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パオロ・バチガルピ『第六ポンプ』(ハヤカワ文庫 / 2013年12月15日発行)

2018-10-05 06:12:51 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 『ねじまき少女』で高い評価を受けたパオロ・バチガルピ(なんて読みにくい名前なんだ!)のデビュー作を含む初期短編集です。


※パオロ・バチガルピ『第六ポンプ』(ハヤカワ文庫 / 2013年12月15日発行)

 『第六ポンプ』の主人公はニューヨークの地下で下水処理システムの維持管理を担当する職員。
 下水管理は底辺の仕事なのですが、このポンプが壊れると危険な化学物質だらけの汚物が市街にあふれてしまいます。故障がちなポンプを騙し騙し修理して、今までのところは成功してきたのですが、とうとう一基のポンプ(第六ポンプ)が壊れてしまいます。
 原因を究明しようとするのですが、ここにはサービスマニュアルの読める職員がほとんどいません。

 長年に亘り大量の化学物質を摂取し続けたせいで、ヒトの躯に肉体的な変化が起こり始めているのです。
 出生率の低下と痴呆化が広く薄く浸透した世界、汚染物質の摂取により、生まれてくる子供はトログと呼ばれる形態に変化し始めています。
 トログには知能がほとんどなく、性格は穏やかなのですが、裸で街をうろついてはそこら中で交尾をはじめる。
 冬になるとかなりの数が凍死するのですが、次の夏になるとまた数が増えるのだとか。
 トログにも『いくばくかの人権は認めなければならない』のだそうで、駆除したり強制的に避妊手術を施したりするというワケにはいかないのです。そういうワケでトログは街の風景の一部となっています。
 トログ化していない人々の知能も徐々に低下しているため、ビル街もメンテナンスが抛ったらかされ、歩いているとコンクリート片やガラスが降って来る、そんな状況の中、崩壊への歯車はゆっくりと、しかし確実に回り続けます。

 メーカーに電話しようとすると40年前に倒産していたことが判明、過剰品質の製品を造ったために機械の更新が無くなり新しい製品が売れずに倒産していたのです。
 地下でポンプは自己診断をし続けて、交換の必要な部品のログを吐き出し続けます。
 部品は手に入らず、大学に相談に行った主人公はもはや大学自体が崩壊している事実に直面します。

 閉塞的な未来を描いた初期短編集、読み応えがあります。

 <収録作品> (*)は『ねじまき少女』に先行する作品
 ポケットの中の法(ダルマ)
 フルーテッド・ガールズ
 砂と灰の人々
 パショ
 カロリーマン(*)
 タマリスク・ハンター
 ポップ隊
 イエローカードマン(*)
 やわらかく
 第六ポンプ




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