金魚売りは夏に、毎年来ていた。
天秤棒に担いで、一軒一軒歩いていた。
その金魚売が家に来ると、なぜか嬉しい気分になった。
金魚とガラス製金魚鉢を売っていた。
金魚にも種類があり、
だいたい、
奇麗な金魚は高く、長持ちしない。
メダカを大きくしたような金魚は安く、長持ちする。
という、子供にもわかる傾向があった。
出目金(でめきん)が一番人気で、一番高かった。
では安価な金魚が長持ちするか?
と言えば、そうでもなかった。
たいてい、持って夏休みの終わりまでだった。
親が買ってくれた金魚は、
金魚鉢に入れ、
まず裏の溜池に行き、そこでホテイ草を取ってきて金魚鉢に浮かべる。
(エサは味噌汁に入れる)「ふ」。
「ふ」を小さくちぎったり、そのまま水面に浮かべていた。
金魚鉢の水は毎日、井戸水で取り換えていたが、
日に2~3度取り換えたかと思えば、何もしない日があった。
そして、
一匹死に、
二匹死に、・・・
ついには、夏の終わりに金魚ゼロ。
金魚鉢を倉にしまう。
翌年夏、倉から金魚鉢を出す。
それが少年の日の金魚売りと金魚の想い出となっている。
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「失われゆく仕事の図鑑」 永井良和他 グラフィック社 2020年発行
金魚売り
金魚売りは、ある時期まで日本の夏の風物詩であった。
天びんにいくつもの金魚鉢を乗せて、担いで売り歩いた。
東京・愛知弥富・大和郡山・熊本長を中心に全国で飼育され、
大勢の行商人が3月ころから10月ごろまで津々浦々を売り歩いた。
太平洋戦争でいったん壊滅的打撃を受けるが、すぐに復活し、
行商だけでなく、露店売りや縁日の金魚すくいでも人々に愛された。
金魚売りは高い技術が必要な仕事で、
売り声の出し方、
運び方、
金魚の健康状態の見分け方必要。
1970年代に入ると金魚売りは衰退していく。
ペットショップや花屋が金魚売を始めたり、熱帯魚ブームが起こったりした。
伝統芸として、金魚売はほそぼそと続けられている。
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「昭和で失われたもの」 伊藤嘉一 創森社 2015年発行
金魚売りは初夏の風物詩
初夏になると、「キンギョー、キンギョー」と張りのある声が通りに響く。
金魚売りは初夏の風物詩だった。
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