ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

詩誌回生ん号 付録 あめのちかいせい 快晴出版 2023

2023-07-05 15:55:58 | エッセイ
小熊昭広さん編集の「回生」ん号(通巻第49号2023.6.20発行)に、今回も、やまうちあつしさん編集の「あめのちかいせい」が、別冊付録として付いている。
 この回生は、“いろは”で号数が付されているのだが、考えてみると「ん」号ということは、いろは47文字が一巡したということである。後書きのランダム・メモリーに、「四十七文字のかななのに通算四十九号とはこれ如何に」と記される。「途中同じかなを二度使ったり、使わなかったかながあったりといい加減ではありましたが、一区切りと言えば言えなくもありません」と。私は、小熊さんのいい加減な自由さこそ、肝だと思う。
 前号の「す号」の付録としての創刊号で、やまうち氏による私へのインタビューが掲載されていたところであるが、冒頭の連詩にいたく刺激を受け、次回は、ぜひ私も、と声をあげていたところ、目出度く声掛けいただいて参加することができた。今回は、金子忠政氏が発句ならぬ発詩を務め、千田基嗣、やまうちあつし、小熊昭広が参加した「まだ羊水は湿っている」である。

「誕生したばかりの緑子が
 握るでもなく開くでもなく
 柔らかい掌をふるわせて
 宙にのべ
 空中をかすかに探るようにした (金子)

 生まれて六〇年を経た緑子が
 新緑の季節に
 キミドリアオミドリと色を重ね
 蕭々と降る雨にうたれ
 母を求めて泣く (千田)」

と始まって、3周、回した。

 やまうち氏は、末尾に次のようなコメントを記す。

「開始は二〇二三年四月一六日、完成は五月七日。今回はどの執筆者も筆が早く、依頼してから一日・二日で原稿が上がってくる…。連詩の一つの醍醐味である即興性に重きを置いてのことかもしれない。」(5ページ)

 いまは、インターネットのメールのやりとりでこんなことができてしまうが、ちょっと前であれば、手紙のやりとりで、自ずからもっと時間はかかったはずである。しかし、元を辿れば、連歌の時代には、一堂に会してその場での即興の興趣を楽しむものであった。先祖返りしたといえばそうなのかもしれない。
 しかし、いつかぜひ直接面と向かって車座になって、巻紙を拡げていくように連詩を巻いてみたいものである。(いや、メールを介したこの形も、ぜひ、継続していきたい。)
 やまうち氏は続けて、

「冒頭から、赤ん坊の柔らかなイメージ、そこへ雨が降り始め、鳴き声を上げるイメージが強烈に描かれる。…抽象的な詩句からの脱却を試みつつ、鬼という強いモチーフが採用されるも、やはり赤子についての言及に戻ってゆくのが興味深かった。執筆のペースが早かったため急遽追加された3周目は言葉遊び的な雰囲気が醸し出される。…最終連担当の小熊氏は思い切った言葉の羅列に徹し、存在感のある締めくくりとなった。」(5ページ)

 実際の展開は、ぜひ、どこかで実物に当たって欲しいが、最後の2連を紹介しておく。

「言葉を持たない赤ん坊の
 見る夢こそが詩の究極だ
 あるいはそれが悪夢であったとしても
 ペンに言葉がひっかかる
 いくらティッシュで拭っても取れない (やまうち)

 とろり、とろとろ、とろとろ、とろろ
 この世の戦慄が止まらない雫となって
 とりとるとろろ、トリルロトリリ
 オオイヌフグリクサノオウ
 ツリガネスイセンカネツリバナ (小熊)」

 如何だろうか?
 次のページを開くと、連載漫画第1回(最終回)として、やまうち氏の手になる「カシマシ娘」。写真や画像をコラージュした漫画。カシマシ娘とはゾウのことらしい。ある日、1DKの部屋に住まわせたゾウにピストルを放ち、何度も撃つが、厚い表皮に阻まれはじき返される。やまうち氏は、詩集「This is a pen」2022でも、黒ヒョウを殺そうとしていた。あるいは、黒ヒョウに殺されることを夢見ていた、と思う。
 続いて芽惟さんが担当する「いろえんぴつ」のコーナー。前回は「灰」であったが、今回は「紫」。次回は、「黄」色とのことで、投稿してみよう。(と前回も書いたな。)
 最後のインタビュー「詩をつくるひと」第2回目は前沢ひとみさん。回生に寄稿を続けており、ほとんど回生同人といってもいいと思うが、回生は小熊氏と中村正秋氏のふたりが同人で、他は何度登場しても寄稿者と位置づけられる。これは、小熊氏のポリシーであるらしい。
 インタビュアーのやまうち氏は、冒頭「事実と虚構のあわい(間)で揺らめくような作風で読者を魅了する、この詩人です」と記す。前沢さんの詩は、確かに「あわいで揺らめ」いていると思う。
 『回生』本誌には、小熊氏、同人の中村氏、また、芽惟氏、秋網まさお氏、夏谷胡桃氏、やまうちあつし氏、金子忠政氏と前沢ひとみ氏が寄稿されている。「情報短信」のコーナーでは『霧笛』も取り上げ、141号掲載の「熊本吉雄さんの「白き草」がとても身に沁みる」と、最後の2連を引用されている。
 本誌の裏表紙が「詩誌をつくることから詩を考える」というオフィス汐(仙台市大町)のイベントのチラシそのままとなっている。7月2日(日)に、武田こうじ氏が進行役を務めたこのイベントについては、語るべきことがたくさんあるが、改めて、ということにする。
 昨日、気仙沼図書館に、この号と前号と付録ともに寄贈してきた。登録の手続きが終われば棚に並ぶはずである。




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