行きつけの温泉施設には、景色は、楽しめないが、小さな岩風呂風の露天風呂がある。火照った体を半身浴で、冷気にさらしていると、湯の底の石の模様が、何とも、茶色と黄金色に、輝き、まるで、一つの墨絵に描かれた遙か遠くに、望まれる山水画の山並みのように、見えてくる。そして、横に拡がった縞模様は、何とも、段々畑か、はたまた、幾重にも、重なった棚田のように、見えてくる。更には、丸い形の茶色の模様は、まるで、断崖に、突き出た大きな溶岩のような趣を漂わせている。これらが、真っ青な雲一つない青空の下、陽光に、キラキラと輝く様相は、誠に、山水画を観るが如きで、実に、一興である。黒御影石の間から、溢れ出る温泉の湯の音を聞きながら、湯気が、湯面を駆け抜ける様をぼんやりと、眺めていると、それは、まるで、冬の凍った川面から立ち上る川霧を彷彿とさせる。眺望がなくとも、立派に、想像力の中で、広い世界を夢想することができる。そんな愉しみも、露天風呂には、あることを初めて知る。