『ゾンビの謎に挑む』とはまことにショッキングな副題ですが、中身はいたってマジメな本なのです。
※ウェイド・デイヴィス『蛇と虹 -ゾンビの謎に挑むー』草思社(1988年6月6日第1刷)
ゾンビと聞くと決まって『ああ、あの死者が甦って人を襲うホラー映画でしょ』という答えが返ってきます。
※ジョ-ジ・A・ロメロ監督『ゾンビ』1978年イタリア映画(原題:Dawn of the Dead)・・・(↓脚註1参照)
ジョ-ジ・A・ロメロ監督の映画で有名になったこの『生きている死人』ですが、実はハイチに実在します(!)。
※ハイチの首都ポルトープランスの明るくカラフルな街並み・・・この街にゾンビが?
『ええっ!』と驚くのもムリはありません。んー・・・、実在するゾンビは人を襲って喰らったりはしませんから(笑)。
ハイチのブードゥー教には『人をゾンビにする秘法』なるものが存在し、死んだヒトが甦る実例があるというのです。
該当する一節を抜き書きしてみます。
クラインは部屋を出て行き、やがて書類を手に戻って来て、それをわたしに渡した。それはクレルヴィウス・ナルシスなる人物の、フランス語で書かれた死亡証明書で、1962年のものだった。
「われわれにとって問題は、このナルシスがいまもぴんぴんしていて、ハイチ中央のアルチポニート峡谷の自分の村で、新しい生活に落ち着いているということなんだ」とクラインが説明した。「彼とその家族は、彼がブードゥー教の犠牲になったということと、埋葬の直後にゾンビとして墓から連れ出されたということを主張している」
ナルシスの例はほんの一端に過ぎず、著者たちはこれを「文明人がまだ知らない未知の薬品」の効果ではないかと推理します(↓脚註2参照)。
もし、人間の新陳代謝の状態を、死亡したとみなされるほどのレヴェルまで低下させられる薬品があるのならば、それをもとに画期的な麻酔薬が開発され、外科手術の成功率が飛躍的に上昇するかもしれない、ぜひともブードゥー教で使用される『人をゾンビにする薬品』なるものを手に入れて分析する必要がある、というのです。
(つづく)
※脚註1)ジョ-ジ・A・ロメロ監督の手になるゾンビ映画のうち、最初に日本で公開されたのは、その名も「ゾンビ」でしたが、これ原題は"Dawn of the Dead(死者の夜明け)"で第2作です。実はこれに先行する第1作が存在しまして原題は"Night of the Living Dead(ゾンビの夜)"・・・低予算のホラー映画でしたが実にコワイです。小屋の中に閉じ込められて外はゾンビでいっぱい・・・この攻防戦をリアルに描いて秀逸です(やっと助かったと思ったらエンディングが実に皮肉!)。第2作ではゾンビの群れに追われてショッピングモールに立て籠って防戦するスタイルでした。で、第3作は”Day of the Dead(死者の日)”で、もはやゾンビは当たり前に街を歩き、人間が砦の中で細々と暮らす・・・と徐々にゾンビが優勢になる世界を描いています。この第3作になると、魂のない死体であるはずのゾンビにある種の知性の目覚めが感じられ、このシリーズを秀逸なものにしています。新型コロナウイルスが蔓延する今の世界ってゾンビ映画のストーリーにどこかよく似ていると思いませんか?
※ジョ-ジ・A・ロメロ監督のゾンビ映画第3作”Day of the Dead(邦題「死霊のえじき」)”
※脚註2)新型コロナウイルスの治療薬としても期待されているイベルメクチンは、確かゴルフ場近くの土中にある放線菌から作られたそうです。『未開の地にはまだ知られていない動植物が多数存在し、これらの成分からさまざまな病気に対する画期的な治療薬が発見されるかもしれない』というのは『雲を掴むような話』ではないのです。