【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ヒューズ

2010-12-30 17:43:08 | Weblog
今はあまり見なくなりましたが、かつてはどこの家庭にもあるいは自動車にもすぐわかるところにヒューズボックスがありました。で、過電流が流れるとヒューズが切れて(とんで)重要な器機を守るわけです。
「ヒューズが切れた!」、その時するべきことは、切れたヒューズの早急な交換ではなくて、なぜヒューズがとんだのかの原因究明のはずです。それをしなければまた同じことが再発しますから。ところが、ヒューズが何回もとぶので苛立った人は、針金で端子を結んでしまって「これでヒューズはとばないぞ」と安心してしまい、結局漏電やらなんやらで火事になる、ということが私の子供時代に何回か報道されました。で、対策は「針金はヒューズのかわりに使ってはいけません」というアナウンス。これまた(ヒューズのかわりに針金を使うのと同様)対策の方向が違っている(“真の原因”に働きかけていない)ような気がするのですが、私の勘違い?

【ただいま読書中】『ついてきなぁ! 失われた「匠のワザ」で設計トラブルを撲滅する! ──設計不良の検出方法と完全対処法』國井良昌 著、 日刊工業新聞社、2010年、2200円(税別)

「ついてきなぁ!」シリーズの一冊だそうです。見事にアメリカ流の構成(話題を単純化、繰り返しを多くする、途中にチェックリストを入れる、妙に具体的な数字で説得力アップ)のビジネス本ですが、「匠」が登場して「べらんめぇ!」などとタンカを切りながら話を進めていくのがなかなか新鮮です。
ずっと昔、欧米では日本製品は安かろう悪かろうの代名詞でした。しかしいつしか品質が向上し、安くて良いものの代名詞となりました。しかし最近では、「ありえない」と言いたくなる事故やリコールが頻発し、さらにはリコールのリコールさえ出現する有様です。
著者によると、家電品や自動車などの民需商品の場合、トラブル(想定外の故障、クレーム、事故、リコールなど)の98%は以下の3つに潜在しているのだそうです。
1)新規技術
2)トレードオフ
3)××変更
1)で「新技術=枯れていない技術」がトラブルの巣であることは直感的に分かります。そしてそれは3)の「○○を××に変更」とも大きく関係しています。それまでの何かを変えた場合、あるいは何かを変えてほかの何かを変えなかった場合、そこには自動的にトラブルの芽が内包されているのです。
2)は「設計思想」の話です。何を優先順位の一位に持っていくか、何を優先しないかを明確にした設計思想が盛り込まれた設計書があれば、トラブルを減少させることができます。しかし、日本にありがちな、優先順位を明確にせずに「何でもあり」で機能などをてんこ盛りにして製品を開発した場合、それはトラブルの巣となっています。(著者によると、日本の大きな問題点は「設計書が存在しない」ために、そもそも「トレードオフの概念」そのものが取り扱えない場合がやたらと多いことだそうです)
さらにコストの話が重要です。企業では「コストカット」は製造上の至上命題です。ところが著者は、単に部品のコストカットをするとかえって「トータルコスト」は上昇する、と「トータルコストデザイン」を提唱します。部品のコストを削ると信頼性が低下します。それはすなわち保守コストが上昇することを意味し、結局トータルコストは増えてしまうのです。逆に、部品の信頼性を向上させると、部品コストは上昇しますがそれを上回って保守コストが低減されます。しかしある限界点(著者は信頼性90%の点と述べています)を超えると、保守コストは限りなくゼロに近づきますが部品コストは急上昇し、結果としてトータルコストの上昇と過剰品質がもたらされます。

本書に述べられているトラブルを再発させない「匠」の対策法は
1)フールプルーフ設計思想
2)セーフライフ設計思想
3)フェールセーフ設計思想
4)ダメージトレランス設計思想
見ただけで見当が付くことが列挙されています。

本書には具体的な例(製品や事故)がたくさん挙げられていますが、私が面白かったのはハイブリッド車でした。プリウスとインサイト(おっと、本ではそれぞれ別の仮名になってます)の設計思想を具体的に比較して、その結果としてなぜこの車重やスペックや値段になったのか、がわかりやすく解説してあります。なるほどねえ、新聞では「ハイブリッドである」「値段が違う」「エンジンの大きさが違う」くらいしか書いてなかったけれど、それはあくまで「結果」で、それをもたらしたのは設計思想の違いだったんですね。この情報は消費者に大切なものに思えますが、マスコミはあまりそういったことには興味がないようです。新聞なんかに本当に大切な情報を期待する方が間違いなのかもしれませんが。



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