国際商船を運航するピョン・サンス船長が先月11日、釜山国際旅客ターミナル前に停泊する船の上で、海の気候変動の現状を説明している=オク・キウォン記者//ハンギョレ新聞社
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経歴27年の商船の船長の体験「初めて出会った台風の目」
5万~7万トン級の国際商船を運航するピョン・サンス船長(46)は昨年夏(6~9月)、メキシコ湾で5回も過去最大級のハリケーンに遭遇した。さらには、乗っていた船がカテゴリー5のハリケーン「ベリル」の目に遭遇し、生死の岐路にも立たされた。気象観測史上最悪のハリケーンに襲われた怪物のような海を経験したピョン船長にとって、気候変動は「生存の脅威」だ。
先月11日に釜山港の国際旅客ターミナルで取材に応じたピョン船長は、船に乗って27年になるが「船舶が台風の目に出会ったのは初めて」だったと語った。船舶の運航過程では数多くの気象データを参考にするうえ、各地域の管制センターなどとコミュニケーションを取りつつ運航動線を決めるため、ハリケーンにまともに出会う可能性はきわめて低いというのだ。
「昨年6月末、原油を輸送するためにメキシコ湾のベラクルス港付近を航行していた時でした。北大西洋で発生した熱帯低気圧がメキシコ湾の方にやって来るというデータを目にしました。初夏は海水温度が低く、強いハリケーンに発達する可能性は低いため、経路を変える必要はないという管制官の意見などを反映して、計画通り運航しました。ところが、一晩で低気圧がカテゴリー5のハリケーンに発達し、カリブ海沿岸を廃墟(はいきょ)にしてしまったのです」
時速200キロで迫って来るハリケーンを時速30キロの船が避けるにはすでに遅かった。ハリケーンの影響圏に入ると、10メートルを超える高波が甲板を襲い、大型クレーンが倒れるほどの風速180キロの風が吹きつけた。20人あまりの船員は、甲板が曲がるほどの波と風で船が座礁するかもしれないという恐怖に襲われた。やがて30分ほど静まり返り(台風の目)、幸いその時点で大陸圏の気圧に出会ったハリケーンはカテゴリー2となり、最悪の状況は避けられた。台風の目を過ぎてからもハリケーンがカテゴリー5のままだったなら、沈没や原油流出などで甚大な被害が発生する可能性があった。
ピョン船長は、「急激な気候変動によって以前とはまったく異なる海を経験している」と話した。「ハリケーン『ベリル』も以前ならすぐ熱帯低気圧になっていたはずです。普通、6月末~7月初めは大西洋の水温が高くないので、カテゴリー4以上の強いハリケーンになる可能性は低いのですが、地球温暖化がスーパー暴風の発生時期を早めているのです。以前より海の予測が難しくなっており、備えるのが難しいから、被害は大きくならざるを得ません」
昨年7月2日、ハリケーン「ベリル」消滅前の、米ノースカロライナ州のアトランティックビーチ近海。途方もない高さの波が立っている=米国海洋大気庁のユーチューブ動画より//ハンギョレ新聞社
ベリルは記録上、初夏の6月末に発生した最も強いハリケーンとなった。米国海洋大気庁は、初夏の6月末の海水面の温度がすでに真夏後の9月の水準にまで上昇していたことで、熱帯低気圧に莫大なエネルギーが供給されたことが原因だと判断している。昨年のメキシコ湾には、初夏の気象の異変がもたらしたカテゴリー5のハリケーンに続き、フランシーヌ(カテゴリー2)、ヘリーン(カテゴリー4)、ミルトン(カテゴリー5)、ラファエル(カテゴリー3)などの強いハリケーンが押し寄せた。メキシコ湾一帯だけで350人の死者と1820億ドル(約268兆ウォン)の財産被害が発生した。
ピョン船長は、気候変動による船舶運航の困難が私たちの日常に及ぼす影響に懸念を表明した。ピョン船長は、昨年にハリケーン「ミルトン」がメキシコ湾を貫通した際、米国西部のテキサス産原油の価格が4%近く跳ね上がった例をあげた。
「台風の経路を避けて航路を数百キロ遠回りすると、その分だけ運航コストが増えます。船舶が数日間停泊していなければならない時は、船を運航する船主と物を預けた荷主が支払うコストがいずれも急増します。船長の立場としては、危険な航路を選択して運航コストを減らすべきか、毎瞬間なやみます。グローバル時代に海路が閉ざされると、その追加コストはそのまま私たち全員に降りかかってきます。気候変動に安全地帯はないと考えるべきです」
オク・キウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )