もし「片手落ち」が政治的にまずいことばだとしたら、「片手間」も目の敵にされないといけないのでしょうか?
【ただいま読書中】『ダーウィンの使者(上)』グレッグ・ベア 著、 大森望 訳、 ソニー・マガジンズ、2000年、1600円(税別)
アルプス山中で発見された第二の「アイスマン」(それもネアンデルタール人)、グルジアで発見された虐殺のあと。冷たさと陰鬱さで本書は静かに幕を上げます。読みながら私はふっと『復活の日』のオープニングを思います。その中でファージの生存戦略が解説されます。バクテリアを溶菌するだけではなくて、ある種のレトロウイルスと同様バクテリアの染色体の中に自らを潜伏させ、時期が来たら活動を開始する溶原性ファージがいるのです。はい、伏線ですね。
性交渉で感染し、妊婦に必ず流産を引きおこすという奇病が登場します。その原因はHERV(人内在性レトロウイルス)。人間の複数の染色体に最初から組み込まれたバラバラの部品が何かのきっかけで集まってウイルスの粒子を形成し、一度できたウイルスは人から人へ感染していくのです。CDC(アメリカ疾病対策予防センター)ではSHEVAという略称をつけますが、あだ名は「ヘロデ流感」。世界は静かなパニックに包まれます。原因不明の流産が増えているだけではなくて、セックスをしていないのに妊娠をして流産をする、という奇妙な現象が発生していたのです。さらに、このSHEVAが人類の進化の推進触媒(プロモーター)ではないか、という仮説が登場します。環境の条件が整ったときに、あるい一定方向への進化を起こさせるものです。
本書に登場するこの仮説は、フィクションとはいえとても刺激的なものです。人類が別の存在に変わる(それも自分の遺伝子にあらかじめ内在する因子によって)というのはあまり嬉しい可能性ではありませんが、人類は進化のどん詰まりにある(恐竜が哺乳類に地球を譲ったように、人類も将来は別のもっと優れた生物(たとえばゴキブリ)にその座を奪われる)という“悲観的”な未来しか持てないよりはマシ、という考え方もあるでしょう。
しかし、主人公の一人は、してはならないことをしてしまったために科学の世界から追放されてしまった男ミッチ(人類学者)。もう一人は、遺伝子の研究fr者としては優れているのに経営能力がなく、夫に死なれ会社を手放してしまった女ケイ。どちらも「自分には何かが欠けている」という意識に悩まされています。そして、ヘロデ流感が世界に蔓延し始めたとき、一番真相に近いところにいたのはこの二人でした。ただし、SHEVAが感染するのに男と女の両方が必要なのと似ていて、真相を明らかにするにはこの二人が出会わなければ(二人がそれぞれ持つ情報が組み合わされなければ)ならないのです。しかし、一人は政府のプロジェクトの中枢に位置し、もう一人は地方で科学界とは完全に空間的にも社会的にも切り離されています。さらに二人が持っている知識には、一万年の時差があります。しかし……
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【ただいま読書中】『ダーウィンの使者(上)』グレッグ・ベア 著、 大森望 訳、 ソニー・マガジンズ、2000年、1600円(税別)
アルプス山中で発見された第二の「アイスマン」(それもネアンデルタール人)、グルジアで発見された虐殺のあと。冷たさと陰鬱さで本書は静かに幕を上げます。読みながら私はふっと『復活の日』のオープニングを思います。その中でファージの生存戦略が解説されます。バクテリアを溶菌するだけではなくて、ある種のレトロウイルスと同様バクテリアの染色体の中に自らを潜伏させ、時期が来たら活動を開始する溶原性ファージがいるのです。はい、伏線ですね。
性交渉で感染し、妊婦に必ず流産を引きおこすという奇病が登場します。その原因はHERV(人内在性レトロウイルス)。人間の複数の染色体に最初から組み込まれたバラバラの部品が何かのきっかけで集まってウイルスの粒子を形成し、一度できたウイルスは人から人へ感染していくのです。CDC(アメリカ疾病対策予防センター)ではSHEVAという略称をつけますが、あだ名は「ヘロデ流感」。世界は静かなパニックに包まれます。原因不明の流産が増えているだけではなくて、セックスをしていないのに妊娠をして流産をする、という奇妙な現象が発生していたのです。さらに、このSHEVAが人類の進化の推進触媒(プロモーター)ではないか、という仮説が登場します。環境の条件が整ったときに、あるい一定方向への進化を起こさせるものです。
本書に登場するこの仮説は、フィクションとはいえとても刺激的なものです。人類が別の存在に変わる(それも自分の遺伝子にあらかじめ内在する因子によって)というのはあまり嬉しい可能性ではありませんが、人類は進化のどん詰まりにある(恐竜が哺乳類に地球を譲ったように、人類も将来は別のもっと優れた生物(たとえばゴキブリ)にその座を奪われる)という“悲観的”な未来しか持てないよりはマシ、という考え方もあるでしょう。
しかし、主人公の一人は、してはならないことをしてしまったために科学の世界から追放されてしまった男ミッチ(人類学者)。もう一人は、遺伝子の研究fr者としては優れているのに経営能力がなく、夫に死なれ会社を手放してしまった女ケイ。どちらも「自分には何かが欠けている」という意識に悩まされています。そして、ヘロデ流感が世界に蔓延し始めたとき、一番真相に近いところにいたのはこの二人でした。ただし、SHEVAが感染するのに男と女の両方が必要なのと似ていて、真相を明らかにするにはこの二人が出会わなければ(二人がそれぞれ持つ情報が組み合わされなければ)ならないのです。しかし、一人は政府のプロジェクトの中枢に位置し、もう一人は地方で科学界とは完全に空間的にも社会的にも切り離されています。さらに二人が持っている知識には、一万年の時差があります。しかし……
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