長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ザ・ランドロマット/パナマ文書流出』

2019-11-26 | 映画レビュー(ら)
 
2016年に発覚した“パナマ文書”事件を、監督のスティーヴン・ソダーバグは『トラフィック』や『コンテイジョン』で見せたポリティカルサスペンスの手法ではなく、マイケル・ムーアやアダム・マッケイ映画のようなバラエティ番組的コメディとして描いていく。租税回避マニュアル“パナマ文書”を作り上げた弁護士のモサックとフォンセカ(真っ白なスーツ姿がいかがわしいゲイリー・オールドマンとアントニオ・バンデラス)が第4の壁を突破して金の流れを僕たちに解説し、それを取り巻く世界中の鬼畜、守銭奴達のエピソードが面白おかしく語られる。中でも娘の友人との不貞行為がバレるや、家族に口止め料として株債権を渡すクソ親父のエピソードはケッサクだ(『ゲーム・オブ・スローンズ』でも金満野郎を演じていたノンソ・アノージーがここでも酷い目に遭う)。

ソダーバーグはアメリカにおける大企業への税制優遇をはじめ、パナマ文書が世界規模のモラルハザードを形成している青写真を描こうとする。しかし前述の2監督が手掛けた『ボウリング・フォー・コロンバイン』や『マネー・ショート』『バイス』のような観る者の目を開かせる驚きや発見には乏しく、背筋の凍る警鐘を発するにも至っていない。さすがの技巧派ソダーバーグもこの分野を一朝一夕には攻略できなかったようだ。

そんな本作のぎこちなさを貫通するのがソダーバーグとは初タッグとなるメリル・ストリープである。ひょんな事からパナマ文書に関わり始める田舎の主婦に扮し、思い込みと図々しさで一点突破していくオバちゃん力で笑わせる。そして映画の最後には大女優たる圧倒で場をかっさらってしまうのだ。今年はTVドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』シーズン2でもニコール・キッドマンら実力派女優陣を凌駕する怪演を見せており、どうやら現在の彼女のグルーヴがこのテンションである事が伺える。まったく、底の知れない女優である。

エンドクレジットにはソダーバーグの強い義憤も感じられる。そう遠くないうちにさらなる傑作社会派映画を撮ってくれる事だろう。


『ザ・ランドロマット/パナマ文書流出』19・米
監督 スティーヴン・ソダーバグ
出演 メリル・ストリープ、ゲイリー・オールドマン、アントニオ・バンデラス、マティアス・スーナールツ、デヴィッド・シュワイマー、ロバート・パトリック、ジェームズ・クロムウェル、シャロン・ストーン、ジェフリー・ライト、ノンソ・アノージー

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