【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

白黒の黒白はつくか?

2016-02-02 06:57:42 | Weblog

 チェスは色彩的には「白と黒」の戦いです。駒は白軍と黒軍に分けられ、さらに“戦場”であるチェスボードは白と黒に塗り分けられています。ただ、単純な「正義」と「悪」の戦いではなくて、むしろ「陰と陽」の活動と捉えたら良いのではないか、と私は感じています。(もし黒が「悪魔」だったら、誰も黒は持ちたくないでしょう?) 「戦い」というよりは「陰と陽がアクティブに動く世界」を二人のプレイヤーが表現し、どちらかの敗北(またはドローの合意)で一度ゲームは中断しますが、また初期条件に戻って新しいゲームが再開されます。白黒のボードの上での白黒の複雑な駒の動き、そしてそれが何度でも(下手すると永遠に)繰り返される、それが「チェスの世界観」なのかもしれません。

【ただいま読書中】『モーフィー時計の午前零時 ──チェス小説アンソロジー』若島正 編、国書刊行会、2009年、2800円(税別)

目次:「モーフィー時計の午前零時」フリッツ・ライバー、「みんなで講義を!」ジャック・リッチー、「毒を盛られたポーン」ヘンリイ・スレッサー、「シャム猫」フレデリック・ブラウン、「素晴らしき真鍮自動チェス機械」ジーン・ウルフ、「ユニコーン・ヴァリエーション」ロジャー・ゼラズニイ、「必殺の新戦法」ヴィクター・コントスキー、「ゴセッジ=ヴァーデビディアン往復書簡」ウディ・アレン、「TDF チェス世界チャンピオン戦」ジュリアン・バーンズ、「マスター・ヤコブセン」ティム・クラッベ、「去年の冬、マイアミで」ジェイムズ・カプラン、「プロブレム」ロード・ダンセイニ
 「チェス小説」のアンソロジーですが、ライバー・ブラウン・ゼラズニイなど私にとっては「SF小説作家」も何人か含まれています。SFつながりだったら、たとえばP・K・ディック原作の映画「ブレードランナー」でもチェスが登場しますし、駒はモンスターになっていますがやはりチェスが映画「スター・ウォーズ」にも登場します。チェスそのものが西欧文化では人の文化に密着した何かの「シンボル」なのかもしれません。
 本書では、チェスそのものやチェスをプレイする人たちの物語、通信チェスの“問題点”などさまざまなテーマが扱われています。少年がチェスに出会ってその魅力に引き込まれる瞬間なんて、それだけで一つのジャンルになってしまいそうです。おっと、チェスのルールなんぞを知らなくても大丈夫。本書の一つの作品以外では、そんな知識はまったくなくてもちゃんと楽しめますから。それに、その「一つの作品」でも、少々のチェスの腕前では絶対に歯が立たないから、やはりほとんどの人は平等に楽しめるようになっています。