【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

季節感

2012-11-22 09:36:49 | Weblog

 かつては「四季」がはっきりしていたように私は記憶していますが、最近は「夏」がどんどん肥大化して「春」と「秋」がどんどん削られているように思えます。今年の秋も、いつの間にか終わっちゃいました。かつて四季の間にはそれぞれ「土用」が置かれて緩衝作用を果たしていましたが(今は夏の土用が言葉だけ残っていますね)、そのうちに「春」と「秋」も今の土用と同じように形骸化して、日本は「二季の国」になってしまうのでしょうか。

【ただいま読書中】『極限の民族』本田勝一 著、 朝日新聞社、1967年、520円

 「カナダ・エスキモー」「ニューギニア高地人」「アラビア遊牧民」が収載されています。
 本書を初めて読んだとき、私は高校生でしたが、「現地の生活」のあまりの生々しさに強く感銘を受けました。
 「エスキモー」とは「生肉を食う人」と言う意味のワバナキ・インディアンの単語です。これは蔑称だとされています。でも、氷と雪の世界ですから火を使うための燃料がなく野菜も取れませんから生肉を食べるしかないのですが、ビタミンが加熱で壊されずに体に入るので、北極圏で民族が絶滅しないためのきわめて合理的な生活様式だったのです。ですから「ただの事実」。それを「蔑称」だと思う人の心の中には「蔑」があるのかもしれませんが。
 「エスキモー」に関してほとんど情報がなかったため、著者らはとにかく現地に飛びそこで情報を集めてなるべく「原始的な生活(昔と変わらない生活)」をしているを探し、そこに飛込みで訪れて居候を頼むことにします。首尾よく居候を許可されたのは、イグルーリック・エスキモーのウスアクジュ(小さなペニス)のカヤグナの家。雪洞式のテント小屋で10帖くらいの広さに10人くらい(変動あり)が暮らしています。そこにもう二人が加わったのですから、まあ混雑はすごいことに。さらにトイレも部屋の中で空き缶に済ませちゃいますから、匂いもすごい。しかし、家が狭いことには理由があります。人いきれで温度を上げる効果があるのです。ですからエスキモーの人々は、外が零下何十度でも、寝るときには裸で毛皮(あるいは布団)に潜り込みます。著者は、「北海道を除いて、日本の屋内は北極圏の屋内よりも寒い」なんて言ってます。
 サウジアラビアのベドウィンで印象的なのは、謝らないこと。ただし、何かあったときに平気で謝るのは、実は世界では少数派で「日本が異端で、ベドウィンが普遍なのではないか」と著者は述べています。
 本書が発行された頃って、「海外旅行」が特別なもので(まだ1ドルが360円でしたっけ? 日曜日の「兼高かおる世界の旅」が楽しみでした)、日本国内にはまだほとんど「海外の生の情報」が存在しない時代でした。ですからこうして実際に住み込んだ人のレポートは大変貴重なものだったのです。今、同じ所で同じことをやったら、どんなレポートになるんでしょうねえ。少なくとも「エスキモー」ではなくて「イヌイット」と書かないと、発禁処分かな。