私は一時「成果主義」の職場にいたことがありますが、これ、評価が難しいですね。たしかに「成果」を問われるのは、仕事の原動力にはなります。ただし、たとえば「他の人が仕事がしやすいように環境調整をする」「他人の失敗をフォローする」「後輩を育てる」なんて仕事はいくら頑張っても「成果ゼロ」と評価されますから、だんだんそういった“仕事”は軽視されるようになります。だから、書面上「成果」は上がっているのに、その企業の評判と職員の志気は落ちる、なんてことが平気で起きてしまいます。「管理する側」からは使いやすい制度ですが、管理される側から見たら「そんな管理の仕方しかできないのは、無能な上司の証明」としか思えない場合も多いんですよね。こういったギャップはどこの企業にもあるでしょうが、そのギャップが大きいのは駄目な企業の証拠でしょう。経営者にはそれがなかなか見えないのですが、見えないこともまた駄目さの証拠なんですよね。
【ただいま読書中】『ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社 ──日本中から顧客が追いかけてくる8つの物語』坂本光司 著、 ダイヤモンド社、2010年、1429円(税別)
まずはクイズ。本書の著者は「足のくるぶしの所にポケットがついたズボン」を見て驚きました。さて、このズボンは誰のためのものでしょう?(答えは最後に書いておきます)
本書のトップバッターは「小ざさ」。昨年6月4日に読書日記に書いた『1坪の奇跡』(稲垣篤子)のお店です。あちらの方が詳しいからここでは触れません。
福祉用具を製作している会社の所で著者は「絶対に必要な、正しい経営をしている会社だから、潰してはいけない」と言います。そこの経営者は収支度外視で顧客のために商品を開発し採算度外視で値づけをするから「正しい赤字まっしぐらです」と言って笑うのだそうです。福祉という“ニッチ”な分野でひたすら「本当に必要な仕事」を愚直に続けているから、思わず支援をしたくなるのだそうです。ただ、高齢社会では福祉は「ニッチ」ではなくなるでしょう。そのとき、利益優先の粗製濫造の会社ばかりしかなかったら、それは結局社会の損ということになってしまいそうな気がします。今から私もなにか支援ができないかな。
「日本一の名刺屋さん」にも驚きます。名刺と言ったら、そのへんの印刷屋で適当に頼んだり職場支給のを使ったりしていましたが、あの小さな紙一枚にも社会的メッセージを込めることができるのだ、と。単純に「エコをうたい文句にしたら売れるだろう」という会社とは一線を画する(というか、別次元の)姿勢を見せる札幌の会社です。自分でエコ素材を次々開発し、さらにそこに点字を打つことも可能なのですがその作業は障害者の施設に委託。だからいかにも商売が下手なのに(同業者が「自分もエコ名刺を始めたい」と言ったら、仕入れ業者から何から全部教えちゃったりするのです)全国から注文があり、しかもリピーター率が異常に高いのだそうです。
客室の年間稼働率が95~98%という驚異的な旅館は、旅館が客を選んでいます。それも現代アートで。「文化」という軸で接客をし、客もそれを求める、というのは、現在の日本の宿泊業では異色ですが、客の側から見たら「自分にぴったりの旅館」となりリピーター率が高まる、となります。迎える側も過剰な“サービス”は不要となり、その客に一番ふさわしいサービスに注力できるのです。
ワインの酒屋、高齢者による高齢者のための人材派遣会社、オリンピックでメダルを独占する砲丸を製作する会社……儲けのためではなく顧客のために働く人々が次々登場します。彼らに共通しているのは、顧客だけではなくて、従業員や地域も大切にしている姿勢です。やっているつもりではありますが、今一度自分の働く姿勢を見直したくなってしまいます。
そうそう、最初のクイズの解答です。「体が二つ折りになるくらいに腰が曲がってしまった人のためのズボン」でした。
本書からもう一つクイズを出しておきましょうか。脳性麻痺で生まれてから60年以上歩けなかった人が、初めて歩けるようになりました。はじめは数メートル、練習していたら20分以上施設の中を歩き回れるようになったのですが、さて、この人はどうやって歩行を獲得したのでしょう? 答えは本書の中にあります。