母親と結婚した新婚旅行の北海道で、母親をほったらかしにして、テレビのプロレス中継に夢中になり、いきなり夫婦ゲンカをしたそうだ^^;
そんな話を思い出しながら、私は、MOVIX昭島での、『ガチ・ボーイ』公開最終日のレイトショーに行った。
# # # #
物語は、司法試験の一次までをも合格した大学3年生の真面目君が、学生プロレスに魅せられて、プロレス同好会に入部して活躍する青春物語だ。
しかし、物語は、それだけでは終わらない。
その、五十嵐君は、いかにも思い出作りとばかりに、ポラロイドカメラで仲間との交流の節々を映し、手帳には膨大なメモを書き続けていくのだが、それには理由があった。
事故の後遺症で記憶障害になってしまい、それまでの記憶は残っているが、新しい記憶は、一晩眠ると、すっかり忘れてしまうようになってしまったのだった。
そもそもが秀才であり、朝になると、事故前までの記憶しかない自分に、『明日の自分へ』と題した、膨大な、「これまでのあらすじ」にも似た日記を残していて、毎日をしのいでいるのだが、もはや、彼には、司法試験を乗り越えるような運命はなくなってしまっていた。
もともとが真面目で前向きなので、それでもひたむきに生きていくのだが、自分を誇りにして生きていた父親の落胆振りに接すると苦しい毎日だ。
そんな中で、事故前の記憶が鮮烈なプロレス同好会に参加し、学生生活の最後を楽しもうとするのだった。
# # # #
記憶が消えてしまうと言う状況は、思い出の欠落であり、時間の消失と似ている。
故に、五十嵐の心情を考えると、いつもSF的な連想をしてしまう。
『アルジャーノンに花束を』や『ハイペリオン』の第四章を思い出すし、
時間の繰り返しは、『恋はデジャブ』や、『うる星やつら:ビューティフル・ドリーマー』、『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部のクライマックスを彷彿とする。
記憶障害は、最近では『メメント』なんてものもあったし、
主観としての記憶の、事実との相違は、最近観た『バンテージ・ポイント』や、『羅生門』があろう。
しかし、この物語は、あくまでも<青春ドラマ>であった。
非常に優れた作品であった。
# # # #
五十嵐は当初、自分の記憶障害を隠して、同好会に入る。
そこでの仲間との触れ合いは、私も、その大学時代を思い出して、いささかこっぱずかしかった^^;
大学時代と言うのは、社会に出るモラトリアムの期間でもある。
それまでの子供だった時代を経て、時に、社会人たるべく「道化」染みた自分を演じなくてはならない。
それは、他人と一線をおくことを覚える期間でもある。
仲間たちは、本音でぶつかり合っているようでいて、よく言うと「思いやり」や「気づかい」を相手に向けるようになる。
・・・滑ると分かっている駄洒落を連発したりする奴がいたり、
・・・無骨なクールを装おう奴がいたり、
・・・自分の境遇の不幸を演技過剰に語る奴がいたり、
・・・同好会のリーダーを、リーダーたるべく全うしようとする奴がいる。
大学生とは、それを習得していく様がダサく、・・・しかし、そこが悪くもないのである^^;
故に、五十嵐の病気はなかなか気づかれない。
# # # #
そもそもが、プロレスと言うものには、好きでやっている本人たちには分からないのかも知れないが、「ダサさ」がつきまとう。
マスクや全身タイツなどのコスチュームなんか、ダサさの最たるものだと思う^^;
「真剣な格闘を演じる」と言う行為も、矛盾を孕んでいる。
大人へのモラトリアムを過ごす学生たちが、プロレスと言う矛盾の中で青春を楽しんでいる。
まさに、「学生最後の思い出」だ。
そんな私の思いとは裏腹に、主人公たちは、全国の青春を送る学生たちと同様に、屈託なく日々を生きていた。
五十嵐も、病気ではあるが、そんな中の一人ではあった。
しかし、一つだけ違った。
五十嵐は、演技が出来なかった。
学生としても、「プロレス」レスラーとしても、演技をしている余裕がなかった。
記憶が消失してしまうのだから・・・。
故に、常に、「ガチンコ」で相手に挑むのだった。
その様は、仲間だけでなく、敵にも新鮮であり、多くの者を五十嵐ペースに巻き込んでいくのだった。
# # # #
ヒロイン・朝岡麻子は、サエコと言う女優で、この女の子の、あまりにもの「オンナオンナ」しさには参った^^;
あの顔で、あの表情で、あの声で、近くに存在されたら、多くの男が心を奪われてしまうだろう。
私などは、あんな女がいたら、自分が傷つくことになるのでけして近づかない^^;
# # # #
五十嵐の親父は、泉谷しげるが演じている。
『KIDS』でも、実に味のある演技をしていたが、この作品でも、自分の息子の境遇にくたびれた感じが実に良かった・・・。
・・・私は、ちょっとだけ死んだ父親を思い出すのだった。
# # # #
クライマックスの試合は凄かった。
『ロッキー』よろしく、関係者全ての苦悩を吹き飛ばすかのような五十嵐の闘い・・・。
キムタクに顔が似ている学生プロレスのスターに、コテンパンに、コテンパンに、コテンパンに、コテンパンにやられつつ、何度も何度も2カウントまで追いつめられつつ、最後に反撃を開始するのが良い。
ここで、記憶は毎日消えてしまうけど、体には、仲間との思い出が詰まっている、てな闘い方をはじめる。
こちらは、泣けるを通り越して、とてつもない爽快感を得る。
安易に勝利させなかったとこも良い。
ジョン・ヒューストンの『勝利への脱出』を髣髴とさせた^^;
# # # #
「プロレスはダサくて、彼女に振られるから」と、同好会の花形からロッカーに転向した佐田君だが、この佐田君こそが、一番ダサく見える演出も良かった。
・・・作品の舞台は北海道だが、北海道の人って、彼のように、節操がないんだよね^^;
でも、北海道の人は優しくて、最終的には、助けてくれるんだわ^^
# # # #
・・・この映画は、【青春のダサさ・滑稽さ】を見事に描いた作品かも知れない。
五十嵐役の佐藤隆太の笑顔を見ても、多くの人が、「良い奴だが、ダサい^^;」と言う感想を持ってしまうことで分かろう。
# # # #
もしかして、最後の試合で、記憶障害が直ったりして、などと言うご都合主義の展開を期待したのだが、この作品ではそうはならない。
この作品は、「青春の一瞬のきらめき」の物語である。
その「一瞬」を胸に、若者は、その後を社会と共生させていくのであろう。
(2008/03/30)