【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

だから

2010-12-02 18:37:58 | Weblog
今日まで日を重ねて無事に生きてくることができた、だから明日からもきっと無事に過ごすことができるだろう、と思うことがあります。だけどこの文章中の「だから」には、実はなんの根拠もないんですよね。強いて言うなら、ただの願望。

【ただいま読書中】『死ぬ瞬間 ──死とその過程について』(完全新訳改訂版)E・キューブラー・ロス 著、 鈴木晶 訳、 読売新聞社、1998年、1800円(税別)

1965年、著者は精神科医としておよび学生(医学生と神学校生)の教育係として、病棟での末期患者のインタビューというしんどい仕事を始めました。テーマは「死(と直面すること)」。教師は患者たちです。著者はそのインタビューから学びます。そこから導き出されたのは、今となっては有名なものです。
第一段階:否認と孤立
第二段階:怒り
第三段階:取り引き
第四段階:抑鬱
第五段階:受容
ただし、これらの章のタイトルを並べ、その順番を覚えるだけでは、本書の真価はわからないでしょう。たとえば第四段階「抑鬱」の章には、非常に長い(1時間の)インタビューが収められています。そのインタビューで患者が語ったこと、そしてそれが聴取者(R医師、とありますが、著者でしょう)にどんな影響を与え、それがこんどは患者の妻に影響を与え、そして最後に夫婦の間で何が響きあったか、これは現物を読んでください。「怒り」とか「受容」は一つの“レッテル”ですが、人生が“レッテル”通りに進んでいくと期待するのは、人生に期待しすぎ(あるいは、人生をなめた態度)。行ったり来たり揺らいだりやっと落ち着いたと思ったら元の木阿弥になったり突発事が起きたり、いろいろなことがおきることが、本書に豊富に収められたインタビュー記録から読み取れます。

本書にはタゴール(インドの詩人、アジアで初のノーベル文学賞受賞者)の引用がたくさん散りばめられています。(たとえば第3章には「人間は自分自身に対して防柵をきずく」(「迷える小鳥」) それはそれでとても印象的で良い効果を生んでいますが、ひねくれ者の私はビアスのことばを引用してみましょう。翌朝には死刑になる兵士が自分の死を受け入れた状態で落ち着き払っていうことばです。
「どうしてそんなことがわかりましょう。私は生まれてこのかた死んだことがないんです。死が深刻な問題だとは聞いたことがあります。だが、死を経験した人の口からではないんです」
「哲学者パーカー・アダソン」アンブローズ・ビアス(『ビアス短篇集』収載)
h(ネタバレになりますが、この兵士はこのことばを言った直後、死と直面させられて狼狽することになります)