因果性

　因果性と思われていることの多くが分析判断だ。原因に結果が含まれている。例えば落雷が原因で稲妻が発生する訳ではない。落雷は雲と地上との間での激しい放電現象であり、それは必ず稲妻を伴う。落雷という概念には稲妻が含まれており、稲妻を伴わなければ落雷ではなく単なる放電と呼ばれる。
　手を叩けば音がする。これは手を叩くことが原因で音が結果ではない。静かに両手を合わせても音はしないが強くぶつければ音がする。つまり「叩く」という動詞には「音を立てる」という概念が含まれている。実際に広辞苑を繙けば「叩く」とは「打ち合わせて音を出す」とされている。「叩く」という言葉には既に「音を出す」という意味が含まれており、真空などの特殊な条件で実施しない限り、音を立てずに手を叩くことはできない。
　江戸時代の禅僧の白隠和尚はこう言った。「両掌打って音声あり。隻手に何の音声がある？」問題提起としては面白いが論理的には無内容だ。「両掌打つ」とは「叩く」ということであり前述のとおりこれは「打ち合わせて音を出す」という意味だ。隻手では打ち合わせることさえできない。
　死んだ人は生き返らない。それは「死」の定義に基づく。生き返らないからこそ死んだとされる訳であり、もし生き返ったら仮死状態だったということだ。
　テレビなどでは割と安易に「エルニーニョ現象が原因で日本に異常気象が起こる」と言う。因果の意味を理解していないから平気でこんな間違った発言をする。エルニーニョも日本の異常気象も結果であって原因ではない。それが太陽なのかCO2なのかは知らないが他のどこかに第一原因がある。
　風邪をひけば発熱するし咳や鼻水もあるだろう。決して発熱が原因となって咳や鼻水が起こる訳ではない。これらは風邪の諸症状であって並列の関係だ。原因になるのは風邪という感染症でありその原因はウィルスだ。だから熱を下げるという対症療法では咳も鼻水も緩和されない。風邪から快復して初めてそれらの諸症状から解放される。総合感冒薬にはそれぞれに効く対症療法薬がブレンドされており、風邪そのものを治す効力も免疫力を高める効力も持っていない。風邪を治すためには体内のウィルスを増殖させないことと免疫力を高めることが重要だ。つまり休息と栄養が一番だ。
　結果や症状に働き掛けても解決には至らない。正しく原因に対処することが必要だ。