嫉妬は普通自分の“外”にその感情の対象を持ちます。たとえば「あの男は女にモテモテでうらやましい」とか、「あの男」が対象になってます。ただ、もしも自分もモテモテだったらそんなことを思う必要はないわけで、すると嫉妬とは「自分に対する感情」だったのでしょうか。
【ただいま読書中】『ダーウィンの使者(下)』グレッグ・ベア 著、 大森望 訳、 ソニー・マガジンズ、2000年、1600円(税別)
ヘロデ流感は不思議な現象を起こしました。胎児を流産させ、それから30日後に(性交渉なしで)次の妊娠を引きおこすのです。それも、現生人類とは違ったタイプの子供を。
これは「特定方向への進化」ではないか、とケイやミッチは怯えます。自分たち(人類)はなにかとんでもないものを“妊んで”しまったのではないか、と。「たった一世代でのヒトの亜種分化」という驚天動地のアイデアが姿を見せたのです。
人類はパニックとなります。「怪物を殺せ」と。しかし「子供を殺すな」という勢力がそれに対抗します。さらには別の考え方をする人たちもいて、事態は混乱します。ケイとミッチは、このパニックは人類の歴史の中で初めてではない、と直感します。20世紀末に、あちこちの国で密かに行なわれた虐殺がそれではないか。そして……ネアンデルタール人も同じ目にあったのではないか、と。デモは暴動になり、科学的真実は政治とビジネスに覆われます。そしてその政治やビジネスさえ、別のもの(宗教や大衆の感情)に負けることになりそうです。
人類学的仮説がタスクフォースで却下されたため、ケイは辞職します。そしてケイは自分自身を実験体としてヘロデ・ベビーを産む決意をします。
「ヘロデ」「赤ん坊の虐殺」「性行為抜きの妊娠」……隠喩というか、むしろ直喩に満ちた世界になりつつあるなあ、と私は感じます。もちろん著者はそれを意識してやっているのでしょうが。
死産や流産が続きますが、やがてSHEVAは自らを変異させることでその状況に適応します。堕胎を政府が強制しているにもかかわらず、生きて産まれる赤ん坊(染色体数は52本)が予想されます。それに対する政府の対応は、戒厳令と強制収容所。未知なる“異物”は、強制的な隔離と殲滅です。皮肉なことにそれは、(ミッチが夢で見た)ネアンデルタール人たちの反応とまったく同じでした。ケイたちはネイティブ居留地に逃げ込みます。そして驚愕の出産シーン。
化石による証拠に断絶が多すぎることから、人類進化についてはまだまだ“面白い話”が作れそうです。ただ、『人類の足跡10万年全史』(スティーヴン・オッペンハイマー)や『5万年前 ──このとき人類の壮大な旅が始まった』(ニコラス・ウェイド)で示された現生人類の地球拡散の“旅”についての物語によって、グレッグ・ベアの根本的なアイデアである「ネアンデルタール人からの現生人類の発生」は成立しなくなってしまいました。それでも抜群に面白い遺伝子スリラー(かつSF)であることは間違いありません。
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ヘロデ流感は不思議な現象を起こしました。胎児を流産させ、それから30日後に(性交渉なしで)次の妊娠を引きおこすのです。それも、現生人類とは違ったタイプの子供を。
これは「特定方向への進化」ではないか、とケイやミッチは怯えます。自分たち(人類)はなにかとんでもないものを“妊んで”しまったのではないか、と。「たった一世代でのヒトの亜種分化」という驚天動地のアイデアが姿を見せたのです。
人類はパニックとなります。「怪物を殺せ」と。しかし「子供を殺すな」という勢力がそれに対抗します。さらには別の考え方をする人たちもいて、事態は混乱します。ケイとミッチは、このパニックは人類の歴史の中で初めてではない、と直感します。20世紀末に、あちこちの国で密かに行なわれた虐殺がそれではないか。そして……ネアンデルタール人も同じ目にあったのではないか、と。デモは暴動になり、科学的真実は政治とビジネスに覆われます。そしてその政治やビジネスさえ、別のもの(宗教や大衆の感情)に負けることになりそうです。
人類学的仮説がタスクフォースで却下されたため、ケイは辞職します。そしてケイは自分自身を実験体としてヘロデ・ベビーを産む決意をします。
「ヘロデ」「赤ん坊の虐殺」「性行為抜きの妊娠」……隠喩というか、むしろ直喩に満ちた世界になりつつあるなあ、と私は感じます。もちろん著者はそれを意識してやっているのでしょうが。
死産や流産が続きますが、やがてSHEVAは自らを変異させることでその状況に適応します。堕胎を政府が強制しているにもかかわらず、生きて産まれる赤ん坊(染色体数は52本)が予想されます。それに対する政府の対応は、戒厳令と強制収容所。未知なる“異物”は、強制的な隔離と殲滅です。皮肉なことにそれは、(ミッチが夢で見た)ネアンデルタール人たちの反応とまったく同じでした。ケイたちはネイティブ居留地に逃げ込みます。そして驚愕の出産シーン。
化石による証拠に断絶が多すぎることから、人類進化についてはまだまだ“面白い話”が作れそうです。ただ、『人類の足跡10万年全史』(スティーヴン・オッペンハイマー)や『5万年前 ──このとき人類の壮大な旅が始まった』(ニコラス・ウェイド)で示された現生人類の地球拡散の“旅”についての物語によって、グレッグ・ベアの根本的なアイデアである「ネアンデルタール人からの現生人類の発生」は成立しなくなってしまいました。それでも抜群に面白い遺伝子スリラー(かつSF)であることは間違いありません。
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