たまにテレビタックルなんかを見ていると、私はむかむかしてきます。それぞれの主張の内容以前に、相手の言い分に耳を貸さない/自分の言い分だけ大声でがなり立てる/相手の話を途中で遮ってきちんと最後まで言わせない、といった態度が嫌いなのです。
私は小学校で「人の話はちゃんと聞きましょう」と教わりましたが、ちゃんと小学校で学んでいない行儀の悪い人たちが日本の“オピニオン・リーダー”なの?
【ただいま読書中】『胃の病気とピロリ菌 ──胃がんを防ぐために』浅香正博 著、 中公新書2077、2010年、740円(税別)
胃の中は、胃酸によって強酸性(pH1~2)で、かつ強酸性の環境が一番得意なタンパク分解酵素ペプシンが存在することで、生物やタンパク質には過酷な環境となっています。そんな過酷な環境に耐えることができる細菌などいない、が医学の“常識”で、たまに胃粘膜に最近の姿を見つけても「それは外界から標本が汚染された」と説明されていました。それに疑問を持ったのがオーストラリア王立パース病院に勤務する病理医ロビン・ウォーレンです。彼はスピロヘータ用の染色法を応用するとそれまで見えなかった螺旋状の細菌が特に慢性胃炎の標本に多く見えることに気づきました。ほとんど誰にも相手にされない“新知見”でしたが、ウォーレンはくじけず研究を続けます。協力することになった研修医バリー・マーシャルは、その菌の培養に取り組みます。失敗続きでしたが、復活祭の休暇で偶然ふだんより長く置いておいたプレートに細菌のコロニーができたことにマーシャルは気づきます。次はその菌が病気を起こすかどうかの動物実験。ところがこれも失敗続きです。豚を使ったのですが、全然豚の胃で生えてくれないのです。ついにマーシャルは、我が身を実験台に人体実験に踏み切ります。菌の培養液を飲んで1週間、めでたく(?)急性胃炎が発生します。そしてそこには“その細菌”がうようよと。
ピロリ菌は、胃炎を起こすだけではなくて潰瘍も起こします。日本では胃潰瘍の75%、十二指腸潰瘍の95%がピロリ菌による、と言われているそうです。さらには胃がんも。世界各地の研究によってそのことがわかり、1994年にはWHOによってピロリ菌は「発ガン物質」の公式認定を受けています。
ではピロリ菌の感染経路は? 実はわかっていません。ただ、高齢者には高率でピロリ菌が見つかり、若年者では低率であることから、環境(たとえば汚染された水)から感染したのではないか、と言われています。なお、鍋を一緒につついたりキスをするくらいでは感染しないそうです。ああ、よかった。
現在のUSAは胃がんが非常に少ない国ですが、20世紀初めには胃がん大国でした。それががくんと減った原因は、なんと「電気冷蔵庫」。この文明の利器の普及によって、塩漬けや燻製など、胃がんとの関連が強いと疑われている食品摂取量が減ったことによって胃がん発生が減ったのです。しかし、日本を含む東アジアでは、電気冷蔵庫は胃がんを減らしませんでした。それは、もともと塩分摂取が多いこととピロリ菌感染が多いことによるのではないか、と推定されています。(ピロリ菌感染がある場合、食塩摂取量が多ければ多いほど胃がん発生率は高くなります)
日本での胃がん罹患率は減少傾向にありますが、これはあくまで「率」であって、「胃がんによる死者の絶対数」は減少していません。団塊の世代が胃がん世代となった今、これからが胃がん対策の本番だ、と著者は力説します。ただ、そのピークを乗り切れば、あとはピロリ菌が少ない世代が人口の主力となりますので、何もしなくても自然に胃がんは減少するはずです。日本政府は、できたら「なにもしない」で乗り切りたいようですが、胃がんを早期に発見したり、あるいはいっそヘリコバクター・ピロリを徹底的に駆除することで胃がんを予防する方が、結局進行胃がん対策に大金を注ぎ込むよりは“お得”と本書では主張されています。私はその意見に賛成です。
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私は小学校で「人の話はちゃんと聞きましょう」と教わりましたが、ちゃんと小学校で学んでいない行儀の悪い人たちが日本の“オピニオン・リーダー”なの?
