでいた指揮者である。
ここがカラヤンじゃないトコが、物語のミソでもある。
▼・・・そして、コンテストの決勝戦・・・。
ここで、ジェニーは想像を絶するピアノ演奏を見せる。
私は、ここのシークエンスの読み解きが、いまだに出来ないでいる。
ここで、ジェニーは、クリューガーが、ずっと言いつづけ躾けた正統派を逸脱し、民俗音楽とも、パンクロックとも言える演奏を見せる。
そして、ここから、クリューガーとジェニーの間には、一切の会話がなく物語が終わる。
私は、どう解釈をすればいいのか分からない・・・。
ジェニーは、ジェニー自身の音楽を貫き通し、クリューガーの教えを超越し、自分の才能の力でもってしてクリューガーを説き伏せた。
クリューガーは、ジェニーに、かつての恋人との「均整の取れた美しい音楽」とは異なる、「荒々しくも美しい音楽」を見て、その目指すものに圧倒された。
・・・そう解釈すればいいのだろうか?
素晴らしい恋の物語であった。
愛とは、お互いの感情を、極限までぶつけあうものなのである。
(2007/11/10)