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【ただいま読書中】『ルーヴル美術館の闘い ──グラン・ルーヴル誕生をめぐる攻防』ジャック・ラング 著、 塩谷敬 訳、 未来社、2013年、2500円(税別)
全13章+終章の構成ですが、タイトルを見るとまるで戦史もののようです。「作戦と戦闘前夜」(第3章)、「ピラミッドの闘い」(4章)、「考古学上の発掘調査戦争」(5章)、「リヴォリの闘い」(6章)、「グラン・ルーヴル最初の勝利」(7章)、「チュイルリの奪回」(8章)、「美術館の革命」(10章)、「救助活動」(11章)……
1981年ミッテランがフランス大統領に就任し、著者は文化大臣に任命され芸術政策の抜本的な見直しを求められます。著者は大喜びですが、その道程は大変なものになることは容易に予想できました。たとえば「グラン・ルーヴル(ルーヴル宮大改修計画)」では大蔵省のルーヴル宮からの移転が必要になります。これはやりかたを間違えると高級官僚機構のプライドを傷つけることになってしまいそうです。
なお著者(ら)が取り組んだのは「グラン・ルーヴル」だけではありません。文化予算を国家予算の1%(!)に増額し、それを中央よりはむしろ地方に、国民のために使おうとしていたのです。ものすごくスケールの大きな“仕事”ですが、著者は大統領と公的にあるいは私的に緊密に連絡を取り合いながらビッグ・プロジェクトを進行させていきます。
建築されて老朽化が進んでいたルーブルは、大蔵省を追い出しただけでは面積が不足のため、中庭(もともと大蔵省の駐車場)の地下に新たな構造を作り出すことにします。すると採光が必要です。ではガラスの巨大な天窓を、いやもっと芸術的なかつ象徴的なものを、ということで、ガラスのピラミッドが登場します。この話を新聞だったかテレビだったかで最初に聞いたときには驚きましたが、今写真を見てもやはり驚きを感じます。委員会は真っ二つに割れ、フランスの国論も割れます。興味深いのは、単に「歴史」「文化」「美術」面での論争だけではなくて「政治(左派対保守)」もしっかりそこに盛り込まれていることです。著者に政治的に対抗する勢力の人々は、大喜びで「ピラミッド」を攻撃します。著者は世論対策として「心理戦」を開始します。これは「闘い」なのです。
興味深いのは、著者の活動が、単なる改革ではないことです。著者は「フランスの伝統」をしっかり重んじるというスジを通しています。過去を尊重する未来志向のクリエーター。なんとも複雑で魅力的な存在です。だからこそ、行動に一貫性が生まれ、反対者も最後には賛成に回るのでしょう(「攻撃」はえげつないやり方が多いのですが、立場を変えて賛成に回るときにもきちんとそれを公言する点には好感を持てます)。
美術品のコレクションと展示だけではなくて、子供のためのワークショップやコンサートなど、ルーヴルは新しく生まれ変わりました。その後の政権交代での方針変更を著者はこころよく思っていない様子ですが、それでも日本人から見たら別次元の美術館であるように思えます。日本にもこういった世界に誇る素晴らしい美術館があるといいのですが……って、その前に「闘い」が必要になるんですね。これは大変だ。