日本の脱原発団体代表
「汚染水トンネル完成しても合意のない放出は絶対にだめ」
原子力資料情報室の伴英幸共同代表
今月初め、海底約80メートルまで進捗
撹拌機や処理水ポンプも作業中
総排出量やリスクも依然として不透明
日本国内でも被ばくや産業への被害を懸念
日本の福島第一原子力発電所の沖では、いったい何が起こっているのだろうか。
日本政府と東京電力は先月4日、福島第一原発の貯蔵タンクにたまっている放射性物質に汚染された水(処理水)を海に流すための海底トンネルの工事に着手した。放射性物質を減少させる設備「ALPS(多核種除去設備)」を用いて「汚染水」を「処理水」に変えて海に流すという計画が立てられてから、ついに事前整備作業に入った。周辺国だけでなく、日本の内部においてさえ懸念が広がっている。ALPSの放射性物質除去能力がはっきりしないうえに、どれほど多くの汚染水を放出するのか特定されていない中、汚染水放出を推し進めているわけだ。
実際、東京電力はそれから約1カ月後の今月6日、80メートルあまりが完成した海底トンネルの工事現場を公開した。来年上半期ごろに汚染水の排出を強行するとの意思を曲げるつもりはないということだ。これに対し、日本の「原子力資料情報室」の伴英幸共同代表は本紙とのインタビューで、「漁業者団体との合意を得ることが必要だが、合意は得られないだろう。東電も政府も合意なしには放出しないとの約束文書を交わしている」、「技術的な面から見ると、工事はさらに時間がかかりそうで、試験をクリアすることも技術的には難しいのではないか」との見通しを示した。伴代表は国際的な名声を得ている脱原発活動家であり、日本の原子力政策に関する研究と調査を通じて「原子力に依存しない社会」を目指す日本の民間シンクタンク「原子力資料情報室」の共同代表を24年間務めている。インタビューは13日に電子メールで行われた。
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汚染水トンネル着工からすでに1カ月
-海底トンネル工事が始まって1カ月。現在どのような段階に来ていますか。
「8月4日からトンネル掘削工事が始まりました。これと並行して、タンク内の汚染水をかく拌する機器の設置工事、処理水移送ポンプなどの設置工事、海水取水のための堤防の新たな設置工事などが始まっています。それらの状況を『適時伝える』と東電は言っていますが、未だ進捗がホームページで記されていません。工事に先立ち、福島県と原発が立地している2自治体が着工への事前了解をおこなってしまいました。この翌日には市民団体が福島県庁前で抗議行動を行いました。市民グループの反対運動は今も続いています。さらに、漁業者団体は反対の姿勢を崩していません。今年度の総会においても海洋放出に反対する特別決議をあげています」
-汚染水放出は来年6月からの計画ですが、実際に放出されるのでしょうか。
「6月に放出できるためには、何よりも漁業者団体との合意を得ることが必要ですが、合意は得られないでしょう。東電も政府も合意なしには放出しないとの約束文書を交わしていますから、合意が得られないままに放出を実施することができません。また、技術的な面から見ると、6月放出には現在のさまざまな工事が予定通りに終了すること、その後に実施される試験に合格しなければなりません。福島第一原発での作業員にコロナ患者が増えていることなどを考えると、工事はさらに時間がかかりそうですし、また、試験をクリアすることも技術的には難しいのではないかと思われます」
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80メートル進捗、海の底で何が起こっているのか
今月6日に東京電力が日本のメディアに公開した工事現場を見ると、汚染水の放出のためのトンネル工事は急速に進んでいる。NHKが公開した映像では、トンネルは人と装備が十分に通れるほどの巨大な円形のコンクリート・鉄骨構造で、その中に緑がかった10本あまりの排水管が長く伸びる様子が確認できる。トンネルは着工から1カ月ですでに海側へと80メートル掘り進められている。東京電力は、福島第一原発5号機と6号機の排水路を起点として、海の下を一日当たり16メートル掘り進んでいる。トンネルは、陸から1キロ離れた場所に排出口が設けられる計画だ。東京電力は「来年春ごろの完成が目標」とし、「ただし気象条件などによって完成は夏にずれ込む可能性もある」としている。
-4月に国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長が「日本政府が準備過程で相当な進展を実現していることに満足している」と述べ、東京電力を支持するなど、海底トンネル着工以前の過程から波紋が広がっていましたが。
「IAEAの報告書は『公衆およびその他の利害関係者に情報を提供し、それらと協議することが必要』としています。利害関係者について報告書は『一般市民を代表する個人または組織、産業、公衆衛生・原子力・環境を担当する政府機関または部署、 科学機関、ニュースメディア、環境団体、並びに、検討される施設または活動の周辺に居住する地元生産者および住民など、放出によって大きな影響を受ける可能性のある特定の行動様式を持つ集団を含む』、また『他国、特に近隣国に所在する者もいる可能性がある』と定義しています。しかしながら、今日の状況は協議が十分におこなわれたとは言い難く、この点が明らかであるにもかかわらず、IAEAがこの状況を正しく評価しまいまま、進展を遂げたと判断したことは、私としては受け入れ難いものです」
-しかし、日本政府は「IAEAタスクフォースからの指摘は、原子力規制庁に補正申請された実施計画や人および環境への放射線影響評価報告書の見直しに反映され、実施計画や人および環境への放射線影響評価報告書の内容の一層の充実が図られました」とし、放出計画を推し進める根拠としています。
「2021年11月に提出した東電の放射線影響評価報告書が国内規制法でも認定している有機結合型トリチウムの影響を考慮していなかったのを、これを反映させただけであり、充実とは言い難いものです。むしろ、私たちが求めている放出総量については言及がありません。核種ごとの放出総量の公表は合意や協議の前提となるものですが、これが公表されないのは大きな問題。IAEAは東電や日本政府に放出総量の公表を求めるべきです」
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「今すぐやめさせるべき」
-汚染水の海への放出の安全性についてどう考えていますか。
「(放出される汚染水には)トリチウムを含む64の放射性核種が含まれています。(政府と東電は)単位量あたりの放出基準をクリアするまでALPSを繰り返し使用するといいますが、放出は30年以上続くことになります。海洋環境で均一に薄まり拡散していくことを想定して評価していますが、単なる計算上のことであり、実際には海底に蓄積したり、魚介類に蓄積・濃縮するでしょう。これらを食する人間の被ばくにつながります」
-汚染水放出の段階が「計画」から「実行」へと移ったわけですが。
「放射性物資による被ばくの恐れ、観光業への影響、漁業、林業、農業への影響(買い控えによる実害)などを懸念する声や反対する声が上がっています」
-いま私たちにできることは。
「東京電力と日本政府に海洋放出をやめるように声をあげること。東電や政府は世界の原発からトリチウムが日常的に放出されていると言っています。これ自体が環境の放射能汚染につながり、問題だと考えますが、これ以上に、トリチウム以外の63もの核種が放出されている事例は世界中どこを見てもありません。放出総量も明らかにせず、向こう30年以上にわたって放出が続く。これらの放射能を放出することによる海洋環境の放射能汚染を無視してはなりません」
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