【ただいま読書中】『胃の病気とピロリ菌 ──胃がんを防ぐために』浅香正博 著、 中公新書2077、2010年、740円(税別)
胃の中は、胃酸によって強酸性(pH1~2)で、かつ強酸性の環境が一番得意なタンパク分解酵素ペプシンが存在することで、生物やタンパク質には過酷な環境となっています。そんな過酷な環境に耐えることができる細菌などいない、が医学の“常識”で、たまに胃粘膜に最近の姿を見つけても「それは外界から標本が汚染された」と説明されていました。それに疑問を持ったのがオーストラリア王立パース病院に勤務する病理医ロビン・ウォーレンです。彼はスピロヘータ用の染色法を応用するとそれまで見えなかった螺旋状の細菌が特に慢性胃炎の標本に多く見えることに気づきました。ほとんど誰にも相手にされない“新知見”でしたが、ウォーレンはくじけず研究を続けます。協力することになった研修医バリー・マーシャルは、その菌の培養に取り組みます。失敗続きでしたが、復活祭の休暇で偶然ふだんより長く置いておいたプレートに細菌のコロニーができたことにマーシャルは気づきます。次はその菌が病気を起こすかどうかの動物実験。ところがこれも失敗続きです。豚を使ったのですが、全然豚の胃で生えてくれないのです。ついにマーシャルは、我が身を実験台に人体実験に踏み切ります。菌の培養液を飲んで1週間、めでたく(?)急性胃炎が発生します。そしてそこには“その細菌”がうようよと。
ピロリ菌は、胃炎を起こすだけではなくて潰瘍も起こします。日本では胃潰瘍の75%、十二指腸潰瘍の95%がピロリ菌による、と言われているそうです。さらには胃がんも。世界各地の研究によってそのことがわかり、1994年にはWHOによってピロリ菌は「発ガン物質」の公式認定を受けています。
ではピロリ菌の感染経路は? 実はわかっていません。ただ、高齢者には高率でピロリ菌が見つかり、若年者では低率であることから、環境(たとえば汚染された水)から感染したのではないか、と言われています。なお、鍋を一緒につついたりキスをするくらいでは感染しないそうです。ああ、よかった。
現在のUSAは胃がんが非常に少ない国ですが、20世紀初めには胃がん大国でした。それががくんと減った原因は、なんと「電気冷蔵庫」。この文明の利器の普及によって、塩漬けや燻製など、胃がんとの関連が強いと疑われている食品摂取量が減ったことによって胃がん発生が減ったのです。しかし、日本を含む東アジアでは、電気冷蔵庫は胃がんを減らしませんでした。それは、もともと塩分摂取が多いこととピロリ菌感染が多いことによるのではないか、と推定されています。(ピロリ菌感染がある場合、食塩摂取量が多ければ多いほど胃がん発生率は高くなります)
日本での胃がん罹患率は減少傾向にありますが、これはあくまで「率」であって、「胃がんによる死者の絶対数」は減少していません。団塊の世代が胃がん世代となった今、これからが胃がん対策の本番だ、と著者は力説します。ただ、そのピークを乗り切れば、あとはピロリ菌が少ない世代が人口の主力となりますので、何もしなくても自然に胃がんは減少するはずです。日本政府は、できたら「なにもしない」で乗り切りたいようですが、胃がんを早期に発見したり、あるいはいっそヘリコバクター・ピロリを徹底的に駆除することで胃がんを予防する方が、結局進行胃がん対策に大金を注ぎ込むよりは“お得”と本書では主張されています。私はその意見に賛成です。
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