日本にはこんな方たちがたくさんいるんですよ。その方たちとは喜び、感動を分かち合う良い仲だと申し上げたかったんです」

2024-10-22 19:06:33 | 韓国を知ろう
 

韓国の作家・朴景利の『土地』を手に、

日本の読者30人がアリランを歌った

登録:2024-10-22 00:09 修正:2024-10-22 07:44
 
10年かけ20巻全巻を日本語に完訳 
出版社、読者らが統営で訳書を献呈、記念会
 
 
今月19日午後2時ごろ、日本の読者たちが朴景利の墓を囲み、日本語版が完成した『土地』20巻をささげた。左端が共同翻訳家の一人、清水知佐子さん。その右がクオンの金承福代表=イム・インテク記者//ハンギョレ新聞社

 「先生、2014年に『土地』の日本語版(版権)の協議を終えてから、先生のお墓参りをしましたよね。あの時から完訳するのにちょうど10年かかりました。… 日本の30人の『土地』ファンが今日一緒に来ています。日本にはこんな方たちがたくさんいるんですよ。その方たちとは喜び、感動を分かち合う良い仲だと申し上げたかったんです」

 慶尚南道統営市山陽邑(トンヨンシ・サニャンウプ)の朴景利(パク・キョンニ)記念館内にある朴景利の墓の前で、日本の出版社「クオン」の金承福(キム・スンボク)代表(55)が語りかけた。大河小説『土地』の日本語版を手にした日本人たちが墓を囲んでいた。前日に降った雨がやみ、日差しが温かな19日の午後2時ごろだった。

 作家の朴景利(1926~2008)の『土地』日本語版が、翻訳開始から10年を経て完訳、刊行された。国外では初だ。韓国文学専門出版社クオンと翻訳家、日本の読者ら32人が故人を訪ね、20巻の完全版『土地』を献呈した。今年は『土地』が国内で刊行されて30周年に当たる年で、韓国のノーベル文学賞受賞元年でもある。

 金代表は「高校生の時に初めて、そして新しい話が本として出るのを待ちながら『土地』を読んだ。その高校生が成長して日本で韓国文化と韓国文学を広め、出版する仕事をしている」と思いを語った。千葉市から来た梶田暁さん(80)は、「19巻まで読んだ。前の本は2~3回は読んだ。朴景利先生から人生を学んだ」と述べ、「セタリョン」を歌った。彼らは朴景利が統営の海を眺めたという場所で、全員で記念写真を撮った。『土地』、『海』、『朴景利』を叫ぶ度に笑いが起こり、その笑い声が吹いてくる海風に乗った。

 
 
19日昼、刊行された日本語版『土地』20巻(CUON)が慶南統営山陽邑に位置する朴景利の墓にささげられた。韓国のマロニエブックスから出ている全20巻が底本=イム・インテク記者//ハンギョレ新聞社

 本の献呈式を終え、午後4時ごろに統営市内のホテルで行われた出版記念会には150人が集った。小説家の姜石景(カン・ソッキョン)さん、孔枝泳(コン・ジヨン)さんらも参加した。

 『土地』全20巻中11巻を翻訳した吉川凪さんは、「金代表が最初に翻訳を要請してきた2014年当時は、韓国文学はあまり売れないというのが日本の出版界の一般的な認識だった」として、「私は翻訳依頼を断ったと思っていたのだが、金代表が何しろしつこく連絡してきて、結局は引き受けた」と話した。そして「小さな出版社だし資金が準備できるのか、いや、版権は取れるのか(不透明で)、代表の熱意しかなかった」として、「遠回しな日本語の(断りの)表現が理解できなかったようだ」と語り、周囲を笑わせた。

 当時は嫌韓感情まで高まっていた時期だった。クオンは版権協議の翌年の2015年、ついに翻訳という大仕事に着手。共同翻訳が嫌いで、それまではやったことがなかったという吉川さんは、「やっている途中で病気になったり死んだりするかも知れないので、共同翻訳をすることになった」と言って、共同翻訳家の清水知佐子さんと笑い合った。韓国の大学院で近代文学を専攻し、崔仁勲(チェ・インフン)や李清俊(イ・チョンジュン)の作品などに加え、日本国内でたった1冊の金恵順(キム・ヘスン)の詩集を紹介した文学博士の吉川さん、大学で韓国語を専攻し、読売新聞の記者から翻訳家に転じた清水さんの翻訳チームは、こうして結成された。二人は700人にのぼる『土地』のキャラクターの人名、言葉づかい、全国八道の地名、近現代の韓国の物産に対する理解などを調整していき、今日に至った。

 
 
この9年間で『土地』を日本語に翻訳した吉川凪さん(左)と清水知佐子さん=イム・インテク記者//ハンギョレ新聞社

 とりわけ「19世紀の朝鮮の農村の情報がないため」、「一巻を翻訳するのが死ぬほど大変だった」と語る吉川さんは、「日本語版の読者の中には、『次の巻はいつ出るのか。自分の生きている間に全巻を出版してほしい』と切実に頼んでくる情熱的な読者の方々がいらっしゃった」として、「ついに完結したが、その方は生きていらっしゃるのか、元気に20巻まで読んでいただけたら」と話した。翻訳中に「何度も泣いた」と語る清水さんは、「なぜ翻訳に挑戦したのか後悔もしたけれど、作品世界に没入して陶酔感に浸ったこともあった。翻訳している間に9歳も年を取ったが、最後まで走り抜けた自分を褒めてあげたい」と話した。

