ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

寝る女

2015-01-28 22:30:46 | 詩集湾Ⅱ(1993年5月20日)

女が寝ている

着衣の女がタオルをかぶって

 

ベージュの靴下はくるぶしをやっと隠す短さダブダブの黒いニットパンツにグレーのⅤネックTシャツで髪はショート

 

街の路地の白い壁の

「唇」ヘアスタジオで切ってきたばかり

 

女が寝ている

カシミール産の丸い絨緞のうえに

 

街の輸入雑貨やで買ったんダーナ

 

唇を無防備にわずか開き両手を顔の両脇に小さくあげ脚をくの字に曲げて

 

世界は百年眠っている

イバラのバリアに閉ざされて

コトバのイバラのハリは唇の奥深く秘匿されてあるだろう

 

百年の眠りを開くべく騎士(ナイト)がこの夜

テーブルに珈琲を置き煙草を紫煙(けむ)らせ

女を見る

 

騎士が立ち上がり煙草を押し消しカシミール産絨緞の境界を踏み踰えると

女はかすかに顔を歪め

(あ)と吐息を洩らす

 

騎士はひざまづきわずか開く唇から洩れる吐息の匂いを確かめるべく顔を近づけ

女のなまえをよぶ

女はさらに顔を歪め

(あ)と吐息を洩らす

 

唇が重ねられ

女がまぶたを開ける

女は秘匿されたコトバのイバラのハリを連射し跳びおきる

が弾倉にストックがない

 

騎士はコトバのイバラのハリを楯にはらい

女を抱きよせ重ねて唇を重ねる

カシミール産の丸い絨緞のうえで

 

   ※

 

女がとうもろこしを食べる

庭の畑の収穫を

女が食べている

 

詩集湾Ⅱ 第Ⅳ章幻想旅行 から

 

2015年の注;「唇」ヘアスタジオは、津波のあとは、西側の支店のほうに集約されている。雑貨店の「ダーナ」は、そのずいぶん前に店を閉じている。「唇」のほうは、そのとおりの名称ではない。英語で言うと、といえば分かるはず。


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