ロシアのウクライナ侵攻はプーチン大統領の思惑通りに運ばず、一進一退のようであるが、その影響は遠く離れた日本にも及んでいる。西側諸国はロシアへの経済制裁を強めており、海外企業はロシア事業の一時停止や撤退を迅速に決めた。
日本は石油・石炭・液化天然ガス(LNG)などの化石燃料のエネルギー資源が乏しくほとんど海外に依存しており、原油の3.7%、LNGの8.7%(2021年)をロシアから輸入しているようだ。
日本の総発電量の内火力発電が76.3%(2020年度)を占めており、内訳は石油が6.3%、石炭が31.0%、LNGが39.0%だそうだ。LNGは石油や石炭に比べて炭酸ガスの排出量が少なく、2050年のカーボンニュートラルに向けての無くてはならないエネルギー源だ。
LNGの輸入先はオーストラリアが39.2%(2019年度)と最も多いが、ロシアはマレーシアの次の第3位の8.3%である。ロシアからのLNGの輸入が始まったのは、サハリン沖の石油・天然ガス開発事業が始動した2009年からで比較的新しい。この事業は、カムチャッカ半島北東部沿岸に存在する石油および天然ガスの開発事業で、資源量が豊富で日本に近いことから日本企業は将来を見越して莫大な投資をしている。
しかし、ロシアへの経済制裁の為この事業からの撤退が西側諸国の声であるが、今年3月31日岸田首相は「自国で権益を有し、長期かつ安価なLNG安定供給に貢献しており、エネルギー安全保障上、極めて重要なプロジェクト」と強調し、即時撤退はしないと明言した。
一方、ドイツはロシアのウクライナ侵攻前、石油輸入の3分の1をロシアに依存しており、EUの禁輸制裁に反対してきた。しかし5月1日ドイツがロシアからの石油の輸入禁止に前向きな姿勢を示しことから、EUは石油禁輸の実現に大きく踏み出した。
ロシアがウクライナから撤退し、平和状態が復活すればLNGの輸入も活発化するであろうが、ウクライナ侵攻を止めようとしないため、対ロシア経済制裁を更に強める可能性が高く、その場合日本の独自路線もどこまで頑張れるであろうか。もし撤退すればそこに中国が進出する可能性が高いそうで、岸田首相も難しい判断を迫られている。
さて、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、石炭や石油を減らしLPGを増やしたいところであるが、LPGの輸入も見通しが悪くなってきた。これを見越してか最近原発回帰の声が高まってきた。
5月20日の新聞記事に日本エネルギー経済研究所の幹部の意見があった。地球温暖化対策として再生エネルーギ活用の声が高いが出力変動が大きい欠点がある。これに対して原発は安定した出力が得られ、また原子炉の小型モジュールが実用化できれば、より安全になる等の原発の利点が述べられていた。
しかし、東日本大震災の際の原発事故の後始末や放射能を含んだ廃棄物の保管場所等の負の遺産に関しては何も触れず、すっかり忘れているようだ。過去の遺産を清算すること無しに、原発回帰は現在のSDGsの時代に相応しくない。2022.05.25(犬賀 大好ー816)
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