 慶尚南道河東郡平沙里(ハドングン・ピョンサリ)の没落した大地主の家を再建しようとする女性チェ・ソヒを主人公に、『土地』は19世紀末から解放までの半世紀の韓国史を貫く。1969年から1994年までの25年間に朴景利が積み上げた4万枚あまりの原稿は、東学農民運動から日清戦争、満州事変、日中戦争、南京虐殺など、半島をとりまく事件の中の民衆史として激動する。今月15日に全20巻を読み終えたという日本の読者、山岡幹郎さん(74)は、「1945年8月15日で小説を終えることで、その意味を日本社会に問うている」として、「日本の読者は責任を持ってその問いに答える義務がある」と話した。8年前に第1巻を読み、今回の訪韓直前に第20巻を読み終えたという大塚慶子さん(56)も「小説の多くの登場人物が人生の尊さ、忘れてはならない韓日の歴史について教えてくれる」とし、「私の座右の書にして繰り返し読むつもり」だと語った。

 
 
韓国文学を専門に翻訳紹介する日本の出版社クオン(金承福代表)は、『土地』全20巻の完訳を記念して特別付録も出版した。写真は付録に収録されている韓国の図と平沙里の地形案内図=イム・インテク記者//ハンギョレ新聞社

 2007年の設立以来、日本に韓国文学を紹介してきたクオンの役割は、少なからず注目されてきた。同社が初めて日本に紹介した作品こそ、2011年のハン・ガンの『菜食主義者』だ。以降も『少年が来る』など3作品を紹介してきた。この日のノーベル文学賞も話題になったのは言うまでもない。統営だけでも3回以上は訪れているという神谷丹路博士(66、早稲田大学講師、韓日関係史)はハンギョレに、「『少年が来る』と『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)を読んだ。ノーベル賞を受賞するならハン・ガンだと思っていたが、こんなに早く取るとは思わなかったから本当に驚いた」と話した。吉川さんは毎日新聞の依頼で、詩人の金恵順の受賞に備えて自宅でインタビューされるのを待っていたという。

 今や『土地』もハン・ガン作品も、日本の読者はどの国よりも完全な状態で接することができる。クオンのおかげだ。この日の完訳記念会の最後に、聴衆は共に「アリラン」を歌った。

統営/イム・インテク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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検察が尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領夫人キム・ゴンヒ女史のドイツモーターズ株価操作疑惑を不起訴処分にした中、ソウルの都心では週末、尹錫悦大統領退陣を求める市民団体の集会が続いた。

2024-10-22 07:36:19 | 韓国を知ろう
 

ソウルの真ん中で「尹錫悦退陣」集会…「不安でたまらない

登録:2024-10-21 06:38 修正:2024-10-21 09:29

 

「尹退陣退陣、キム・ゴンヒ特検」求めるろうそく行動の第111回集会
 
 
ろうそく行動が19日に行われた「尹錫悦退陣、キム・ゴンヒ特検を求める第111回のろうそく大行進、10月全国集中ろうそく集会」の参加者たちがスローガンを叫んでいる=イム・ジェヒ記者//ハンギョレ新聞社

 検察が尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領夫人キム・ゴンヒ女史のドイツモーターズ株価操作疑惑を不起訴処分にした中、ソウルの都心では週末、尹錫悦大統領退陣を求める市民団体の集会が続いた。

 「ろうそく行動」は19日午後、ソウル中区市庁駅7番出口前で「尹錫悦退陣、キム・ゴンヒ特検を求める第111回ろうそく大行進、10月全国集中ろうそく集会」を開いた。崇礼門(スンレムン)方向の4車線道路約170メートルを埋め尽くした参加者たちは、このところキム・ゴンヒ女史と関連して浮上した各種の疑惑と、急激に悪化した南北関係などを指摘し、「尹大統領退陣」のスローガンを叫んだ。ろうそく行動側の推算によると、この日の集会に延べ1万2千人が参加したという。

 「イム・ソングン前海兵隊1師団長を捜査対象から外すためのロビー」に関する証拠を高位公職者犯罪捜査処に提供したキム・ギュヒョン弁護士はこの日、発言者として集会に参加し、「検察は4年以上引っぱった株価操作事件まで不起訴にした」とし、「他の金主(資金提供者)は有罪判決を受けたのに、なぜキム女史だけが株価操作を知らなかったといえるのか」と指摘した。検察が17日、キム女史のドイツモーターズ相場操縦加担疑惑についてキム女史を不起訴処分にしたことを批判したのだ。

 キム・ゴンヒ特検を求めて4日にソウル龍山区(ヨンサング)の大統領室に入ろうとして逮捕された大学生も発言を行った。「尹錫悦弾劾訴追を求める大学生時局座り込み団」のチョ・ソヨン団長は「大統領室に面会要請を行った大学生たちに拘束令状を請求し、弾劾を求める勢力は反国家勢力だという」とし、「不安で、もどかしくて、腹が立ってたまらない」と語った。

 ろうそく行動は集会決議文で、韓国政府を「沈没する難破船」に喩え、批判を強めた。特に、与党と過去の支持層まで大統領を批判する現在の状況を強調し、「皆が難破船から脱出するために騒いでいる。弾劾はもう取り返しがつかなくなった」と主張した。弾劾の理由としては、「キム・ゴンヒ特検法」に対する拒否権行使▽党務介入および中立義務違反▽強制徴用関連最高裁判決の否定▽梨泰院(イテウォン)惨事の責任放棄などを挙げた。

 参加者たちは集会後、市庁駅を出発して清渓川(チョンゲチョン)と乙支路(ウルチロ)入口駅、南大門(ナムデムン)などソウル都心を行進した。彼らは10月末から全国各地域で毎週「尹錫悦弾劾有権者大会」を開く一方、11月16日にも全国集中ろうそく大行進を開くなど、政府退陣運動を続ける計画だ。

イム・ジェヒ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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