【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

聖人の称号

2012-11-08 20:30:46 | Weblog

 「○○は罪人だ」と言う場合、それを言うのが誰であれ、その判断は正しい場合も間違っている場合もあります。「○○は聖人だ」という場合、それを他人が言っている場合には正しい場合も間違っている場合もありますが、本人が「自分は聖人だ」と言っている場合には、それは確実に間違っています。

【ただいま読書中】『アインシュタイン交点』サミュエル・R・ディレイニー 著、 伊藤典夫 訳、 ハヤカワ文庫SF1148、1996年、524円(税別)

 はるかな未来。太陽は二つの惑星を捕まえて、地球は太陽から5番目の惑星になっています。人類は既に滅びていますが、その文化は別の支配種族に受け継がれていました。彼ら(人類が放射能で突然変異して生じた生物? やってきた異星人が地球の放射能で突然変異を繰り返してできた生物?)は、神話としてのビートルズを語り、コダーイのチェロ協奏曲を口ずさみます。彼らの性別は3つ。主人公は、山刀を吹いて音楽を作る能力を持つロービー。恋人であるフライザを殺され、彼女を取り返すためと仇を討つために旅に出ます。出会ったのは、ドラゴンの群れを駆り立てるドラゴン使い、海からやって来た殺し屋キッド・デス、大都会に住む人々……って、本書では、ストーリーやエピソードを追うことに、あまり意味はありません。フィネガンズ・ウェイクがお手本のようで、言葉遊びや多義性やメタファーがたっぷり散りばめられ、つぎつぎ姿を変える言葉の宇宙の中で読者は途方に暮れるのが“義務”のようです。
 訳者はあまりに複雑な原文に対して半泣きで解説を書いていますが、本当にお気の毒。私はその結果を、自分の能力が許す範囲内で楽しむだけです。これがアマチュアの特権の一つですね。古い作品なんですが、ちっとも古びていません。同じ作者の『バベル17』を突然読みたくなってしまいました。